あなただけですっ
「あれ?」
魚を捕まえて一つにまとまっていたはずのキシャー。
それが、再びうねうねと伸びているのが見えたのだ。
「リョージさん、早く川から上がってくださいっ」
「えっ、ファイさん?」
ファイさんが、水辺から俺の方に向かって手を伸ばしている。
俺は、何が何だか分からないが、
ファイさんの方に腕を伸ばそうとした。
…のだが。
「うわぁっ」
「リョージさんっ」
伸ばしかけた俺の腕に、何とキシャーが飛びかかってきたのだ。
******
「うっ…、げほっ」
キシャーは、枝分かれしたうねうねで
俺の身体に取り付いてくる。
「このっ…、離せっ」
ぐんぐんと伸びたうねうねは、いくら払おうとしても、
外したそばから別の場所へとしがみついてくる。
「んっ、なあっ、気持ち、わるっ」
キシャーの感触はなめくじのようで気持ちが悪い。
肌にくっつくそれを剥がそうと頑張るが、
いつの間にか自由だった方の腕にまで別のうねうねが取り付いている。
「やっ、ふぁ、ファイさん…助けてくださいっ」
一人でこの状況から抜け出すことに限界を覚えた俺は、
なぜかじっとその場で固まっているファイさんに助けを求める。
俺の声ではっと我に返った様子のファイさん。
「こほんっ、あ、りょ、リョージさんっ。
すみません、助けに行きたいのはやまやまなのですが…」
何故か渋る様子のファイさんに、俺は涙目になる。
「ファイさんっ…」
今俺を助けられるのはファイさんだけだ。
「ファイさんっ、ファイさんだけです…」
俺は、必死にファイさんを呼ぶ。
「わたし、だけ…ですか?」
「は、はいっ、だから、助けてっ」
ファイさんは、やはり何かに躊躇っていたらしい。
けれど、俺の思いが通じたのか、ぱっと顔を上げて言った。
「…分かりました。リョージさんをどうにかしていいのは私だけですからね」
「は、はいっ」
最後の方は水に耳が入ったせいでよく聞こえなかったけど、
どうやらファイさんに俺の思いは届いたらしい。




