それでも僕は
「……」
ロビンは、リョージが去った方をじっと見ていた。
それに、サイモンが声をかける。
「心配か?」
「え…いえ…」
取り繕うロビンを見て、サイモンはククッと笑う。
「まあ、心配だよな。
一人であそこに行くってんだから」
「あ…あの、あの人は大丈夫なんでしょうか」
「あ?」
「え、えっと…やっぱり一人でっていうのは…」
あの場所には得体の知れないモノがいる。
だからこそ、大人数のパーティでも、
おとりを使わなければ目的の者は手に入れられなかったのだ。
「そうさなぁ…、まあ俺たちがだいぶ弱らせたから、
運が良ければ逃げられるかもな」
「そう、ですか…」
安堵した様子のロビンに、サイモンは言う。
「クロルが目えつけてたんなら、
あいつも実力者ではあるんだろうが…、
お前、心配ならリョージと一緒に行くかぁ?」
「え、いえっ、あっ…」
即答してしまったことに、ロビンはバツが悪くなる。
それを見て、サイモンは笑う。
「はは、いいんだ。それで。
冒険者なんてやってたら、やばい場面なんていくらでも来る。
それをイチイチどうするか、なんて考えてたって、
仕方ねえんだって」
ロビンは、サイモンの言うことが分かったような分からないような。
そんな気持ちになって、首を傾げる。
「まあ、な。別にお前は俺と同じじゃなくていいんだ。
今は生きることだけ考えてな」
「はい…」
自分は、何て弱いのだろうと思う。
でも、そんな自分を強くしてくれるのは、
やはりサイモンしかいないと思うのだ。
「俺、サイモンさんについて行きます。
いや、行かせてくださいっ」
サイモンに初めて会ったとき、何て強い男なんだとロビンは思った。
その強さがどこから来るのかは分からないが、
独特の人生観を持っていることは確かなようだ。
自分の手を汚すこと、罪悪感の欠如、
そういった面が良いのかどうかは分からない。
そこがもしかするとサイモンの弱さと言えるのかもしれない。
常識的な人間なら眉を顰めるだろう。
でも、ロビンは生きるために常に正しくはあれないことも知っていた。
ロビンは、生きるために人の物を盗み、
食べるために小動物を狩っていた。
そういう生き方をしてきたロビンにとって、
サイモンのような存在に対する抵抗は薄い。
自分の手を汚しながらも、懐に入ったものを守る。
そんな男の生き方は、むしろ称賛に値すべきものだと思うのだ。
ただ、そう思うロビンにも逡巡はあった。
ロビンは、リョージが去った方角をちらりとみやる。
そして、ポケットに入っている布を握りしめる。
それは、効果が消えたのか、もう冷たさはない。
濡れた部分にロビンの体温が移って生温くなっているだけだ。
(…お願いします、リョージさん。
あいつを、『クロル』を助けてください…)
ロビンは、ぎゅっと布を握ると、
あのもぐりの冒険者へと念を送ったのであった。




