魚げっと
「リョージさん、今助けますね」
ファイさんは、そう言って自ら川へと足を踏み入れる。
「あ…ファイさん、だめですっ」
タルグルは、水に入ると生き物に取り付く性質があるって、
確かファイさんが言っていた。
今俺にキシャーが絡みついてるのは、
俺が不用意に水の中へと入ってしまったからだ。
だから、動かなくなった魚ではなく、
俺のほうにキシャーはターゲットを移したのだ。
俺の心配した通り、キシャーは俺から離れていく。
そして、その向かう先は…
「ファイさん、逃げて…」
ファイさんは、自らを生贄に俺を救おうとしてくれているのだろうか。
俺は動けるようになったけれど、
俺から離れたキシャーは、一直線にファイさんを捕えようと
水中を進んで行っている。
俺は咄嗟にキシャーの端を掴もうとしたけれど、
遅かったみたいだ。
「ファイさんっ…」
タルグルには魔力耐性がある。
俺ももがきながら魔力で攻撃したりもしていたが、
効果は見られなかったのだ。
ファイさんも捕まってしまったらどうにもできないかもしれない。
俺は、自分の迂闊さを呪いながらその様子をただ見ていることしかできなかった。
******
――ぽーんっ…パシャンッ
「へ?」
ファイさんは、何かをキシャーに向かって投げた。
それは、きれいな放物線を描いて、
キシャーの近くに着水した。
その途端、そちらに向かって一気に飛びかかっていくキシャー。
「リョージさん、今のうちです」
「へ? は、はい…」
俺が呆然と見ている間に、ファイさんがざぶざぶと水をかきわけてやってきてくれていた。
そして、俺の手をとるとそのまま陸へと引っ張って行ってくれる。
よく見ると、もう片方の手には
俺が落としたはずの釣り竿が握られていた。
「ファイさん…あれは…?」
バタバタと暴れるタルグル。
何か獲物を抑え込んだらしい。
「先ほど捕まえた魚ですよ」
そういえば、ファイさんが捕まえた魚がなくなっている。
ということは、凍結して仮死状態になっていた魚が復活して、
それを川に投げたから俺たちは助かったということだろうか。
「ファイさん、ありがとうござ…」
俺は、ファイさんの機転に感謝しようと口を開いたのだけど。
――バチッ!!!
いつの間にか俺が持っていた釣り竿を握っていたファイさん。
何らかの魔法を糸を通して放ったらしい。
一拍置いた後。
水面にぷかりと何かが浮かんできた。
「あれ? 魚?」
では、掴んでいたタルグルはどうしたのだろうか、と思っていると。
――ぷかり、ぷかり・・・
「え? あれ?」
どういうわけか、周辺に何匹もの魚が浮かんできたのだった。
******
「あれ? ファイさん…?」
竿を握りしめていたファイさん。
そのまま糸をシュルシュルと縮めていく。
その先には、糸が切れてしまったのかタルグルの姿は無い。
ファイさんは、糸の先をじっと見つめてから、
ふいに俺の方に顔を向けた。
「すみません、加減を間違ってしまったようです」
「あ…はぁ…」
爽やかな顔で少し照れたように笑うファイさん。
俺は、そんなファイさんを見て、
ファイさんでも失敗とかするんだなぁ、とぼんやりと思ったのだった。
「拾ってきますね」
「あ、俺も手伝います」
どうせ濡れてしまったんだ、もう関係ないと
俺もずんずん川へと入っていく。
期せずしてお目当ての魚はこうしてGETできたのだった。




