表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/71

転生冒険者とギルドの受付係

BLです。


俺は転生者だ。


前世の記憶がある。


ここはファンタジーな世界。


どうせだったら楽しもうと冒険者になることにした。




クエストを終えた俺は報告のためギルドに向かう。


冒険者は冒険者ギルドに入るのが決まりだ。


冒険者の仕事は大抵ギルドを通して行うことになっている。



「あ、リョージさん」


とろけるような笑顔で迎えてくれたのは受付のファイさん。


「ファイさん、換金よろしく」


「はい、お待ちくださいね」




ファンタジーの定番だと、受付は若い女の人だろう。


だが、ファイさんは男だ。


それを残念に思わなかったといえば嘘になる。


けれど、それも最初だけ。


今では受付がファイさんでよかったと強く思う。



俺がギルド登録に来てから、


ファイさんは俺に優しく接してくれた。


分からないことがあると丁寧に教えてくれる。


相談ごとも親身になって聞いてくれる。




ここに来たころ、俺はくそ生意気なガキでしかなかった。




俺はソロにこだわっていた。


前世でやっていたゲームの影響だ。


親切な先輩冒険者が


パーティーに誘ってくれることもあったが、全て断った。


そのことで、白い目で見られることになっても構わなかった。




ファイさんは俺の意見を尊重してくれた。


他の職員がパーティーを組むことを勧めるなかで、


ファイさんだけはそれをしなかった。


一人でも受けられそうな依頼を取っておいてくれて、俺に回してくれる。


難しいクエストのときは、


他の冒険者から聞いたという情報を教えてくれる。


ファイさんの協力のお陰で、ペーペーの冒険者だった俺は


ソロのままで


なんとか上級と呼ばれるランクまで上がることができたのだ。





「はい、こちらが今回の報酬ですね」


鑑定を終えたファイさんが、革袋を持って戻ってきた。


「いつもありがとうございます」


「いえいえ、こちらこそ。では、次の依頼のことなんですが・・・」


俺の依頼は、全てファイさんが取り仕切ることになっている。


いつの間にか、それがギルド内での不文律になっていた。


他の職員が窓口にいても、


俺が来るとすぐにファイさんと交代する。


まあ、俺は来た時から問題児だったから、職員からの印象も悪いんだろう。


ファイさんも職員の中で上の立場の人らしいから、忙しいだろうに。




俺ばかり対応させるのは悪いと思いながらも、


それを言い出す勇気もなかった。


だが、それとは別に、俺には言わなければならないことがあった。


「あ、あの・・・、


次の依頼はパーティーを組んでみようかと思ってます」




俺の言葉に言葉を失うファイさん。


そうだよな。


これまでぼっちだった俺だ。


そんな俺がパーティー組むとか、何の冗談だと思うよな。


「・・・すみません、よく聞こえなかったのですが。


何とおっしゃいましたか?」



ギルドは荒くれ者の集まりだ。


基本的に騒がしい。


ファイさんは俺の声が聞こえなかっただけみたいだ。


ファイさんが聞き取れるように、今度ははっきりと喋ろう。


「パーティーを、組んでみようと思うんです」




その瞬間、


たまたまそばを通りかかった職員さんが書類を落とした。


「うわっ、大丈夫ですか」


手伝おうと身をかがめると、その人が顔を上げる。


「あ、いえ、すみませっ・・・ヒッ」


その人はなぜか怯えた顔をして、奥へと引っ込んでしまった。



くそっ、俺だと分かった途端に態度変えるとかあからさま過ぎんだよ!


ああ、俺の癒しファイさん。


ファイさんはいつもと変わらない笑顔でカウンターに座っている。




「・・・それでですね。


 あなたを唆し・・・いえ、誘われたのはどこのどなたですか?」


「あ、えっと、クロル君です」


「クロル、というと・・・最近入った新人の?」



さすがファイさん。


クロル君のことを知っていたらしい。



「はい。


 ・・・僕はずっとソロでした。


 それができたのはファイさんが助けてくださったからです」


「リョージさん・・・」


「だから、僕も誰かを助けられたらと思って」


「それであの男ですか」


「クロル君、


 人見知りでなかなかパーティーに入れないみたいなんです。


 それが、たまたま一人でいた僕には話しかけられたみたいで」



ソロでやってる人なんて


俺くらいしかいない。


ただでさえ屈強な冒険者たちに


自分から声をかけるのが恐いというのは分からなくもない。


誰でも初めてはあるのだ。



「へえ、たまたま、ね・・・」


ファイさんが何かを呟いたけれど、小さすぎてよく聞こえなかった。




ファイさんは何かを考えているようだったが、すぐに顔を上げた。


「分かりました。


 ただお二人に合った仕事を見繕うのに


 少し時間をいただくことになると思いますがよろしいですか」


「え・・・」


ファイさんにそんなことを言われたのが初めてで、俺は驚いた。


「すみません・・・


 できればすぐにでもご紹介できればいいんですが」



悲しそうな顔でそんなことを言うファイさんに俺は慌てる。


「いえ、そんな。大丈夫ですよ」


「本当ですか? 


