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それぞれのクエスト

 僕は、冒険者だ。


 冒険者は冒険者ギルドに登録する。


 冒険者ギルドには、様々な依頼が寄せられる。


 ギルドに寄せられた仕事をこなすことで、報酬を得るのだ。




******


「おい、これ・・・」


「うおっ! 珍しいな・・・」


 クロルがギルドの前に着くと、なぜか人が集まっていた。


 どうやら掲示板に何かあるようだが・・・。


「どうかしたんですか?」


「あ? ああ・・・、王都の貴族様から依頼が来てるんだよ」


「え?!」


 クロルは驚いた。


 ここに貼られる依頼で大きいものっていえば、


 商業ギルドからの採集の依頼だったり、


 冒険者ギルドから直接出ている討伐クエストくらいだ。


 貴族から直接依頼なんて形、クロルは初めて見たのだった。



「こりゃあ、報酬もいいけどなぁ・・・」


「ああ、危険な上に期限付きとはな・・・」


 内容はモンスターの討伐らしい。


「こういうのは、王都の連中の仕事じゃねえのか?」


「放っとけよ」


 モンスターが出る場所は、街から距離がある。


 こういった問題は、街に危険がない限りギルドは関与しない。


 王都のギルド員か、フリーの冒険者、それか王が所持する軍が出張ることもある。


 それが、今回こういう形で依頼が来るということは、これはいわゆる地雷なのだった。


 貴族の個人的な依頼というのは、はっきり言って道楽のことが多い。


 金に物を言わせて、無理難題をふっかける。


 冒険者を駒のように扱うから、冒険者はこういう依頼を敬遠する。


 いくら、報酬が良くてもだ。


 普段は粗暴なように見える冒険者にも、


 プライドはあるのだ。


 だから、いつものように今回も流れるだろう、とその場にいた者は思っていた。


 みんなが遠巻きに依頼書を眺めているなかで、


 しかし、依頼書に手を伸ばした人物がいた。


「おい、俺たちはこれを受けるぜ!」


 それは、上位ランカーのサイモンだった。


 周りは一気にざわざわと騒ぎ出す。


「マジかよ」


「そういやあ、あいつ最近金回りが良くないとか聞いたぜ」


 勝手にいろいろな憶測を飛ばす者たちを、


 サイモンは一睨みで黙らせた。


 

 そこにいた者たちは、サイモンが依頼を受けると分かって散っていく。


 そんななか、クロルはその場を動けないでいた。


 サイモンは柄が悪いから気を付けるようにと、ガッシュが言っていた。


 だが、そのガッシュも、もうここにはいない。


 大丈夫、もう少しの辛抱だ。


 これまでだって、うまくやってきたじゃないか。



「あ、あの・・・!」

 

 クロルはドクドクとうるさい胸を押さえながら、


 その集団に声をかける。


「なんだぁ? お前」


 サイモンの取り巻きらしき男がぎろりと睨んでくる。


 クロルは怯みそうになったが、ここで引くわけにはいかないとお腹に力を入れて言う。


「お、俺も、参加させてもらえませんか!」


「あぁ゛?」


「お前見ない顔だな。新人か?」


「は、はい・・・」


「やめとけやめとけ! お前みたいなひよっこじゃ、足引っ張るだけだからよ!」


「うっ・・・」


 目つきの悪い男がクロルを突き飛ばした。


 地面に転がるクロル。


 さらに、もう一撃加えようと足を上げる取り巻き。


 クロルは衝撃に備えて身を固くする。




「まあ、待てよ」


 その時、意外にも声を上げたのは、集団の中心にいたサイモンだった。


「お前、本当に参加したいのか?」


「は、はいっ」


 クロルは、縋るような思いで頭を下げる。


「お願いします! 一緒に行かせてくださいっ」


「そうさなあ・・・、まあ、いいぜ」


「ほ、本当ですか?!」


 サイモンの言葉に、周囲はいきり立つ。


「サイモンさん! いいんですか?!」


「そうっすよ! こんな弱っちそうなやつ!」


「まあ、黙ってろよ。


 なあ、坊主。お前には何ができる?」


「え・・・っと、後方からのサポートなら・・・」


「そうか・・・それはあいにく間に合ってるんだよなあ」


「あの! 荷物持ちでも何でもします! お願いしますっ」


「ふぅん、何でも、ねえ・・・」


 サイモンはちらりと他のメンバーを見る。


 そして、意味ありげに視線を交わすと、クロルに向き直って言った。


「よしっ! よく言った。分かった、入れてやるよ」


「ありがとうございますっ」


「お前、名前は?」


「クロルです!」


「よし、クロル。仲良くやろうや・・・」


 こうして、サイモンたちに連れられてクロルはギルドへと入っていく。


******


 その頃のリョージは。


「よーし、いい子だー、チッチッチ・・・」


「グ・・・?グル・・・・・・」


「そうそう、こっちの箱に入ってねー・・・・・・


 って、こらっ!」


「フシャンッ!」


 バッサバッサと飛び立っていく、はぐれドルーナ。


「ああ゛~。また逃げられたー」


 逃げ出したドルーナの捕獲クエストを行っていた。


「また罠作り直さなきゃなあ・・・」


 

 冒険者ギルドには、様々な依頼が寄せられる。


 大口の団体とか、ギルドから直接とかが多い。


 だが、中には、街の人から直接依頼が来ることもある。


 今回はそのパターンだった。


 資産家が飼っていたドルーナが、街の外に逃げ出したというのだ。


 それを捕獲するのがクエスト内容だった。



 リョージはドルーナの群れのなかに、それらしき個体を発見した。


 依頼書には、「つぶらな瞳をしている」とか、


「名前はピッチです」、とか書かれていたがそれはあまり役に立たなかった。


 決定的だったのは、後ろ脚についた細いチェーンだった。


 普通はシュギとかソウチュとかに着けるものだろう。


 というか、ドルーナをペットにする人が稀だし、


 そもそも専用の物なんてあるのかすら分からないが。


「ふわぁ~、これは野宿かなあ・・・」


 こういった依頼は長期戦である。


 日をまたぐことも珍しくはない。


 一度街に戻って出直すという手もあるが、それだと時間がもったいないし、


 下手をするとせっかく見つけたターゲットを見失う恐れもあった。


「何日かかることやら・・・」


 リョージは、赤く変わりつつある空を見てため息をついたのだった。

 

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