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ソロ冒険者と新人冒険者 初パーティー

 翌日…


 俺は、いつもより早めにギルドへと向かった。


 クロル君を探すためだ。


 一応掲示板に伝言を書いておいたけれど、


 読んでもらえただろうか…。




 朝早いからか、いつもより人通りは少なかった。


 ギルドの前に着くと、クロル君はすぐに見つかった。


「クロル君!」


 俺が声を上げると、クロル君がこちらに気づいてくれた。


「リョージ先輩、おはようございます!」


「おはよう。掲示板、見てくれたみたいでよかった」


 昨日、クロル君宛てにメモを残しておいたのだ。


「あの、それで用って言うのは…」


 残せる伝言って、結構短いんだ。


 だから、時間と場所くらいしか書いておけなかったんだ。


「ああ、よかったら今日一緒にクエストやらない?」


「え?」


 クロル君は、目を丸くしている。


 あれ? 


 なんで驚くんだ?


「あれ? 約束したよね?」


「え、は、はい…。すみません、ちょっと驚いたものですから」





 クロル君は辺りを警戒するように、

 

 きょろきょろと視線を彷徨わせている。


「それで、もし何も予定なかったら今日どうかな、と思ったんだけど…」


 俺の声にはっとした顔をしたクロル君。


「あ、はいっ! よろしくお願いします!」


 よかった、何だか分からないがクロル君の予定は空いているらしい。


「それで、受けるクエストなんだけど」


「はい」


「こっちで決めてもいいかな」


「あ、は、はい! 大丈夫ですっ」


 おー、なんか先輩後輩って感じの遣り取り。


 なんか新鮮だなー。



「じゃあ、行こうか」


「はいっ」


 俺たちは、ギルドの中へと入っていったのだった。





******


「ファイさん、おはようございます!」


「おはようございます、リョージさん」


 ああ、ファイさんの笑顔は癒されるなー。


「今日は早いんですね」


「あ、はいっ。あの、昨日の話をお願いしようかと」


 俺の言葉を聞いたファイさん。


 俺の後ろにいるクロル君へと視線を向ける。


 俺も後ろを振り返って見ると、クロル君は緊張しているようで顔がこわばっていた。


 いかんいかん、説明してなかったぜ。


「クロル君、俺たちが受けるクエストはファイさんに用意してもらうんだ」


 クロル君は、俺の言葉を聞いているのかいないのか、ファイさんを凝視している。


 ああ、そうだ。


 クロル君って人見知りだったよね。


 なぜか俺には発動しないみたいだから、すっかり忘れてたよ。


 ここは、俺がしっかりしないとな。


「ファイさん、今日パーティークエスト受けようと思うんですが大丈夫ですか?」


 振り返ってファイさんに聞く。


「ええ、大丈夫ですよ。


 今持ってきますから少しお待ちいただいてもいいですか?」


「はい、よろしくお願いします」


 ファイさんは、奥へと行ってしまった。




「…クロル君、大丈夫?」


 心なしか顔色の悪いクロル君に、俺は椅子を勧めた。


「あ、ありがとうございます…」

 

 クロル君は、俺の隣に腰を降ろした。


 うーむ、クロル君が人見知り発動してるの初めて見たけど、


 結構重症かもしれない。


 だって、ファイさんだよ?


 ファイさんって、人辺りめっちゃ良いけど、そういうのは関係ないのかもな。

 



 そんなことを考えていると、ファイさんが書類を手に戻ってきた。


「お待たせしました。


 こちらなんていいと思うのですが…」



 ファイさんが出してきてくれたクエストは、採集クエストだった。


 街の周りの草原に生えている薬草の採集。


「ああ、これって前に俺が受けたやつですよね」


 随分前に受けたクエスト。


 そのときも、ファイさんに勧められて受けたんだった。


「初心者向けですから、


 初心者のクロルさんにもちょうどいいかと思いまして。


 なんせ、パーティーを組んだ経験もないわけですし」


 そうだよな。


 掲示板のクエストって結構初心者にはキツイものが多いのだ。


「以前リョージさんが受けてくださったときの在庫がもう少なくなっているらしくて。


 受けてくださると、依頼主も喜ぶと思うのですがいかがでしょうか」


 

 前にこれを受けるときに聞いたのだけど、

 

 これは報酬が少ないから受ける人がいなかったんだって。



「クロル君、どうかな?」


「え…、えっと…、よろしくお願いします…」


「じゃあ、早速行こうか」


「リョージさん、こちらを」


 ファイさんが渡してくれたのは、薬草を入れるための籠だった。


「ありがとうございます。行ってきます」


「行ってらっしゃい。お気をつけて」



 ファイさんの笑顔に見送られて、俺たちは街の外へと向かったのだった。



******


「…えっと、この植物を集めてくれるかな?」


「…はい」


 なぜかクロル君の元気がない気がする。


 やっぱり街の外は怖いのかな。


「ここはモンスターっていっても危険なのはいないから、大丈夫だよ」


 そう言って、緊張をほぐそうとするが、あまり効果はないようだ。



「…この薬草はね、ポレポレ草って言うんだって。


 ある病気を治したり、呪いを解くのに使われるらしいんだけど、


 需要が少ないし保存が利かないから、市場に出回らないんだって。


 結構重要なクエストなんだ」


「そう、なんですか…?」


「そうそう。その籠いっぱいになるまで集めよう」


「はい、分かりました」


 まだ少し元気はないようだけど、クロル君は薬草を探し始めた。



 うん、大丈夫そうだ。


 ぼちぼち俺も作業を始めようかな。




******


 日が高くなってきた。


 最初は乗り気じゃなかったクロル君だったけど、手を動かすうちに夢中になってきたようだ。


 とても集中して作業している。



 …ふむ、どうしようか。


 俺が何に迷っているのかというと、モンスターのことだった。


 まだ距離があるが、モンスターが近くに来ていた。


 たぶん、ラビット系の何かだろう。


 

