発動カセミカ計画その8 近所迷惑編
本人から地図をもらって、歩いてみると以外に、いや本当に近かった
「これって、ご近所さんって言っていいよな」
それくらいの距離感。まだ表札は確かめてないが、それでもここなのだろうと確信がもてる
その理由は、簡単だ
「姿が見えないと思ったら、まぁそうだよな」
そこは女科学者が言ってたとおりの本当に普通の一軒家
だがその正面には、いまいち見せ場のない三体のアンドロイドが雁首そろえて立っていた
なんか意味ありげに(たぶん無いのだろうなにも)その一軒家を見上げている
周りが妙にざわざわしている。まぁ当然か住宅街に似つかわしくないメイド服の女性が3人も集まって、一つの家を見上げていれば目を引くというものだ。
しかも一人一人、髪の色が奇抜でピンクに青と赤ときている。これで目を引かないわけがない
そう見なれない人間が、ごく平凡な家をただ見上げているという特殊な状態が人の目を引いているのだ。それ以上のことではない
つまり彼女たちを アンドロイド であると気づいてる人間は、まずいないということだ
例えば、ハツカほどのスペックを持つアンドロイドを科学者が見れば狂喜乱舞することだろう
単純に金を欲しているものが見れば、今すぐに盗んで、どこかに売りさばきたいとおもうことだろう
それだけ特殊で、金に換えればかなりの大金が手に入ることは間違いない
それだけのスペックを持つ機械、だが周りは、そういった意味でさわがないそれはなぜか?
それは彼女たちが、余りにもよく出来すぎているからだ。それゆえに誰1人として彼女たちはアンドロイドだと認識できていないのだ
変わった格好をした人間、といったところだろう
最初に彼女を見た俺も、まず人間ではないかと疑った
千途も最初は俺と同じようにうたがっていたと思うが、賢郎博士の名前が出た途端に何か納得していたようだった
「なにしてんだお前ら?」
俺の言葉にクルッと振り返った道案内ロボのハツカが答える
「あっ、お久しぶりです正月さん。私たちはカセミカ計画の阻止に来たんですよ。正月さんもそうですよね。世界のために戦いに来たんですよね」
間違ってはいないが、同意したくない。だってこいつ等どう見ても不審者だし
ほかの二人もハツカの左右に立ち半身をこちらへ向けて口を開く
「お待ちしてましたわ正月さん。あの女のハウス、見張っといてさしあげましたわよ」
頼んでねぇ、て言うか、コイツに限ってはわざと俺を共犯、いや首謀者みたいにしようとしてるな
「なんかよく分かんねぇけど、来たはいいけど鍵かかってるからよ。2階とか鍵開いてる窓ねぇかなって見てたんだ」
正直でよろしい。こいつの場合、なにも考えてないのだろうが
さて、もう日が沈みそうだし、さっさと終わらせて帰るか
「分かったからどいてくれ、俺もその家に用があるんだ」
「窓を割っての進入でしたら、もっと暗くなってからの方がよろしいですわよ」
これだけご近所さんから注目受けておいて言う言葉じゃねぇな。そう思う
警察の「不審者がいませんでしたか?」の質問に間違いなく一発クリーンヒットだ
「闇夜にまぎれての強襲制圧任務か、なんかスクワットみたいだよな。家事用アンドロイドの血が騒ぐぜ」
もはや、こいつの言葉には突っ込むまい
ツッコミを入れたら負けな気がする
「あっそ、でも住居不法進入は犯罪だからやめとけよ」
俺は言って、三人の間を通りぬけ家の門の前へ、そこで念のため表札を確かめる
〔風崎〕と書かれていた。言われた通りここで間違いないようだ
「表札なんか確認しなくても、ここが悪の科学者のアジトですよ。縦横無尽の道案内アンドロイドの私がいる時点で間違いないんです」
「どうだかな、お前は信用なんねぇからな」
「なんですか、目的地に近づくと「目的地周辺です」の言葉とともに道案内を終了させてしまうのは2日前までの私です。今はアップデートにより「フィーリングでもいいから、もう少しがんばってみようか機能」を搭載し、なんやかんやで目的地に到着できたりするんですよ」
そんなことを大声でのたまった後「どうですか。凄いでしょ」で締めくくるハツカ
ある意味凄いか・・・・・・フィーリングで何やかんやしちゃうんだもんな
相変わらず、アンドロイドのすることではないが
「さてと」
俺は門の向こうの玄関の扉を見る。それは施錠された扉だ
