着水
俺は、川に向かって竿を振りかぶる。
「せいっ」
糸はするすると伸びていき、ぽちゃりとタルグルが着水する。
ぷかぷかと水面を漂うタルグル。
なんだか、浮きみたいだな。
「ファイさん、できました!」
「はい。流石リョージさんです」
嫌味でも何でもなくそう言うファイさん。
これが難しいのかどうかはよく分からないが。
「ファイさんの教え方が上手いからですよ」
ファイさんは、糸に魔力をどれくらい流すかとか、俺に分かるようにわざと、
なんというか分かりやすいような波にしてくれたのである。
うん、やっぱりファイさんはすごいな。
それから、ファイさんも、同じように糸を投下する。
俺のたるぐるから少し離れたところに着水した。
「これで、あとは待つだけです」
どうやら、やり方は俺が思っている釣りとあまり違いはないようだな。
…と、思っていたら。
ピクンッと、浮き、ならぬタルグルが動いた気がした。
「あ、ファイさんっ! 来たかもしれませんっ」
と、俺が言い終わるよりも早く、その変化は起きた。
タルグルの中身、みたいな部分はこれまで殻の中に閉じこもったままだった。
水が透明だから分かるが、それが、唐突に蓋が開く。
そして、中からカタツムリ…が出てはこなかった。
カタツムリ、なめくじ的なものが四つに割れながら飛び出してきたのだ。
効果音をつけるなら、「キシャーッ」みたいな感じ。
これは、俺、見たことあるかも。
海の妖精さんの捕食シーンだ。
ググっちゃダメ。
前世でトラウマになったあの映像をこちらでもまた観ることになるとは。
俺はそのことに気をとられ、一瞬集中力が途切れた。
その途端。
「うわっ!」
「リョージさん?!」
急に体勢を崩した俺にファイさんが手を伸ばす。
竿がもの凄い力で引っ張られ、そのまま川へとダイブする羽目になったのだった。