もやもや
「はは、見えねえか?」
「あ、いえ…」
というか、リョージはここに通っていて、
これまでギルドマスターに会ったことが無かったということに
今更ながら気づいてしまった。
ここまで通っていて、ギルドマスターに会ったことがないというのも
何だが不思議な気がするが、
そんなことを考えているリョージにファイは言った。
「この男は影が薄いですから。
リョージさんがご存じないのも当然です」
しれっとひどいことを言うファイに、
レナードは、やれやれと肩を竦める。
「いや、大体俺がリョージ君と初対面なのは
他に理由が…、あ、いや、何でもございませんよ」
なぜか額に汗をかいているギルドマスター。
そして、またどういうわけか不機嫌な様子のファイ。
二人のやりとりを見ていたリョージは、ぽつりと言った。
「お二人は、仲がいいんですね」
何気なく言ったという感じの言葉に慌てるファイ。
「あ、リョージさん、これは違うんです。
この男とは何も…」
焦りすぎてしどろもどろになっているファイ。
それに助け舟を出したのは、レナードであった。
「あー、別に俺とこいつはそんなんじゃあねえよ」
「そんな…?」
「あ、えっとな。こいつと俺は昔たまたま出会って。
そんなツテで今こいつがここで働いてるってだけだ」
「は、はぁ…。そうなんですか?」
「ああ」
リョージは、何かがもやもやとしつつも、その正体が分からなかった。
それは、例えば自分の友人が、他の人と仲良くしているときに感じる
少しの寂しさ、疎外感のようなものにも似ている気がする。
「俺には美人のかみさんと、可愛い子供もいるから」
ほら、と言って写真を見せてくるレナード。
リョージはそれをのぞき込む。
そこに映っていたのは、レナードの言うように美人で優しそうな奥さんと
少し今より若い感じのレナード。
そして、二人の間には小さな可愛いらしい女の子が写っていたのだった。
「素敵なご家族ですね」
リョージが素直にそう言うと、レナードは嬉しそうにくしゃりと目を細める。
「だろ?! もう、毎日家に帰るのが楽しみで楽しみで・・・」
「ごほんっ」
延々とのろけ話を始めようとするレナードの空気を察して、
ファイがさりげなく止めに入った。
「あー、悪い。本題だったな」
「ええ」




