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メテオモンスター  作者: ナムアニクラウド
第1章 メテオモンスター参上
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第4話 君の番だ

 ニグニは不思議な冷気の遺跡の発見に浮かれていた。浮かれて重要なことを忘れていた。王は言っていた。自分たちより前に派遣された調査隊は"攻撃を受けて"撤退したと。

 人間は気づいていなかった。一本道の廊下を進む間に誰とも遭遇しなかったのだから、そいつはまさにこの部屋にいるはずなのに。

そいつはモーターのような音を鳴らしながら二人の背後に近寄る。ニグニはのんきに写真を撮りながら人間に話しかける。

「王も言ってたけど、ボクっていいやつだから、けっこう楽しめたと思うんだけどなー。」

「そ、そう……」

「あ、それより写真撮れたよ!」

 白い氷柱、白い壁、青い炎の写真がデジカメの画面に映る。撮影したデータを確認しながらニグニは改めて遺跡の不思議さに感嘆していた。その背後に忍び寄るものは静かに止まった。

 そいつには虫のような羽根があり、音速のはばたきを今、ぶつぎりの断続的なリズムに変えて、前回調査隊にしたようにするべく構える。モーターのような音が止む。それは羽音だったのだ。

「あんまり冷たくない氷に、青白い炎か……ぜったい自然のものじゃないよね!これはまさか大発見なんじゃ……」

 そしてニグニが楽しさに踊り出しそうになった瞬間、彼の背後から氷の結晶が吹き付けた。

「んんっ!?」

 驚く暇もなく、吹き付ける冷気は瞬間的に強くなり、局所的な吹雪となってニグニを襲った。突然のことにニグニはうずくまって防御の姿勢をとるが、それでは冷気の攻撃は防げない。

 人間は狙われずに済んだが、ニグニの身に起きた危機に驚き、しりもちをついてしまった。10秒間冷気は猛烈に吹き付け、少しずつ止んでいく。消えていく吹雪の中から現れたのは、氷漬けになったニグニの姿だった。

「はあ!?ニ、ニグニ!」

 人間は一旦ニグニを心配するが、すぐに同じことが自分にも起きるであろうことに気づく。吹雪を起こした張本人が目の前にいるのを見たからだ。

 そいつは人間サイズの大きなトンボのような姿をしていた。羽根は水晶のように輝き、再び音速ではばたくと例のモーターのような音を発した。そいつは人の言葉を喋った。

挿絵(By みてみん)

「そこの人間よ。今からお前もこのようにするぞ。」

「ええっ!?なんで!?」

「なんで、だと?とぼけるなよ。ここの魔法の冷気を狙っているのだろう。」

「いや、こんな場所があるなんて知らなかったぞ!」

「間の抜けた嘘つきめ、どうせこのあいだの人間に教わって来たのだろうが。」

 そいつはまた断続的なはばたきに移行する。人間の目からも、それが先ほどの恐ろしい攻撃の予兆であることがすぐに分かった。そいつは攻撃の予兆を見せつけながら言葉を続ける。

「ここは俺たち一族の縄張りだ。侵略するものには容赦などしない!」

「そんな……!」

 氷の虫の羽根から鱗粉のように次々に氷の結晶が浮かび上がり、いよいよ吹雪を仕掛けてくる時が来た。

 人間にとって死を覚悟するにはあまりにも突然のことだった。だから生き抜くすべを探した。持っていたのは王から渡された紙袋だけだった。中には懐中電灯しか入っていない。人間はニグニが先ほど懐中電灯をつけたときのことを思い出すと、急いでそれを取り出し、氷の虫に向けて電源を入れた。強烈な光がまっすぐ飛び出す。

「むむっ!?」

 目眩ましは効果的に決まり、氷の虫はのけぞり、周りを漂う氷の結晶は床にゆっくりと降り注ぐ。

 一瞬の時間を稼いで、人間はすぐに逃げようと思った。しかし、元来た通路の方を向いて走りだそうとしたとき、ニグニのことが頭をよぎった。彼をこのまま置き去りにしてしまっていいのだろうか。放っておけば、彼は凍ったまま粉々に砕かれるのかもしれない。このまま一人でのこのこ帰って、王に何と言えばいいのだろうか。

 一歩踏み出しては悩み、もう半歩踏み出したあと仕方なく決断する。人間はニグニの方に回れ右をして彼に駆け寄ると、両手で抱え、持ち上げるべく重さを確かめる。

「くそ!なんで微妙に重いんだ!」

そうしている間にも、氷の虫は視力を取り戻しつつあった。


 ニグニの意識は遠のきつつあった。彼は焦っていた。ここを縄張りにしているものが攻撃してくると事前に知っていたのに、完璧に油断をしていたことを後悔していた。このまま死んでいくしかないのだろうか。

