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番外編 ある日のリョージとファイ

pixivで上げてたものをおまけで入れてみます。

 リョージは、クエストの報告のためにギルドへと向かっていた。


 今回のクエストは、街の中での簡単なものであった。


 しかも予定していたよりも早く終わった。


 だから、リョージはいつもお世話になっているファイに


 お土産を持っていこうと思ったのである。


「ファイさんは何が好きなんだろう」


 考えてみれば、ファイのことをよく知らないことに気づいたリョージ。


「うーん、ちょっと色々見て回るか」


 リョージは、商店を廻ってみることにしたのであった。


******


「おー、いろいろあるな」


 リョージは商店が立ち並ぶ通りへと来ていた。


 普段は自分の食料だとか、ちょっとした日常のものを買うのに訪れたりする。


 といっても、自分で料理などすることもまれだし、


 出来合いのもので済ませることが多かったが。



 この街には商業ギルドもあるので、


 割とお店は充実していたりする。


 小さな街だが、不便はないのだ。



「うーん、食べ物か…?


 でも、何が好きとか知らないしな…」


 ファイとリョージの付き合いは、ほぼ冒険者ギルドの中でである。


 窓口を介して話す程度であり、


 だとすれば、お互いの好みを知らないのも当然ではあった。


「でも、ファイさんが差し入れてくれるものって、


 俺の好みドンピシャなんだよな…」


 たまにファイから差し入れをもらうリョージ。


 そのときのリアクションなどで、自分の好みはファイに知られているのではないか、と思う。


 リョージは、もっとファイのことを知っていこうと思ったのであった。


******


 色々考える中で、リョージは一つ思い出したことがあった。


 一度相談に乗ってもらったときに、


 ギルドの控室でお茶を出してもらったことがあったのだ。


 ファイの淹れてくれたお茶はとても美味しかった。


「じゃあ、茶葉…かな…」


 他に良さそうなものも思いつかなかったリョージ。


 とりあえずそれっぽいものが売っている店を探してみることにしたのだった。



 行商が商いをしている中に、それっぽい店を発見したリョージ。


 しかし、


「うーん、よく分からん」


 置いてある茶葉らしきものは、見ただけでは種類が分からない。


 そして、細かな説明なども書いていないし、


 あのお茶がどれなのかも分からない。



 リョージがうんうん唸って見ていると、


 行商の商人が声をかけてきた。


「兄ちゃん、何が要りようで?」


「あー、お世話になっている人に何かあげたいと思って…」


 そう言いつつ、リョージは困っていた。


 こういうとき、何と言って説明すればいいか。


 意外に口下手なところもあるリョージは、どう説明するべきか悩んでいた。


 そんななかで、助け船を出したのは


 隣の店の商人だった。


「その人は、どんな人なんだい?」


「えー…っと、髪が長くて…」


「ふんふん」


「いつも、俺を助けてくれて…」


「ほぉー」


「俺にとってなくてはならない人だと思います…」


 ファイのことを思い浮かべて、思ったままのことを言ったリョージ。


 それを聞いた商人の二人が、のろけを聞いたと


 にやにやとしていることにも、


 考えに耽っていたリョージは気付いていなかった。


******


「じゃあ、どうして茶葉がいいと思ったんだい?」


「以前、淹れてもらったお茶が美味しくて。


 何をあげたらいいか思いつかなくて、


 それで、そのお茶なら一緒に飲んだので間違いないと思ったんですけど…」


「なるほどねー」


 リョージの曖昧な話にも、商人は話を聞いてくれた。


 リョージが、相手の好きなものが分からず困っている、ということも


 これまでの人生経験から察することができていた。


 商売人の人間観察力を舐めたらいけないのである。




「分かった! あんちゃんは、あんちゃんの好みの茶を買っていきなよっ」


 明るい顔でバンバンとリョージの肩を叩く商人に、


 リョージは目を丸くする。


「え…でも、俺が好きなものって…。それをあげても喜ばないんじゃ…」


 リョージが疑問に思うのも当然である。


 リョージはファイへの手土産を買うのであって、


 自分への好みのものを上げてもファイが喜ぶとは限らないと考えるのが普通だろう。


 そんなリョージの考えを分かったうえで、


 商人は、チッチと指を振りながら答える。


「いいんだよ。あんちゃんが美味しいって思うものを買ってって、


 それをその人に渡してこういうんだ。


 『これで、一緒にお茶をしませんか』ってね」


「え…なんで、ですか?」


 リョージがきょとん、とした顔をしているので、


 商人は、この若者は相当鈍いやつだと当たりをつける。

 

 だが、そんな彼を応援したいという老婆心が湧いて来て


 余計にやる気にもなる。


「それで、絶対相手は喜ぶから。


 その人を喜ばせたくて買いに来たんだろ?」


「は、はいっ」


「なら、そうしな。ねえ、このあんちゃんに色々試飲させてやんなよ」


 隣の商人の勢いにため息をつきながらも、


 割と乗り気になっている茶葉の店の主。


「おし、分かった。


 こんなこと普段じゃやらねえんだからな。


 あんちゃん、感謝しろよ~」


「あ、ありがとうございます」


 何だか分からないが、自分では土産を選べないと思ったリョージ。


 ここは、詳しそうな二人に任せようと思ったのであった。



******


 

