準備だぜいっ
河原に移動したリョージとファイ。
「さて、それでは釣りを始めましょうか」
ファイの言葉にリョージは声を上げる。
「あの・・・針はどうするんですか?」
釣りをするのに、針がないとできないだろうとリョージは思う。
それとも、ファイが針を持っているのだろうか。
そうリョージは思ったのだが。
「・・・針、ですか?」
ファイは、首を傾げる。
「え?」
「え?」
******
どうやら、俺とファイさんの中では釣りに関する認識に違いがあるらしい。
ここは、おとなしくファイさんに従うことにしよう。
「まず、この枝にモススパイダーの糸をつけます」
そう言って、ファイさんは糸の塊を取り出した。
綿あめのような白い塊。
ファイさんは、おもむろにその一点をつまむ。
すると、するすると糸が解けて伸びていく。
「これを、枝の先につけるんですよ・・・って、リョージさん?」
「・・・ベタベタしてない」
確かファイさんは、蜘蛛の巣を枝に絡ませて回収していたはずだ。
そうしたら、それはベタベタの塊になると思うのだが。
実際は、そういえば、糸の塊というより綿のようだ。
ふわふわしている。
「やってみますか?」
「はい・・・」
ファイさんの言葉に、俺は綿に手を伸ばす。
そして、綿を二本の指を使ってつまんだ。
そして、引っ張ると、スーッと白い糸が伸びてきたのだ。
「ある程度伸ばしたら、カットします」
ファイさんは、懐から取り出した小型ナイフで糸を切った。
釣り糸にするには短い気がするが、俺も同じくらいまで伸ばして糸をカットした。
やはり糸を触ってみても、ベタベタはしていない。
そういえば、前世の蜘蛛も、
ベタベタした糸とそうじゃない糸を分けて出せてたな。
そもそも糸を出さない種類の蜘蛛もいたはずだ。
だったら、俺が知らないだけで草を食べる蜘蛛もいたのかもしれないな。
もう、確かめようはないけどさ。
******
「さて、次はタルグルをつけます」
「たるぐる?」
聞きなれない言葉に、俺は首を傾げる。
つけるってことは、糸に、だよな。
ということは、たるぐるっていうのが針のことなんじゃないか?
俺はそう思ったのだが。
ファイさんが取り出したのは、あのピカピカかたつむりだったのでした。