 初めての冒険で……ささいな物忘れが原因で……それはとても無念なことだ。薄れゆく意識の中で、人間が自分を抱え上げようとしているのを感じ取った。このままでは人間も氷漬けになってしまう。まずい、自分の不注意の……


「君の番だ」

 ニグニは突然思考を遮って聞こえた声に驚いた。なんだろう。人間の声じゃない。吹雪を起こしたヤツの声でもない。若い男性の、優しいような、無感情なような声が聞こえた。

 ただでさえ焦っているのに、さらに理解できないことが彼の思考をかき乱す。吹雪。不注意で招いた危機。誰かも分からない声。不注意で招いた危機。人間を巻き添えにしてしまうこと。自分の命に危機が迫って……

「君の番だ。君が力を表す番だ」

 またしても思考を遮る声が聞こえる。このときニグニは体がどんどん熱くなっていることに気づく。体温が炎のように上昇し、凍える感覚が薄れて火の中に生きるメテモンには心地よい炎の熱さに包まれた。


 人間はニグニを両手に抱えて今、逃げ出そうとしていることろだった。しかし氷の虫はついさっき視界を取り戻したところで、すぐに猛烈な速さで人間の背中に突進した。

「うげっ!」

 人間はその場に倒れこむ。ゆっくり上半身を起こして敵に向き直り、氷の虫を見つめる。そいつはまた羽ばたきのリズムを変え、先程より急激な速さで氷の結晶を生成する。

「賢しい抵抗は認めよう。だが悪く思うなよ!」

 もうだめだ。自分はここで氷漬けにされる!そう思ったとき、抱えているニグニが急に熱くなったことに気づく。

「あ、熱っ!」

 人間はニグニを放り投げ、彼は力なくうつ伏せに倒れた。その体はもう凍っていない。すると彼はゆっくりと体を起こしていつもより高く宙に浮かんだ。人間は彼の背中に奇妙な模様が浮かび上がっているのに気づく。燃え盛る炎の模様に、中心に火星を表す矢のマーク。ニグニはそのあとはっと顔を上げ、意識を取り戻したように見える。するとニグニは目の前の氷の虫が今まさに二人の命を奪おうとしているのに気づき、咄嗟に発音する。

「マゼンザ!」

 メテモンが用いる奇妙な発音。人間を白いメテモンから救った”呪文”というものだろう。しかし人間の目の前に現れた光景はあのときの呪文とはまるで違っていた。ニグニの指先から弾ける衝撃波。その衝撃を受けた敵は攻撃の態勢を崩される。すぐ爆炎が爆音を伴い彼の全身から放たれ、鉄砲水のように敵の体に注がれる。

「ぬおお、なんだ、これは!やめろ……!」

「ニグニ……!?」

 敵ははじめこそ強く羽ばたき耐えていたが、すぐに羽根は焦げ、力を失うと吹き飛ばされて背後の壁にぶつかった。

「グアアアッ!」

 焼け焦げた氷の虫が力なく床に崩れ落ちると、爆炎が止む。羽根はすべて焼け落ち、もう氷の攻撃は使えないだろう。爆音も止まり、遺跡内に響く音もしだいに止んでいく。

 完全にしんと静まると、ニグニはゆっくりと下降し、ぼんやりと自分の攻撃の跡を見つめた。爆炎が放たれた部屋の一角を覆っていた氷は完全に溶け、床は水に濡れている。その水たまりの中に、氷の虫は倒れている。

