お洗濯
「ゴホッ、ゲホッ」
「リョージさん、大丈夫ですか?」
「はぁっ、はぁっ、だいじょうぶデス・・・」
水に落ちた俺を助けてくれたのはファイさんだった。
服が濡れるのも厭わずに川へと飛び込んでくれたのだ。
俺が申し訳なく思っていると、なぜかファイさんはフフッと笑った。
「ファイさん・・・?」
「あ、いえ、ちょっとおかしくて、フフッ」
ファイさんは何かがツボに入ったのか、クスクスと笑い出した。
それを見ていたら、なんだか俺までおかしくなってくる。
「ククッ、ちょっとファイさんっ」
「フフ、アハハッ」
二人で濡れネズミになりながら、声を上げて笑ったのだった。
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ファイさんがああいう風に笑うのはちょっと意外だった。
いつもギルドの窓口にいるときは、もうちょっと事務的な感じだったから。
ちょっとファイさんの素の顔が見れたみたいで、俺はちょっと嬉しかったんだ。
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「ふぅ…」
俺は、とりあえず濡れた服を脱ぐことにした。
脱がないことには水分が絞れないからだ。
とりあえず上着を脱いでぎゅっぎゅと手で絞っていく。
ある程度水気が絞れたら、広げてぱんぱんっと叩けば完了だ。
後は、その辺の木にでも吊るしておけばいいだろう。
地面に置くと泥がつくからな。
うん、ちょうどいい木を見つけた。
枝ぶりが洗濯物を干すのにちょうどよさげな真っ直ぐな木なのだ。
俺の分を干してもまだ余裕がありそうだ。
だから、ファイさんも一緒に干せばいいと、そう思ったのだが。
「ファイさん……って、あれ?」
ファイさんの方を見ると、不思議なことが起こっていた。
ファイさんも、俺と同じように服を脱いで水を絞っていたはずだ。
だが、ファイさんの服はなぜかすでに乾いていた。
「どうしました? リョージさん」
「え…っと、どうしてもう乾いているんですか?」
普段は後ろで縛っている長い髪も、今は降ろしてあり風に吹かれてふよふよと舞っている。
ファイさんは少し考えたあとで、何かに気づいたようにはっとした。
そして、何か考えているのか視線を彷徨わせた後、こう言った。
「リョージさん、こちらに来てください」
俺は答えになってないと思ったが、ファイさんの笑顔が有無を言わせない感じがしたのでそれに従った。
びくびくとしながら、それを隠しつつ俺は歩く。
やがて、ファイさんのすぐ近くまで行くと、ファイさんは表情を変えずに言う。
「リョージさん、目をつぶってください」
「…え」
ファイさんが何でそんなことを言うのか俺は分からなくて戸惑う。
「リョージさん」
でも、ファイさんが何だか怖くて俺は聞くこともできなくて黙って目を瞑った。
だって、ファイさんだ。
何も危ないことなんてするはずはないだろう。
ぎゅっと拳を握って立っていると、近くからクスッと誰かの笑う声が聞こえた気がした。
だが、それに気をとられる前に俺の感覚は別のものをとらえた。
「…ん?」
なんか、暖かい?
ぽやぽやと温かい風が俺をさらっていく。
何というか、日向ぼっこしてるときの幸福感っていうのかな。
まどろみが俺を包んでいく。
「……やはり、あいしょうが……」
ファイさんが何かを呟いた気がしたが、うっとりとその感覚に浸っていた俺にはうまく聞き取ることができなかった。