 モンスターを倒すことは冒険者の基本だ。


 冒険者の義務でもある。


 こうした採集クエストのときにも、モンスターは襲ってくる。


 モンスターを倒して、その素材を持ちかえれば換金してもらえる。


 それも立派な収入になるのだ。



 あれは、強羅ラビットだ。


 岩のように固い皮膚を持つウサギ。


 出くわすと、問答無用で襲ってくるような面倒くさいやつだ。



 これを倒すコツは魔法で一気にヤルこと。


 殻にこもられる前に、こちらから仕掛けるのだ。


 本当はクロル君にやってもらうのがいいんだろうけど、今日は初日だし俺がやろう。


 

 そう思った俺は、サクッと強羅ラビットを倒す。


 向こうは何が起きたか分からなかっただろうな。


 その後、残った素材を回収。


 他のモンスターが寄ってこないように後処理もしておく。


 

 クロル君も緊張していたみたいだし、


 倒すところを見られなくてよかった。




******



 クロル君の頑張りで、ポレポレ草は日が高いうちに集まった。


「クロル君、お疲れ様」


 俺は、自分が採った分もそこに合わせる。


 集めたポレポレ草は、ファイさんが渡してくれた籠に入っている。


 何でも、この籠には状態維持の力があるんだって。


 すぐに腐ってしまうようなものでも品質を保てる優れものらしい。


 長い時間は無理みたいだけどね。



「まだ日が高いうちに終わってよかったね。


 そろそろ戻ろうか」


「はいっ」


 クロル君は、一仕事終えた達成感からか爽やかな笑顔を浮かべていた。


 うん、体を動かすって気持ちいいよな。



******


「おかえりなさい」


「あ、ファイさん。ただいまー」


 ギルドに戻ると、ファイさんに迎えられる。


「これ、採ってきた薬草です」


「こんなにたくさん…、ありがとうございます」


「クロル君が頑張ってくれたおかげですよ」


 俺が話を振ると、クロル君の肩が跳ねる。


 あ、人見知りが発動しちゃったかな。


「あの、あと、これ…」


 俺は、ファイさんに包みを返す。


「いかがでしたか?」


「はい、すっごく美味しかったです」


 なんと、籠の中にはお弁当が入っていたのだ。


「よかった、ご迷惑でなかったかと思っていたのですが…」


「いえいえ、助かりました!


 お昼のこと、すっかり忘れてましたから」


 いつも俺一人だったから、適当に済ませてたんだけど今日はクロル君も一緒だったからな。


 それに、すごく美味しかった。


「もしかして、ファイさんの手作りでしたか?」


「はい・・・」


 少し恥ずかしそうにしているファイさん。


「やっぱり。ファイさんって何でもできてすごいですね!」


「いえ、そんな…。喜んでもらえたならよかったです」



******


 それから、報酬をもらった俺たちはギルドを後にする。


「あの、リョージ先輩。いただいた報酬が少し多い気がするのですが…」


「え? ああ、強羅の素材の分が入ってるんじゃないかな?」


「強羅? 素材?」


 ああ、そういえばクロル君には言ってなかった。


 もう街の中だし、クエストも終わったしいいよな。


「実は、クエストの時にモンスターがいてさ。


 クロル君集中してたみたいだから、声かけずに倒しちゃったんだ」


「え゛」


 クロル君は、愕然とした顔をしている。


 うん、やっぱりあの時言わなくてよかったかも。


「ごめん。怖がらせるつもりはなかったんだけどさ」


 クロル君はぶんぶんと首を横に振る。


「それでしたら、素材の分はもらえませんよ!

 

 僕何にもしてませんし!」


 うーん、クロル君はそう言うけどなあ…。


「でも今回はパーティ組んでたからさ。


 こういうのは、人数で割るものなんじゃないの?」


 実は俺も初めて知ったんだけどな、今回。


「そう…ですけど、いいんですか?」


「うん、もちろん」


「…あ、ありがとうございますっ」


 なぜか、すごく喜んでいるクロル君。


 あれ? 別に変な事してないよな?


「じゃあ、またね」


「はい…、今日はありがとうございましたっ」


 深くお辞儀をして帰っていくクロル君。


「うん、こちらこそありがとう…」



 俺は、聞こえていないとは思ったがそんなことを呟いていた。


 


 俺は、知らなかったんだ。


 クロル君が、この時どんな顔をしていたのかなんて…。

この話の裏話的なものを少しですが活動報告に載せておきます。

よかったら読んでみてください。

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