「今の力は一体……?」そんな疑問を口にしたのはニグニだった。

「こっちが聞きたいんだけど……」

 人間はあっけにとられていた。この爆炎はニグニが元々持っていた力なのだと思ったが、ニグニ自身が納得できない技だったらしい。いったいなぜこんなことが起きたのだろう。


 しかしそれより人間は命の危険が去ったことを確認し、ほっと息をついた。

「し、死ぬかと思った……!」

「ボクも……はあ~~」ニグニも床に降りて仰向けになった。

 しかし、二人が安堵に脱力していると、仰向けに倒れていた氷の虫がゆっくり起き上がった。

「はっ!?」

 また油断したかと思い二人は緊張したが、氷の虫は静かに二人を見つめるだけだ。今のうちに帰還したほうがよいだろうと人間は考える。

「ニグニ……早いところ……」

 そう言いかけると、氷の虫が語りかけてくる。

「お前たち……」

 二人は静かに氷の虫に注目する。

「お前たち……頼む、この場所を奪わないでくれ。俺たちはずっとこの氷柱の魔法の冷気を糧に生きてきたのだ。」

 やはり虫はもう戦えないのだろう。そして、ニグニは一旦腑に落ちない顔で首をかしげるが、どうやら誤解があることに気づき、弁明する。

「あのさあのさ、ボクたちこんな場所があるなんて知らなかったし、君たちからここを奪うつもりもないよ。」

「……それは、本当なのか……?」

「ほんとほんと!」

 ウンウンとうなづいて答えるニグニ。氷の虫はしばらく考えこみ、静かに言葉を続ける。

「そうだな、もう勝敗は決した……嘘をつく必要などないのだろう。」

氷の虫は一息つき、続ける。

「俺はクリスタライザーだ。……以前、この部屋に人間が来たのだ。我々はこの魔法の冷気の存在を誰にも知られたくない。俺はその人間を始末しようとしたが……逃げられた。だからいずれここを狙う者が現れると思っていたのだ。この様子だと、ヤツはこの場所のことを誰にも話していないのだろうか。」

「人間が来た……王が言ってた調査隊のことかな。こんな不思議な冷気の部屋があったら、人間の調査隊も、氷の世界のメテモンも黙ってはいないだろうなあ……」

 納得しているニグニに、二人が会話を交わす様子を見てようやく警戒を解くことができた人間が尋ねる。

「あいつが王の言っていた野良メテモンなのか?」

 その質問に答えたのは氷の虫だった。

「野良……俺たちは外ではそう呼ばれているのか。確かに、戦争の終わりにメテモンは人間星から出て行ったが、どうしてもこの氷柱のそばに住みたかったご先祖さまは社会を捨ててここに残ったそうだ。外にはこのような場所は2つと無いのだろう?」

 虫の説明で人間も納得する。その様子を確認した虫は言う。

「頼む、この場所のことは誰にも話さないでくれないか。突然攻撃したことは謝る……」

 虫は頭を下げて謝る。人間は、しかしそれならば王にはどう報告すればいいのだろうと悩んだ。が、よく考えるとこれはニグニの仕事なのだから、彼が考えるべきだろう。ニグニの方を見やると、彼は腕を組んだようなポーズを取って悩んでいた。

「どうしよう……こっちも仕事なんだよなあ。」

 人間はウチュージェントの事情はよく知らないが、何も報告できないとなると信用を落とすだろう。やはり人間には王からの信頼のほうが重要に思えた。

「子供たちよ、来なさい。」

 人間とニグニが悩んでいると、氷の虫は誰かを呼んだ。すると氷の虫を小さくしたようなメテモン(そうはいっても人間の赤ん坊ほどの大きさがあるが)が2匹、天井の上からやってきた。どうやらこの部屋の天井の上にもう一つ部屋があるようで、二人が来たとき氷の虫はそこに隠れていたようだ。

「ママ大丈夫!?」

「こ、怖いようママ……」

 小さな虫は怯えた声で、親と人間たちをキョロキョロと交互に見やった。なんとなく氷の虫は声色と口調から男だと思っていたのに、どうやら女だったらしいことが分かり少し驚いた人間だったが、氷の虫の話は続く。

「俺には子供たちがいる。頼む、この場所のことは秘密にして欲しい……」

 いかにもか弱そうな小さな虫たちを見て、ニグニはとうとう折れる。

「わ、分かったよ!この場所のことは秘密にする!子供たちの生活を困らせるようなことはできないや……」

「おお……そうか、良かった……」

「ほんとにいいの?」人間は問いかける。

「男に二言はない……ぜ」

 こいつは男なんだな……と人間が思っていると、氷の虫はニグニに感謝を述べる。

「本当にありがとう。ほら、子供たちもお礼を言いなさい。」

「ありがとう!」

「あ……ありがとう」

 感謝を受けたニグニはすこしばつが悪そうにする。

「どういたしまして……でもえーと……羽根燃やしちゃってごめん……」

「心配はいらない。この魔法の冷気があれば、時間はかかるが再生できる。」

「それはスゴイ……安心したよ。」

 ニグニは感心してうなずいた。人間星のトンボであれば羽根が再生するなんてありえないが、メテモンもそうなのだろうか、と人間は思った。そうだとすれば、この氷の部屋は本当に不思議な力を持っているのかもしれない。王に報告できないなんて勿体ないが、仕方ない……そう考えていると、ニグニが帰還の宣言をする。

「それじゃあ人間、帰ろっか」

「そうだね。」

 結局この不思議な冷気はなんだったのだろうか。氷柱の中には何かがあるのだろうか。モーターの音は氷の虫の羽音だったのだから、機械の技術による現象ではないだろうが……。謎を謎のままにして、二人は不思議な冷気の部屋を後にした。


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