レナードという男
リョージは、何でいきなりレナードが家族の話を始めたのか分からなかった。
けれど、隙を見れば家族ののろけ話を始めたいタイプの人間はいるし、
きっとレナードもそうなのだろうと、リョージは結論付けていた。
そして、レナードと出会ったことで、
リョージはファイの過去についても考えてみる。
それまでは、ファイはファイであって、
自分を助けてくれる冒険者ギルドの受付係であったのだ。
だが、ファイにも過去がある。
その過去を自分は知らなくて、レナードは知っている。
そのことに、少し引っかかるものを感じるリョージ。
「リョージさん?」
「あ、いえ、何でもないです。
それで、本題って?」
ファイの言葉で現実へと戻ってきたリョージ。
慌てて二人に向き直る。
「ダッダのことは心配いらねえよ。
上には報告しねえし、上手くやっとくから」
いたずらっぽくそう言うレナードに、リョージは顔が熱くなる。
自分で引き起こしてしまった失態を、
レナードは知っていると思うと居心地が悪い。
「恐れ入ります…」
「はは、おもしれえな。やっぱり」
やっぱり、というのが何を指しているのかリョージは分からなかったが、
それについて言及する間もなく、話は進んでいく。
「リョージさん、今回のクエストの手続きはこの男が行います」
「え? ファイさんじゃないんですか?」
リョージは単純に驚いてそう言ったのだ。
今までクエストの手続きはファイが全て行ってきたのである。
だから、ファイ以外の人がやるというのが初めてなのだ。
「クク、悪いな、俺で」
「いえ、そういう意味で言ったわけでは…」
「ごほんっ」
からかうレナードに、ファイは咳ばらいをする。
それを意に介したでもないが、一応やめたレナード。
「クク、悪い。なんか構ってやりたくなっちまって」
「は、はぁ…」
悪びれない様子で言うレナードに、リョージは曖昧に答える。
どうやら、ギルドマスターは、
冒険者をまとめているというだけあって、
何だが癖のある人物のようであるとリョージは思った。