理不尽な思い
「おーい、ロビン大丈夫かー」
その時、大通りの方から声が聞こえてきた。
「あ…」
「チッ…」
ロビンが戻って来るのが遅いことに、ようやく仲間が気付いたらしい。
俺は思わず舌打ちをする。
「おい、あんた何やってる!」
地面にうずくまるロビンと俺を見て、
その男は声を荒げる。
「ロビン、大丈夫か?」
「あ…はい…」
顔色を悪くしながらもそう答えるロビンをみて、
やはりこいつもクロル君を追いやった側の人間なんだと認識する。
「お前…何者だ? うちのメンバーに何してやがる」
警戒心あらわにそう言う男に、
俺は怒りを通り越して冷たい感情が溢れてくる。
「…なんで、その気持ちをクロル君にむけてやらなかった…」
「あ゛?」
この男も、ロビンに対してはいい仲間なのだろう。
そう思うと、何で、という思いが止まらないのだ。
******
俺と、男の間で膠着状態が続く。
それを破ったのは、新たな人物の登場だった。
「おー、どうかしたかー」
間延びしたような声が通りに響いた。
「サ、サイモンさん…」
男とロビン君は途端に安堵した様子に見える。
この男がリーダーのサイモンなのだろう。
「…よくも、クロル君を…」
「ああ゛? 何のことだ?」
「しらばっくれるんじゃねえよ!
置き去りにしたんだろうが!」
俺の言葉に、サイモンはロビンへと目を向ける。
しかし、表情を変えないでサイモンは続けた。
「ふぅん、あんたもタラシこまれた口か?」
「何?」
「ガッシュは随分ご執心だったみたいだがなぁ。
あんたが後釜ってわけかぁ?」
「何を言って…」
サイモンは、どこか掴めない男のようだ。
俺は、ペースを持っていかれないようにと言葉を続ける。
「誤魔化すな! クロル君がいる場所を教えろ!」
サイモンは、そう言う俺を値踏みするように見る。
そして、言った。
「まあ、いいけどよ。
お前、自覚がないのな」
「は?」
「だからさ、そいつがそういう状況になったのが、
自分のせいだっていう自覚がさ」
「な、何…」
「お前、あいつとパーティ組んでやったんだろ?
何でそのあとも組んでやらなかった?」
「え…」
「あいつはよぉ、お前さんが組んでやらなかったから
俺のところに来たんだ。
こういう事態になるのも、あいつは想定内だったと思うぜ」
サイモンの言葉に、俺は思考が停止する。
「いや、違う…」
「違わねえな。あんたが目をかけていれば、
あいつは無理をして行方不明になることもなかったのになぁ」
その言葉で、俺は思う。
「…確かに、俺にもできることはあったのかもしれない」
「あ゛?」
「冒険者だから、何が起きても自己責任だと言うのも正しいと思う」
「……」
「でも、それでもお前が正しいとは俺は思えない」
俺の言葉を受けて、
サイモンはため息をつく。
「なんだ、そりゃ。理屈になってやいねえ」
「別にいい。それより場所を教えろ」
「へえ、助けに行くのか」
「ああ」
「ひとりで?」
俺は、一瞬誰かの顔が浮かんだ気がしたが、それに気づかないふりをした。
「…俺は、ソロ専門だ」
俺の言葉に、目を丸くしたサイモンは、
ひゅーっと茶化すように言った。
「ハハ、あんたおもしれえな」
そう言って、何かを取り出す。
「これは?」
「俺たちがやったクエストの地図だ。
あんたにやるよ。
もっとも、そこのバツ印に誰がいるのかは知らねえけどな」
地図には、赤いラインが引いてあり、
その終わりには×マークが書いてあった。
「…礼は、言わない」
「だな。まあ、生きてっといいけどな」
「…っ」
俺は、地図をくしゃりと握りしめて、
その場をあとにする。
去り際に、サイモンが声を上げた。
「…なあ、あんた名前は」
「…リョージ」
「リョージか。なあ、リョージ。
俺はあいつみたいなのが一番嫌いなんだ」
あいつ、というのは、クロル君のことだろう。
「守られて、そのことに気づいていないお姫さん。
そのくせ、他人を利用するだけ利用して、
自己犠牲に酔ってるだけってことに気づいちゃいねえ」
俺は、もうサイモンの言葉を聞いていなかった。
そのまま足を進める。
「…騎士は、お姫さんを救えるかな?」
だから、サイモンが言ったその言葉も
聞こえていなかったんだ。