ママと幹子(みきこ)さん
ママには幹子さんという親友がいた。
私の幼馴染に力丸っていう1学年下の男の子がいて、その力丸のママが、幹子さんといった。
ママと幹子さんは、中学と高校の同級生で、昔からの親友なんだって。
だから子供の頃から家族ぐるみでお付き合いがあって、力丸と私も仲が良かった。
力丸の家は、北海道の中でもかなり田舎で、有名なスキー場が沢山ある町だったから、冬になると雪で家の一階部分はほとんど埋まってしまう。
北海道に住んでいたら、割と想像できる状況だけど、雪が降らない土地の人からしたら嘘だと思うだろうな。
朝起きたら、雪が積もりすぎて、玄関のドアが空かなくなったりするのだ。
私は特に冬に遊びに行くのが楽しみだった。
力丸とは、二階の窓から下の雪に向かって飛び降りる遊びをよくやった。
足跡もなにもない真っ白な雪の中に、手をつないで飛び降りる。
足で窓の枠を思いっきり踏み切って一気にジャンプする。
水に飛び込むのとは全然違う。
パウダースノーがフワっと、バフっと、全身を受け止めてくれる、あのなんとも言えない感じ。
雪が柔らかくてフワフワだから、着地した後は頭まですっぽり雪の中。
2人でもがいて雪の上に顔を出したときには、頭も顔も雪まみれ。
そんなお互いの顔をみて、涙が出るほど笑うのだ。
幹子さんとママは、私と力丸が写っている同じ写真を一枚ずつ持っていた。
それは私が4歳の時。
手に持ったタンポポの綿毛に夢中な私。
そのほっぺに、力丸がチューをしている写真だった。嘘みたいに出来過ぎた写真だ。
あまりに可愛すぎるし、まるでポストカードみたい。
何かあるたびに、私と力丸は、その写真でからかわれた。
「ももちゃんのファーストキスは、力丸なんだよ。それはそれは可愛かった。」
遊びに行くたびにその話がでた。
そんなこと言われても、全く覚えていないし、毎回同じ事を言われるのも、反応に困る。
力丸は毎回聞いてないフリをしていた。
確かに私のファーストキスは力丸かもしれない。記憶に残っていて、自分の意思でしたのは確かにこのときで私は4年生だった。
雪まみれになって、時々雪を食べたり、お互いの顔の雪を払ったりなんかして。
最初にチュってしたのは力丸だったけど、私からも何回かした。
周りには何にもなくて、誰もいない雪の中。恋ではないけれど、大人には言えない遊びを雪の中でしていたのだ。
ママと幹子さんの話を聞いてないフリをしている力丸と、目が合う。
そして力泰はニヤっと笑う。
私ってやらしい人間なんだろうか。
どんな人もキスって気持ちいいんだろうか。