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見た目詐欺

魚を捕るために近くの川にやってきたリョージとファイ。


二人で釣りをすることになった。


「リョージさんは、釣りのご経験は?」


「・・・あー、あると言えば・・・、いえ、無いですかね・・・」


リョージがこんな言い方をするのには、理由がある。


確かにリョージは釣りをしたことはあった。


だが、それは前世での話だ。


小さいころにリョージが住んでいた家の近くには小さな川が流れていた。


その川にはザリガニが住んでおり、それを近所の友達と釣って遊んだことがあったのだ。


それを釣りの経験と言っていいのかは分からない。


冒険者になってからも、携帯食料を持っていたので魚を釣る必要もなかった。


街のギルドの仕事、特に初心者が一人でできる仕事となると


遠出をするようなこともなかったわけで。


リョージは結局昔やったことがあるというファイに習うことになったのだった。



******


「まずは竿ですね」


ファイとリョージはその辺に落ちている枝を物色する。


「これなんてどうですか?」


リョージは、しなりが良さそうな枝を見つけてファイに見せる。


「はい。大丈夫だと思いますよ」


やがてファイもちょうどいいものを見つけた様子で、二人は場所を移動した。



******


「この枝に、モススパイダーの糸を垂らすんです」


モススパイダーというのは、大型の蜘蛛のようなモンスターだ。


足が6本でピンクのぷにょぷにょした体をしている。


「あ、あの・・・ファイさんっ!」


「どうしました?」


何か焦っている様子のリョージに対して、ファイはのほほんと返す。


「モ、モススパイダー? が、そこまで来てますけどっ!」


リョージは剣の柄に手をかけて、臨戦態勢に入っている。


リョージの言うように、ピンクの巨大な蜘蛛っぽい何かが、


木の影からこちらの様子をうかがっていた。


リョージはモススパイダーがどんなモンスターなのか知らなかった。


だが、その姿を見た途端確信していた。


あれはスパイダー以外の何物でもないと。


ファイは、慌てるリョージの様子を不思議そうな顔をして見ていたが、


やがて何か合点が言ったのか、手をぽんと叩いて言った。


「リョージさん、モススパイダーは人を襲いませんから大丈夫ですよ」


ファイは、リョージを安心させるように微笑んで言う。


それに対してリョージは、


(ああ、やっぱりあれがモススパイダーだったんだ)


と内心ほっとしつ、でも今はそんなことを考えている場合じゃないとすぐに気づく。


「えっ、えっと人を襲わないっていうのは・・・」


確かファイはそう言っていた。


もしや特定の何かを襲うだけで、それ以外は対象外なのだろうか。


あの巨大な蜘蛛にとってみれば、人間は十分獲物としてもイケそうなものだが・・・。


リョージの疑問を知ってか知らずか、ファイは続ける。


「はい、モススパイダーはおとなしいですから。


 普段は下草を食べに降りて来るくらいで、基本的には木の上にいます。


 ときどき糸を張りに降りてきますが、攻撃してくることはまずないですよ」


「・・・ちょっと待ってください」


リョージは、自分が今聞き逃せない情報を聞いた気がして思わず声を上げる。


「今、何を食べると・・・?」


「え? モススパーダーは柔らかい草を好みますから…」


「セイセイセイッ! く、草? ですか・・・?」


驚きのあまり思わず奇声を上げてしまったリョージ。


しかし、リョージが驚く理由をファイは知らない。


「せい・・・? えっと、大丈夫ですから糸を取りましょう?」


またもや、見た目詐欺に遭ったリョージはしかし放心していて虚空を見つめている。


「リョ、リョージさーん?」


リョージの視界に入り、ぶんぶんと試しに手を振ってみるが、やはり反応はない。


「くも・・・むし・・・ほしょく・・・」


ぶつぶつと何か呟いているリョージを、ファイはしばらくそっとしておくことにした。




リョージの意識がどこかへ行っている間に、ファイは糸を集めてしまうことにした。


手に持った木の枝の先を、巨大な蜘蛛の巣に引っ掛ける。


それを、くるくると回すと、糸がほどけて巻き取られていく。


すべて採り終わるころには、綿菓子のように白い塊になっていた。


「・・・さあ、リョージさん。行きましょう?」


枝からすぽんと糸の塊を抜いたファイは、


いまだに放心しているリョージを引きずってその場を後にしたのだった。


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