ある少年の終わり――
僕は今、自宅マンションの最上階――11階のさらに上、つまり屋上に立っていた。
周りはパイプフェンスで囲まれている。
だが、僕の右手にはミゼットカッターが握られている。
税込価格で1000円弱の物だ。
これで金網を切断する。
縁に立つ前に、金網がなくなったことで外の景色がよく見える。
でも僕にはその景色が、いやこの世界が灰色に見える。
こんな世界を19年生きてきた事を僕は誇りたい。
誉めてください。
この19年。僕にとっては一生だ。
50年、90年生きている人もいるけれど、僕はもう耐えられない。
僕にはこの世界が灰色に見える。他人が何を考えているのか、何をしたいのかがわからない。
何も感じない。
僕が何をしたいのかわからない。
でも他人が何を考えているのか知りたいとも思わない。
何も感じようと思わない。
心を持つ者にとってこの世界は辛く、苦しく、厳しい。
僕はもう耐えられない。
それでも震える両足を屋上の縁に乗せる。
急な強風に目を閉じる。
「この先にあるのは孤独だよ」
目の前から声が聞こえた。
強風に耐えながら薄く目を開く。
そこにいたのは、自分だった。
自分なのだけど、自分じゃない。
全てを知っている様な顔をしていて、瞳と瞳を重ねると自分の瞳からは悍ましい程の孤独が感じられた。
何も感じなかった僕の心一杯に孤独が押し寄せる。
それでも、
「それでも僕はいくよ」
そう告げた途端、自分の瞳が淋しく閉じられるとさらに強い風が吹く。
その風は自分ごと目の前の景色を吹き飛ばした。
そして目を見開く。
そこにあったのは、僕が見たことのない景色だった。
先程と変わらない景色。だけど変わっている。
灰色だった世界に色が滲んでいく。
目の前に青い空が広がり、白い雲が浮いている。
僕はその景色へと一歩を踏み出した――