001
「なぁ、この部活って何部だったっけ?」
一年生しかいない部室においてーーいくつか机を寄せ合い、この場は形成されている。
そして、一人の少年が俺に尋ねてきたので。
「一部員として言うが、俺も正式な活動内容を知りたいよ」
質問に質問で返すのもどうかと思うのだが、この場においてそれは仕方ないことなのである。
「ほらっ、直くんの番だよ」
幼馴染からの問いかけにありがとな、と言って俺はーーーー。
「紗綾お前、ババ持ってるだろ?」
「なんで分かったのよ。あんたって、もしかして真性の変態だったの?!」
ーー真性の変態はねーだろ……。
「いや、そうじゃねーんだけどな。どう見てもバレバレなんだよ、それ」
最初は平然にカードを引いていた紗綾であったが、途中から手札の一人だけが妙に取りやすい位置。
それも一枚のカードだけ、目立つように頭一つ抜けている。
誰が見ても分かるとは思うのだがフェアじゃないので忠告してやったのに、この始末である。
忠告を信じ、慌ててカードをシャッフルし直す紗綾。
チクショーと、大袈裟なリアクションでジョーカーを引いたことを露呈させる雅哉。
それを見て、クスクスと恥じらうように笑う優奈。
「みんな仲良しで、なんだか羨ましいな」
他人事のように言う、この部の中で一番部員らしい遥さん。
「なら、俺達と一緒に混ざって今度は大富豪やりませんか?」
「それって、8切りとかもアリかな?」
以外にも食いつきが良いぞ。
他のみんなも、告白の瞬間を見守るような雰囲気である。
「えぇ、なんでもアリですよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて参加させてもらいます」
「なぁ、他のみんなも良いよな」
頷く一同。
どうやら、同意とみて良さそうだ。
ババ抜きの勝敗は保留となり、優奈がカードを切って均等にカードを配り始める。
雅哉がやたら優奈を見ているが、優奈は不正をするような奴じゃないぞと、内心で軽い苛立ちを覚えた。
この部活ーー探偵部は去年廃部となった文芸部の空き部屋となった一室を使うべく、口実として設立された部活である。
もし、この世界に純粋な理由で設立された探偵部があるのならば、この場で以って謝罪したい。
常時居ないのだが、部室の先生は大のミステリー好きだったために、快く顧問になってくれた。
そして、自費で買い揃えたであろう新書が山のようにギッシリと本棚に詰まっている。
先生いわく、やむを得ない理由で置けなくなったらしい。
俺達四人はサボりたいのと。
遥さんだけは新書を読み尽くしたいのか部員となり。
先生は本の置き場がどうしても欲しかった。
そうして様々な思惑が複雑に絡み合いーー上下関係もない堕落した部員達による、だらだらとした部活動を行っている。
最初は読書のみに没頭していた遥さんであったが、思い切って今回は誘ってみることにした。
綺麗でやんわりとした雰囲気の黒髪の女の子ではあったのだが、どうにも話しかけづらい雰囲気があった。
他のみんなも同じなのか、彼女が本を読む姿があんまりにも綺麗だからとか、そういう理由もあったかもしれない。
だからこそ、今日こそ一緒にゲームをすると個人的に俺は決めていた。
同じ部員で仲間はずれの人物を作るのが嫌なのも、理由の一つかもしれない。
54枚のカードが均等に(俺の枚数は一枚少ない)配られ、ゲームは開始された。
3回大貧民となった敗者は購買の自販機でジュースを買ってくるという、何とも理不尽な罰ゲームも課せられているので負けるにはいかなかった。
けれど、数十分が過ぎて俺達は現実を思い知らされることとなる。
ーー遥さん、強過ぎじゃない?
ただ単にゲームに関して並々ならぬ情熱が強過ぎただけということを、身を持って以って証明されてしまった。
他の奴らと目線が合ってしまう。
悲鳴のように携帯のバイブレーションが唸りを上げる。
学校での携帯の使用は禁止されているのだが、部室には鍵が閉まってるので問題はないと判断して、SNSの画面を確認する。
「強過ぎだろ、アレ」
「あんたもそう思う?」
「全てを読まれているみたいだったね(汗)」
「さすが、名探偵って感じだよな」
「あんたにしちゃ、上手いこと言うじゃない」
勝手気ままなSNSでは、敗者達の愚痴で埋め尽くされていた。
無論、負け続けている俺が罰ゲームの被害になるというのに。
「俺がどうせ負けるんだし、別に良いだろ。それより遥さんが楽しんでるんだから、俺はそれだけで十分だと思うんだが」
長文を長々と書き連ねて、みんなを説得した。
まぁ本心が9割、ヤケクソが1割といった所である。
周りも渋々了ではあるが承してくれた。
どうやら俺が負けたら、優奈も一緒について来てくれるらしい。
再び優奈がカードを配り始め、ゲームは開始された。
俺は最後に残ったカードの束を手に取る。
そして、手札の悲惨さに絶望する。
「直くん、手札交換しようか?」
「いや。勝負事は公平にしないといけないから、それはやめようぜ」
額には薄ら汗が走る。
遥さんが気を使ってなのか、一番強いカードを2枚。
俺が、一番弱いカードを2枚交換するという謎現象が発生している。
それを、この場ではどうしても言えないのである。
遥さんからは、ハートの2とジョーカーが渡された。
俺は3枚ある内のスペードとハートの3を渡し、罪悪感で胸が締め付けられる。
ーーありがとうございます、遥さん!!
優奈がやたら不機嫌であるので、後で理由を説明しなければならなそうだ。
恐る恐る大富豪様が手を上げる。
「大貧民の人から始めてみるのは、どうかな?」
「遥様。直斗みたいな奴に気を使わなくてもいいんすよ?」
女の子大好きな雅哉は遥さんに対し、顔の前で手を交互に揺らして、ナイナイみたいな顔をするのだがーーーー。
「あんたは黙ってなさい!」
「雅哉くん、黙ってて!」
笑顔による暗黙の了解が発生してしまった。
女子の絆というかグループ感が増したというか。
仲良くなること自体はとても良いことだと思うのだけれど。
「理由はわからんが、とにかくすまん」
「お前が気にすることねーよ。それに、もう慣れたって」
SNSで、雅哉に対し謝罪をする。
何とも言えない間の後、俺はクローバーの3を出した。
遥さん以外ーーため息を吐く、一同。
後に、スペードの3はジョーカーを倒せることを知ることになった。
その後の結果はいうまでもなく俺が負けそうであるのだが、優奈に遥さんが何故か残っていた。
二人とも先ほどまでは上位を争っていたので、俺としては不思議で仕方ないのだが。
ふと気づくと、雅哉と紗綾が机に突っ伏して寝ている。
ーーおいおい、飽きたからって寝ることはねーだろ。
「直くん……」
とうとう、優奈まで寝てしまった。
ーーあれ? 俺もなんだか……。
映画の幕が落ちるような抗えない眠気によって、俺達は意識を失った。