 リョージさんが初めてパーティーでやるクエストですからね。


 任せてもらえれば嬉しいです」


そんなことを言われて、喜ばない人間がいるだろうか。



「ファイさん、いつもありがとうございますっ」


俺は胸が熱くなって、ファイさんの手を握る。


すると、ファイさんは一瞬目を丸くしたものの、


あのとろけるような笑顔で笑ってくれたのだった。



「では、後日また改めてお知らせしますね」


「はい、よろしくお願いします」



俺を見送るファイさんが何を考えていたかなんて、俺は知る由もなかったのだった。




*******



リョージが帰ったあとのギルドでは・・・


「おい、クロルとかいうガキの資料は」


ファイが近くにいた男を顎で使っていた。


「はいはい」


言われた方はというと、慣れた様子で紙を渡す。


「ふむ、最近入ったにしては速いな」


速い、というのはランクの上がり方のことだ。


クロルという若者は、


冒険者登録してから日が浅いがすでにランクが上がっていた。


「そんなに有望株なのか」


そんなに強そうな奴だったかと記憶を探るも、


ファイの脳裏に引っかかるものは無かった。


ファイは基本的に弱いものには興味がない。


興味がないものは覚えない。


一応立場上ギルドに所属している者の出入りくらいは把握していたが。


「いやね、そいつ高ランクのやつとばかり組んでるから」


「何?」


ファイの表情が一気に険しくなる。


リョージの話では、クロルはパーティーを組んだ経験も碌にない


気の弱い新人とのことだったのに。


「これまでそいつが組んだ奴のリストあるか」


「ああ」


ファイはクロルのパーティー履歴を確認する。


そして、絶句した。


「これは・・・」


「な、すごいもんだよな」


そこにある名前は、このギルド内で高位にいるパーティーばかり。


「まあ最近はガッシュのとこが多かったみたいだけど・・・」


「・・・そういうことか」


ガッシュのパーティーは先日この街を離れた。


それ以降、クロルはクエストを受けていないらしい。


大方上位のギルドメンバーと揉めたか何かで組んでもらえなくなったのだろう。



「あんたの愛しのリョージ君も高ランカーであることには変わりないからね。これは目ぇつけられちゃったかもね」


ギルド内の温度がみるみる下がっていく。


ファイがリョージに抱く感情は、ギルド関係者なら誰もが知っている。


気づいていないのはリョージ本人くらいのものだ。




みんなそれを知っているから、リョージを誘う者はいなくなった。


ファイを恐れて極力リョージに関わろうとしない。


そのことをリョージは自分が嫌われているからだと思っているがそれは違う。


多くの者はリョージを同情的に見ている。


ただ、ファイが恐くて言い出せないだけで。



そのことを、クロルは知らなかった。


ここに来て日の浅いクロルは


一人でいるリョージを良いカモだと思って近づいた。


それに気づいた者もいたが、敢えて忠告したりはしなかった。


それまでにクロルは随分と不義理なことをして、


反感を買っていたからだ。


そのことを、他のギルドメンバーと交流がない


リョージが知らないのも仕方のないことではあった。




「フフ、どうしてくれましょう」


ギルド内の実質的な支配者である旧友に、


ギルドのトップであるはずの男は肝を冷やす。


(知らなかったとはいえ、ご愁傷様)


それは、眠れる暴君に火をつけてしまった新人に対してなのか。


それとも、その暴君に知らぬ間に囲われてしまっている


哀れな青年に向けてだったのだろうか。








******




「おーい、リョージ! お前も大変だなぁっ」


ギルドの外で


他の冒険者から声を掛けられたリョージはこう返した。


「うるせえっ」


来た当初に比べれば随分丸くなったリョージ。


冒険者から声を掛けられることもある。


このとき、冒険者は


これから起こるごたごたを予期してそう言ったのだが。


リョージはこれから組むパーティーのことを


言われたのだと勘違いしていた。





リョージは転生者である。


ファンタジーな世界を楽しもうと冒険者になった。


ソロでいたのは、前世のゲームの影響だった。


だが、それは最初だけだ。


リョージが考えを改める機会はいくらでもあったはずなのだ。


それを、巧みに潰した人物がいた。





リョージは知らない。


知らぬ間に自分の思考が誘導されていたことを。



リョージは知らない。


自分と組みたがっていた冒険者がファイによって牽制されていたということを。



リョージは知らない。


ファイから渡されるアイテムすべてに


ファイの魔力で作られたGPS機能がついているということを。




リョージは知らない。


ファイが一介の受付係ではないのだということを。






ファイが、かつて人類を脅かした魔王を討伐した


勇者パーティーのメンバーであったことを。


ファイが魔界を統一した


現魔王の息子だということを。


そして、リョージが魔王の嫁になるという未来が


着実に近づいているということを。




リョージが知ることは無い。


自分が勇者の素質を持った人間であったということを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