静かな夜
夜。
ファイさんの作ってくれた夕飯をいただいた俺は、満腹になったせいか、眠くなってきた。
「リョージさん、先に寝てください」
ウトウトとする俺を見かねて、ファイさんがそう言ってくれるが…。
「いえ…、だいじょうぶです…」
そう口では言うが、俺はもう限界だった。
「す…みません…、やっぱり先に寝ます…。
途中で起こして…」
自分で思っている以上に疲れていたのだろうか。
言葉を言い終わる前に、俺の意識は遠のいていった。
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目が覚めたとき、まだ外が暗いことに安堵した。
俺はファイさんがかけてくれたのであろう毛布から抜け出す。
野営地から少し離れたところにファイさんはいた。
月が出ているおかげでその姿をはっきりと見ることができる。
ファイさんは、岩に腰掛けて遠くを見ていた。
辺りは音もなくとても静かだった。
「ファイさん」
俺が声をかけると、ファイさんはこちらをゆっくりと振り返った。
「リョージさん、まだ寝ていらして大丈夫ですよ」
ファイさんはそう言うが、そういうわけにもいかないだろう。
「いえ、ファイさんのおかげでゆっくり休めました。
そろそろ交代しましょう?」
俺がそう言うと、ファイさんは少し考えたあとでこう言った。
「実は私、少し目が目がさえてしまいまして。
落ち着くまでしばらくここにいてもよろしいでしょうか」
「それはいいですけど、大丈夫ですか?」
もしかして、体調でも悪いのかと思って聞いてみたけれど。
「はい」
ファイさんはにっこり笑って、俺の隣に腰を降ろしたのだった。
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俺とファイさんは、何を話すでもなくただ時間だけが過ぎていく。
その時間が俺は苦ではなかった。
静かな月の夜。
昨日も、一昨日も同じ夜のはずだった。
だけど、今日は少し違った。
ファイさんが現れて、一緒に探索をして釣りをして…。
今日のことを振り返っていて俺は思い出す。
川に落ちた後、ずぶ濡れになった俺たち。
だけど、ファイさんはいつの間にか乾いていて。
俺はそのあと寝ちゃったんだけど、起きたらちゃんと乾いてたんだ。
俺の頭も、着ていた服も、手に持っていた上着も。
自然乾燥で乾いたはずもないから、やはりあれはファイさんの魔法だったのだろうか。
そのことをファイさんに聞いてみようと思ったとき、ふいにかけられた声で俺の思考は途切れた。
「きれいですね」
ファイさんは星の浮かぶ夜空を見据えていた。
そう、この世界の夜空はきれいだ。
俺の前世の世界も綺麗だったのだろうが、俺の住んでいた場所からは星はよく見えなかった。
こちらの世界の夜空と、元の世界の夜空が同じなのかそうでないのか。
それすらも、天体に詳しくない自分には分からなかったけれど。
「…はい、とても」