表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/71

事の終わりに

 ファイは、色々と心配するところはあったものの、

 

 それが杞憂であったことを知った。


 だが、それと感情とはまた別の問題なのである。


「リョージさん」


 ファイの言葉に、リョージはその手を止めた。


 リョージは、剣の露を払うとそれを鞘へと納める。


「少し汚れてしまいましたか…」


 ファイは、どこからかハンカチを取り出すと、


 リョージについた汚れをそっと拭う。


 その慈愛に満ちた表情は、とても絵になるものである。


 そして、リョージはその視線をファイへと移す。


 それまで、表情がなく、戦闘の興奮で瞳孔が開いていたリョージ。


 しかし、ファイを見てそれは柔らかなものへと変わる。


「ありがとうございます…」


 少し照れたように笑うリョージは、もういつものリョージである。


 もし、この光景を目撃していたものが他にいたとするならば、


 その異様さに戦慄していたかもしれない。


 けれど、ここには二人の他にはドルーナが一匹いるのみである。


 二人の世界は完結していた。


 

******


「今回のことは、秘密にしておきましょう」


 そう言って、辺りをきれいにするファイ。


 これをしておかないと、他の魔物が寄って来る恐れがあるのだ。


「はい、あの、ファイさん…」


「はい?」


「いえ…」


 リョージが言葉を濁すのには、理由があった。


 それは、リョージが初めて他の人に戦闘を見られたということである。


 戦っているときの自分は、何だか自分ではないようで、


 それを人に見られるという経験が初めてだったリョージは、


 今になって思うところが出てきたのである。


 そういった煩悶を、ファイは知ってか知らずか話を逸らした。


「ダッダラビットの素材を持ち帰ることができればいいんですが…、


 すみません、これがあると出所を聞かれる恐れがあるので」


「あ、そうですね」


 リョージは、はっきり言って素材の回収など意識になかった。


 だから、そういう部分を残そうという気などなかったし、


 それに気遣えるほどの余裕がなかったとも言えるのだが、


 どうせ拾える部分は少なかったことをファイは言うことは無い。


 この会話の目的は他にあって、それはうまくいっていたのだから。



 ファイは、あえてそこに触れずに普通に接することで、


 リョージの負担を軽くしようとしたのかもしれない。


 だが、それはファイにしか分からない。


 というのも、ファイはそもそもリョージの戦闘シーンに対して


 感動こそすれ、マイナスなことは思わなかったからである。


 むしろ逆。


 そのことを、たとえばファイの旧友であるギルドマスターの男などは


 見抜いていただろうが、彼はここにいないのだから


 確かめる術はない。


 リョージの心の機微をしっかりと把握しているとしても、


 ファイならばおかしくはないので、


 本人の感情とリョージへの共感はまた別だということもまたあり得る話だったからだ。



 あくまで普通の態度を取ることで、ファイはリョージに余計な気苦労をかけることを防ぐ。


 これは、ファイの思惑か否かは不明だが、


 リョージには効力を示していた。


「ファイさん…ありがとうございます」


「こちらこそ。大いに助かりましたよ」


 そう言って笑う二人を見ているのは、ドルーナのみである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