それぞれのクエスト
僕は、冒険者だ。
冒険者は冒険者ギルドに登録する。
冒険者ギルドには、様々な依頼が寄せられる。
ギルドに寄せられた仕事をこなすことで、報酬を得るのだ。
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「おい、これ・・・」
「うおっ! 珍しいな・・・」
クロルがギルドの前に着くと、なぜか人が集まっていた。
どうやら掲示板に何かあるようだが・・・。
「どうかしたんですか?」
「あ? ああ・・・、王都の貴族様から依頼が来てるんだよ」
「え?!」
クロルは驚いた。
ここに貼られる依頼で大きいものっていえば、
商業ギルドからの採集の依頼だったり、
冒険者ギルドから直接出ている討伐クエストくらいだ。
貴族から直接依頼なんて形、クロルは初めて見たのだった。
「こりゃあ、報酬もいいけどなぁ・・・」
「ああ、危険な上に期限付きとはな・・・」
内容はモンスターの討伐らしい。
「こういうのは、王都の連中の仕事じゃねえのか?」
「放っとけよ」
モンスターが出る場所は、街から距離がある。
こういった問題は、街に危険がない限りギルドは関与しない。
王都のギルド員か、フリーの冒険者、それか王が所持する軍が出張ることもある。
それが、今回こういう形で依頼が来るということは、これはいわゆる地雷なのだった。
貴族の個人的な依頼というのは、はっきり言って道楽のことが多い。
金に物を言わせて、無理難題をふっかける。
冒険者を駒のように扱うから、冒険者はこういう依頼を敬遠する。
いくら、報酬が良くてもだ。
普段は粗暴なように見える冒険者にも、
プライドはあるのだ。
だから、いつものように今回も流れるだろう、とその場にいた者は思っていた。
みんなが遠巻きに依頼書を眺めているなかで、
しかし、依頼書に手を伸ばした人物がいた。
「おい、俺たちはこれを受けるぜ!」
それは、上位ランカーのサイモンだった。
周りは一気にざわざわと騒ぎ出す。
「マジかよ」
「そういやあ、あいつ最近金回りが良くないとか聞いたぜ」
勝手にいろいろな憶測を飛ばす者たちを、
サイモンは一睨みで黙らせた。
そこにいた者たちは、サイモンが依頼を受けると分かって散っていく。
そんななか、クロルはその場を動けないでいた。
サイモンは柄が悪いから気を付けるようにと、ガッシュが言っていた。
だが、そのガッシュも、もうここにはいない。
大丈夫、もう少しの辛抱だ。
これまでだって、うまくやってきたじゃないか。
「あ、あの・・・!」
クロルはドクドクとうるさい胸を押さえながら、
その集団に声をかける。
「なんだぁ? お前」
サイモンの取り巻きらしき男がぎろりと睨んでくる。
クロルは怯みそうになったが、ここで引くわけにはいかないとお腹に力を入れて言う。
「お、俺も、参加させてもらえませんか!」
「あぁ゛?」
「お前見ない顔だな。新人か?」
「は、はい・・・」
「やめとけやめとけ! お前みたいなひよっこじゃ、足引っ張るだけだからよ!」
「うっ・・・」
目つきの悪い男がクロルを突き飛ばした。
地面に転がるクロル。
さらに、もう一撃加えようと足を上げる取り巻き。
クロルは衝撃に備えて身を固くする。
「まあ、待てよ」
その時、意外にも声を上げたのは、集団の中心にいたサイモンだった。
「お前、本当に参加したいのか?」
「は、はいっ」
クロルは、縋るような思いで頭を下げる。
「お願いします! 一緒に行かせてくださいっ」
「そうさなあ・・・、まあ、いいぜ」
「ほ、本当ですか?!」
サイモンの言葉に、周囲はいきり立つ。
「サイモンさん! いいんですか?!」
「そうっすよ! こんな弱っちそうなやつ!」
「まあ、黙ってろよ。
なあ、坊主。お前には何ができる?」
「え・・・っと、後方からのサポートなら・・・」
「そうか・・・それはあいにく間に合ってるんだよなあ」
「あの! 荷物持ちでも何でもします! お願いしますっ」
「ふぅん、何でも、ねえ・・・」
サイモンはちらりと他のメンバーを見る。
そして、意味ありげに視線を交わすと、クロルに向き直って言った。
「よしっ! よく言った。分かった、入れてやるよ」
「ありがとうございますっ」
「お前、名前は?」
「クロルです!」
「よし、クロル。仲良くやろうや・・・」
こうして、サイモンたちに連れられてクロルはギルドへと入っていく。
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その頃のリョージは。
「よーし、いい子だー、チッチッチ・・・」
「グ・・・?グル・・・・・・」
「そうそう、こっちの箱に入ってねー・・・・・・
って、こらっ!」
「フシャンッ!」
バッサバッサと飛び立っていく、はぐれドルーナ。
「ああ゛~。また逃げられたー」
逃げ出したドルーナの捕獲クエストを行っていた。
「また罠作り直さなきゃなあ・・・」
冒険者ギルドには、様々な依頼が寄せられる。
大口の団体とか、ギルドから直接とかが多い。
だが、中には、街の人から直接依頼が来ることもある。
今回はそのパターンだった。
資産家が飼っていたドルーナが、街の外に逃げ出したというのだ。
それを捕獲するのがクエスト内容だった。
リョージはドルーナの群れのなかに、それらしき個体を発見した。
依頼書には、「つぶらな瞳をしている」とか、
「名前はピッチです」、とか書かれていたがそれはあまり役に立たなかった。
決定的だったのは、後ろ脚についた細いチェーンだった。
普通はシュギとかソウチュとかに着けるものだろう。
というか、ドルーナをペットにする人が稀だし、
そもそも専用の物なんてあるのかすら分からないが。
「ふわぁ~、これは野宿かなあ・・・」
こういった依頼は長期戦である。
日をまたぐことも珍しくはない。
一度街に戻って出直すという手もあるが、それだと時間がもったいないし、
下手をするとせっかく見つけたターゲットを見失う恐れもあった。
「何日かかることやら・・・」
リョージは、赤く変わりつつある空を見てため息をついたのだった。




