魚回収
キシャーは魚を求めてか、うねうねと触手を伸ばし始めた。
「うおっ」
ぐんっと糸が引っ張られて、俺は慌てて糸に魔力を流す。
そうすると、糸がスルスルと伸びていき、
タルグルが自由に水の中を進み始めた。
(勝手に魚を探しに行ってくれるのは楽だな…)
釣りは、魚が餌に食いつくまで待っていなくてはならない。
そこが、釣りのだいごみなんだと釣り好きの人は言うかもしれないが、
今は時間がないのでありがたい限りだ。
少しすると、キシャーに変化が訪れた。
その四肢をぐっと縮め、ぶるんと丸まったのだ。
バシャバシャと水が跳ねる様子が見える。
「あっ、かかりましたね」
どうやら魚を捕まえたらしい。
タルグルの激しい動きに糸が伸びたり縮んだりしている。
「リョージさん、属性付与を」
「はいっ」
俺は、目を閉じて集中する。
ファイさんは、氷結で魚の動きを止めていた。
だったら、俺は…
「…行きますっ」
俺は、イメージしたものを魔力にのせる。
じんわりと体の中から何かが抜ける感覚がして、
やがてそれが糸を伝って走っていく。
一瞬水面がバチッと光ったあと、タルグルの動きは止まった。
「…なるほど、電気ですか…」
そう、俺は電気の魔法を使ったんだ。
「はい、痺れたら動けなくなるかと思って…」
「なるほど、素晴らしいです」
にっこりと笑ったファイさんに、俺は照れ臭くなる。
水の中だから、もしかしたら電気はだめかと思ったんだけど、
ファイさんが使った凍結の影響が、
魚だけで水には及んでなかったからいけると思ったんだ。
糸とタルグルの方が水よりも
魔力的なものを吸い寄せるとか固定させるとか、
もしくは魔力的な力を帯びやすいとか、
何らかの特性があるっぽいと踏んだってわけだ。
「ファイさんの指導のおかげですよ…」
俺は照れながら、魚の回収にうつる。
シュルシュルと糸を縮めさせながら、魚をこちらに手繰り寄せる。
だが、これが中々やってみると難しかった。
「んっ、…えい…こりゃっ」
ついつい変な声も出てしまうが、
それくらい糸をこちらから伸び縮みさせるというのは、
気合のいる作業なわけで。
「…よしっ」
大分こちらに近づいてきたところで、
俺は魔力を糸に注ぐのをやめる。
もう、魚は目の前なのだ。
多少濡れても構わない。
俺は、川へと足を踏み出す。
すると、離れたところで次のタルグルの準備をしていたファイさんが叫んだ。
「リョージさん、だめですっ」
「えっ?」
俺は、ファイさんの言う意味が分らなくてそのまま足を止める。
しかし、その瞬間、魚を掴んでいたタルグルがふいに獲物を離した。
せっかく捕まえた魚が流されてはいけないと、
俺は水面に漂う魚を掴んで陸へと上げた。
「リョージさんっ」
なぜかファイさんがこちらに走って来るのが見えた。
慌てた様子のファイさんに、俺は笑って返す。
「あはは、ちょっと濡れちゃいました」
流された魚を捕まえるために、川へと入ったせいで服まで濡れてしまった。
俺は、タルグルを回収して陸へ戻ろうと糸の先に目をやる。
すると…