「ふぅ、こんなところかね」


「あ、ありがとうございましたっ」


 色々な種類の茶葉を試させてもらったリョージ。


 結局飲みやすいものをいくつかブレンドしてもらった。


「兄ちゃん、うまくやんなよ」


「は、はい」


 何をうまくやるのか分からなかったリョージだったが、


 人に物を渡すのも緊張するものだし、


 その辺りのことを言われたのだろうと推測した。


 なんて親切な人だろう、と


 この店を選んでよかったと思うリョージなのだった。



******



「ちょっと、ちょっとあんちゃん」


「はい?」


 会計を済ませてそのまま立ち去ろうと思っていると、


 隣の商人に呼び止められる。


「何ですか?」


「よかったら、うちでも何か買っていってよ」


 見ると、隣の店は装飾品を売っている店のようだ。


「うーん、俺はあんまり…」


 商品は、女向けのものが多い感じだ。


 元よりアクセサリーに興味のないリョージは、


 何とも言えない顔をしたのだが。


「あんたじゃなくて、そのお世話になってる人に渡せばいいだろう?」


「え、ファイさんに…?」


「その人、髪が長いんだろ?


 だったら、この辺なんてどうだい?」


 そう言って、店主は髪につけるものを広げ始める店主。


「でも…」


「あんちゃんの将来のために、安くしとくからさ」


「は、はい…?」


 これを買うことがどう、将来に影響してくるのか、


 リョージには分からなかったが、まあそれも売り文句の一つなのだろうと、


 深く考えるのをやめる。


「どうだい? 似合いそうなものはあるかい?」


「似合いそう…?」


 確かに、キラキラとしたそれらはファイの髪につけたら映えそうである。


 だが、女物をあげてもファイは喜ばない気がするな、とリョージは思う。


「あ」


 そんななか、リョージはある一つの髪留めに目がいった。


 それは、シンプルなデザインで男性がつけていても


 おかしくはない感じであった。


 碧の小さな石がはまったそれは、ファイに似合いそうだとリョージは思った。


「それにするかい?」


「は、はい」


 勢いにまかせて買ってしまったが、この人のおかげで土産が選べたわけだし、


 まあいいかと思うリョージ。


「おまけして、これつけとくから。


 こっちはあんちゃんが使いな」


「あ、ありがとうございます」


 店の人は、髪留めと同じような石がついた小物入れをつけてくれた。


 腰から下げられるように紐もついている。


 ちょっとしたものをいれるのに使えそうだ。


「お幸せにー!」


 二人の商人が見送ってくれるのを背に、リョージはファイの待つ


 冒険者ギルドへと足を向けたのであった。


******


「リョージさん、おかえりなさい」


「ファイさん、ただいま」


 リョージは、クエストの報告をいつものように済ませる。


「はい、以上ですね」


「はい。…あの、ファイさん」


「はい?」


 なぜかもじもじとしているリョージ。


 それを不思議そうな顔をして見ているファイ。


「リョージさん、どうしました?」


「あ、あの…これっ」


 リョージは、思い切ってカウンターに買った品物を置いた。


「これは?」


「あ、あの、いつものお礼、というか…」


 こういったことには慣れていないリョージ。


 しどろもどろになっている。


「開けても?」


「はいっ」


 ファイは、包みを開けていく。


「これは…茶葉ですね」


「はい、以前淹れてもらったのが美味しくて。


 …また、淹れてもらえませんか?」


 リョージは、こういう時何を言ったらいいのか分からずに、


 商人に言われたことをそのまま言った。


 すると、ファイは、一瞬固まったあと、


 なぜか後ろを向いてしまう。


 その顔は真っ赤であり、リョージからは見えてはいない。


 たまたまそばを通りかかったギルドマスターの男が見て、


 持っていた承認印をぽろりと床に落としていた。


「あ、あと…これも」


 リョージは、いそいそと髪留めを取り出す。


「リョージさん、これは?」


「あ、事務作業のときにでも使ってもらえたらと思って」


 リョージは、ファイが書類仕事をしているときに、


 後れ毛が垂れてくるのを手で直している姿を何度か目撃していた。


 買ったときにはあまり考えていなかったが、


 そういうときに使って役に立てればと思ったのだ。


「あの、もし使わなかったら捨てるなり


 誰かに回してもらっても…」


 ファイが何も言わないので、リョージは心配になってそう言ったのだけど。


「いえ、家宝にします」


「え?」


「リョージさん、ありがとうございます」


「あ、はい…」


 こんなことで喜んでくれるなら、買ってよかった。


 リョージはあの商人二人に感謝するのであった。


「リョージさん、お茶を淹れてみますので、


 よかったらどうぞ」


「あ、ありがとうございます。いただきます」



 こうして、リョージとファイは奥の部屋で二人、


 お茶に興じたのだった。


 お茶は、ファイの口にもあったようで、


 ファイが出してくれたお茶うけと共に、


 二人は暖かい時間を過ごしたのだった。

 

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