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004

 俺はブレーキが外れたように笑っていた。

 誰かに頬を叩かれるまでは。


 ただ笑っていただけなのにーー遥さんに、ぶたれるなんて……。

 きっと、ケタケタと腸が捩れるような不快な笑いだったに違いないだろう。


「ごめんなさい。状況が把握できないかもしれないけど、今はこうするしかないと思ったから」

「あぁ分かっている。こっちこそ迷惑かけてすまなかった」


 遥さんだって状況を理解できていないのに迷惑をかけてしまっている。

 他人に迷惑をかけるべきではないのにと、俺は自戒した。


 その後、雅哉に抱きついている紗綾を発見する。

 

「雅哉、お前……大丈夫なのか?」

「あぁ、あんなに痛かったっていうのにビックリするほど何ともねーよ」


 雅哉自身も当惑の表情を隠せないでいるようだ。


「もう、それくらいにしろよ紗綾。今はそれどころじゃないんだから」


 これ以上泣き付かれていても雅哉が困るだろうと思いーー紗綾の手を雅哉から離そうと掴む。

 だが、強靭な力でそれは拒まれた。


「ごめん……。解ってるから離れるわよ」


 口先では謝罪をしたがーーさっきとは違って軽蔑や侮蔑といった類の目線を紗綾から受けていた。


 この後、一悶着あったもののーー俺達は状況についての整理することになった。


 遥さんは慣れた手付きで黒板にチョークで白い文字を埋めていく。

 そして、いくつかの現象と問題点であろう点を書き終えていた。


 ・あいつは何者なのか。

 ・私達が眠った原因は?

 ・どうして外部と連絡が取れなくなっていたのか。

 ・あいつの対処法と今後について。


 と、適確な問題点が挙げられていく。


「私の意見を述べるとするね。上の2点は私にもわらかないけど、下の2点については仮説だけれど結果はでたと思うんだ」

「なぁ、それって何だんだよ。勿体ぶらずに言ってくれよ」

「遥さん。お願いだから早く言って」


 遥さんを中心として話の輪ができている。


「結論から言うとね、残酷ではあるのだけれどーー私達は不定期で変な世界に巻き込まれて、あいつらを倒すと元の世界に戻れるかもしれないってことかな。データが少ないから、誰かが食べらても戻れるかもしれないけど、それはあまり建設的ではないってことはわかるよね?」


 俺達に話を割らせる暇も与えずに、遥さんは黒板の周りを往復しながらーーまたも話始める。


「そして、その世界では私達とあいつ以外には居ない。つまり、外部の人間の一切消えるからーー私達で何とかするしかない。つまり、殺すしかないってことだと思う」

「けれど、この事を他の人に話したとしても精神病院送りになってーー拘束具で身動き一つ取れず、そうしてーー」

「もうわかったから、続きは止してくれ」

「そうだね。私も当事者だというのに大人気なかったよ」


 本当にうっかりしてたと戯けた表情を見せる遥さん。

 悪気がなくやっている所がまた彼女らしいと思うのだがーーーー。


 和んでいた空気が一変ーーまたも部屋の引き戸が叩かれる。

 パニックになる一同。ただ一人を覗いてはーーーー。


「申し訳ないのですが、名前を仰って貰ってもいいですか?」

「何を言う? まさか、校長の手先だな!?」

「安心してください、先生。あなたはもう学校から手配されてますから」

「私は用務員さんであって、先生ではないんだぞって……。それって本当?」


 遥さんが武器を下ろして落ち着くように指示を出すので、俺達はそれに従って下ろすことにした。


「もし先生であるのならば、お持ちの鍵で開けたらどうですか?」

「いやー、先生信用されてないんだなー。落ち込んで、ジェイソンになっちゃうぞーー」

「先生は立派なメガネ巨乳美女で、腐りに腐りきってるゾンビ系女子ですから安心してください」

「いやー。それより、見えなくても私が腐ってると何故わかったのだ!? まさか、本当にスパイだったりするのかな?」


 そんな会話を教師と生徒が壁越しでやるシュールな絵面なんて、中々無いとは思うのだが。

 背に腹は代えられないので、俺達は窓越しで怯えているしかなかった。


 呆れたーー諦めたような表情をした遥さんが黒板にメッセージを残していた。


 そのメッセージを書いた後に眼の光を無くした笑顔で、彼女はこちらに尋ねてくる。

 先ほどの話で外部がいつも通りなら、あいつらは現れないと語っていたので俺達は提案に同意することにした。


 遥さんは引き戸の鍵を開ける。

 ついでに俺は、先生にバレないようにその文字を焦って消した。


「いやー、鍵を無くした挙句。生徒に部室にも入れてもらえないとなるとーー人間として、本格的に落ち込むなー」


 全く落ち込んでいないと感じざるを得ない笑顔で、彼女は登場した。


「先生、そこに座ってください」

「えぇー、どうしようかなー。先生これでも巨乳美女なんだよー」

「椅子に座ったからって乳は揺れないから大丈夫ですよ」

「えぇー、そうなのかな? 先生はいつも肩こりで悩んでるのですよー。マッサージ機で座るときなんかね?」


 思わず想像してしまったが、文句を言っているのに関わらず先生はノリノリで椅子に座る。


「で、今から何をするのかな? まさか、先生を開発して玩具にする男の子が大好きなアレをするつもりなのかなーー?」


 俺達を見てニヤついている顧問。

 いくら巨乳美女だからって、そんなことは考えてないぞ……。


「いえ。探偵部ですので、そんなこと野蛮な事はしません。探偵のすることと言えば、役者が揃った所で犯人を吊るし上げて、社会的に殺し、晒し者にして喚き散らしてる所を蔑んで罵るだけですよ」


 普段、戯けた表情をする遥さんだが、この場で先生を問い詰める彼女は遥様と形容した方が正しいかもしれない。

 同時に探偵をそんなサディストと思っている遥様もまたーー先生と同じく変わった人なのだろうと実感した。


「えー、用務員さんとはいえ、一応顧問で先生で聖職者だし、そんな悪くて穢れたことはしてないぞー?」

「解りました。今から貴方を言葉で捌かせて頂きますね」


 顔を逸らして逃げようとする顧問を、遥様は言葉だけで(社会的に)殺すつもりらしい。

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