表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/71

理不尽な思い

「おーい、ロビン大丈夫かー」


 その時、大通りの方から声が聞こえてきた。


「あ…」


「チッ…」


 ロビンが戻って来るのが遅いことに、ようやく仲間が気付いたらしい。


 俺は思わず舌打ちをする。


「おい、あんた何やってる!」


 地面にうずくまるロビンと俺を見て、


 その男は声を荒げる。


「ロビン、大丈夫か?」


「あ…はい…」


 顔色を悪くしながらもそう答えるロビンをみて、


 やはりこいつもクロル君を追いやった側の人間なんだと認識する。


「お前…何者だ? うちのメンバーに何してやがる」


 警戒心あらわにそう言う男に、


 俺は怒りを通り越して冷たい感情が溢れてくる。


「…なんで、その気持ちをクロル君にむけてやらなかった…」


「あ゛?」


 この男も、ロビンに対してはいい仲間なのだろう。


 そう思うと、何で、という思いが止まらないのだ。

******


 俺と、男の間で膠着状態が続く。


 それを破ったのは、新たな人物の登場だった。


「おー、どうかしたかー」


 間延びしたような声が通りに響いた。


「サ、サイモンさん…」


 男とロビン君は途端に安堵した様子に見える。


 この男がリーダーのサイモンなのだろう。


「…よくも、クロル君を…」


「ああ゛? 何のことだ?」


「しらばっくれるんじゃねえよ!


 置き去りにしたんだろうが!」


 俺の言葉に、サイモンはロビンへと目を向ける。


 しかし、表情を変えないでサイモンは続けた。


「ふぅん、あんたもタラシこまれた口か?」


「何?」


「ガッシュは随分ご執心だったみたいだがなぁ。


 あんたが後釜ってわけかぁ?」


「何を言って…」


 サイモンは、どこか掴めない男のようだ。


 俺は、ペースを持っていかれないようにと言葉を続ける。


「誤魔化すな! クロル君がいる場所を教えろ!」


 サイモンは、そう言う俺を値踏みするように見る。


 そして、言った。


「まあ、いいけどよ。


 お前、自覚がないのな」


「は?」


「だからさ、そいつがそういう状況になったのが、


 自分のせいだっていう自覚がさ」


「な、何…」


「お前、あいつとパーティ組んでやったんだろ?


 何でそのあとも組んでやらなかった?」


「え…」


「あいつはよぉ、お前さんが組んでやらなかったから


 俺のところに来たんだ。


 こういう事態になるのも、あいつは想定内だったと思うぜ」


 サイモンの言葉に、俺は思考が停止する。


「いや、違う…」


「違わねえな。あんたが目をかけていれば、


 あいつは無理をして行方不明になることもなかったのになぁ」


 その言葉で、俺は思う。


「…確かに、俺にもできることはあったのかもしれない」


「あ゛?」


「冒険者だから、何が起きても自己責任だと言うのも正しいと思う」


「……」


「でも、それでもお前が正しいとは俺は思えない」


 俺の言葉を受けて、


 サイモンはため息をつく。


「なんだ、そりゃ。理屈になってやいねえ」


「別にいい。それより場所を教えろ」


「へえ、助けに行くのか」


「ああ」


「ひとりで?」


 俺は、一瞬誰かの顔が浮かんだ気がしたが、それに気づかないふりをした。


「…俺は、ソロ専門だ」


 俺の言葉に、目を丸くしたサイモンは、


 ひゅーっと茶化すように言った。


「ハハ、あんたおもしれえな」


 そう言って、何かを取り出す。


「これは?」


「俺たちがやったクエストの地図だ。


 あんたにやるよ。


 もっとも、そこのバツ印に誰がいるのかは知らねえけどな」


 地図には、赤いラインが引いてあり、


 その終わりには×マークが書いてあった。


「…礼は、言わない」


「だな。まあ、生きてっといいけどな」


「…っ」


 俺は、地図をくしゃりと握りしめて、


 その場をあとにする。


 去り際に、サイモンが声を上げた。


「…なあ、あんた名前は」


「…リョージ」


「リョージか。なあ、リョージ。


 俺はあいつみたいなのが一番嫌いなんだ」


 あいつ、というのは、クロル君のことだろう。


「守られて、そのことに気づいていないお姫さん。


 そのくせ、他人を利用するだけ利用して、


 自己犠牲に酔ってるだけってことに気づいちゃいねえ」


 俺は、もうサイモンの言葉を聞いていなかった。


 そのまま足を進める。


「…騎士は、お姫さんを救えるかな?」


 だから、サイモンが言ったその言葉も


 聞こえていなかったんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