さてどうするか、ハツカはさておき他の二人にはこの家で盗みを働いた前科があるしな、家主から鍵を預かった身としては、そんな連中と一緒に家にお邪魔するのはどうも気が引ける
家主こと風崎 春美からは「好きなようにやれ。罠もある遠慮などしていたら再起不能と書いてリタイアすることになるぞ。ダボォが」という、とてもオラオラな許しはもらってはいるが
はたして俺はどうするべきか・・・・・・考えた結果出した答えは
「お前らはもう帰れ。最近は人の家見上げてるだけで通報される時代なんだぞ」
他人様の家の前でたむろしているアンドロイド達に解散を促し門をくぐる。と、後ろからやじが飛んできた
「なんだとコラ、こちとらメイドロボだぞコラ!偉いんだぞ時代的に殺すぞ!」
「殺すぞなんてダメですわ!殺してさしあげますよって言いなさいイツカさん」
「扉が何かしらかの要因で開かないなら、バーンってやっちゃいますから言ってください。えっ鍵?何その概念。知らない。おいしいの?って言うやつです。知らなきゃ犯罪じゃないんです。多分」
やじだけじゃなく、物騒な言葉と足音もついてくる
やっぱりついて来たか、でも俺は一応解散を促した。俺の言葉を無視してこいつ等が勝手に不法侵入したんだ。だから
こいつらが何かしでかしても、俺のせいじゃない
世の中、そんな簡単じゃなかったりするが、意外とそんな簡単なことが大事だったりするのだ
「それより勝手に入っちゃっていいんですか?正月さん」
「なに言ってんだまったく」
かわいい猫のキ-ホルダ-の付いた鍵を見せて言う
「俺は(ここ大事なので、やや強調)この家の主から鍵渡されてんだからいいんだよ。俺だけな(大事なので、2回言う)」
そして、それを扉の鍵穴にさすと回した
ガチャリと音がして鍵が開く。その瞬間、後ろからすさまじい気配が押し寄せてきた
「おじゃましま-す。一番乗りです」
「じゃまするぜ」
「じゃましますわ」
鍵を開けると間髪いれずに、俺を押し退けた三人組が中へ流れ込んでいった
さすがにこれは予想外だ
「くそ、親の顔が見てみたい」
頭に浮かんだのは目玉がクリクリの猿だった
「あぁそうか、猿か、猿なら仕方ない」
また意味のない納得をしてみる
「どうしたんですか?入らないんですか?遠慮は要りませんよ」
「お前が言うな」
一番乗りとか言って俺を突き飛ばした張本人のくせによく言う、まぁいいか
考え方によっちゃ、罠などの危険から俺を守るために先に入ったととれなくもない
考えすぎだとは思うが
「はぁ、じゃあ入らせてもらうよ」
「どーぞどーぞ」
そして、俺は三人の後を追って中へと入った
外は完全に日が落ちてしまい明かりは街灯だけになっていたが、最初に家に突入したハツカが電気をつけたようで家の中は明るかった
ここは玄関、そこからフローリングの廊下が奥へとまっすぐ通っており左奥に扉が一つ見えた
間取りを限界まで使った長い廊下。なのに扉はその奥に一つだけ、不自然だ
「さて何がでるか」
視線の先には、目の前の長い廊下に置いてある棚を見境なく物色する二人がいる
「金目の物、金目の物ないか?」
「それより通帳とハンコですわ。昔の写真や親の住所を調べて脅迫の材料もゲットですわ。そこから暗証番号も手に入れますわよ」
「姉貴、あと金庫だ」
「そうですわハツカさんのパンチでどんな金庫も一発ですわ」
まさに空き巣だ。とても堂々とした空き巣だ。現行犯もいいとこだ
俺は後ろ、まだ扉の近くで立つハツカに聞く
「どうしてお前の姉二人は、こんなにも黒いんだ?」
「あれが普通です。まぁイツカお姉さんは昔はもっと真面目で大人しかったんですが」
「そうか、現況はあのナノカか」
それにしても、見境なく動いているにもかかわらず二人は今のところ無事、罠は確実に仕掛けられてるとは言え何も起きていない
専門家でもなし警戒してるだけではなんともならないか、二人に続こう
彼女から自宅の鍵を受け取った時、彼女は「言ったと思うがちょっとした防犯設備がある、まぁお前たちなら大丈夫だろう。出がらしが」と言っていた
再三にわたって自分のアジトの罠の存在を教えて、警戒を促してくれる悪の科学者もそうはいないだろう。と、思いもしたが
今俺が考えてるのはそこじゃない
そんな意外に優しい悪の科学者は最終的に「まぁお前たちなら大丈夫だろう」と言っていた
多分この家に入るのが、このメンバーになることを想像していたんだろうな
その上で出た「大丈夫」の言葉なら、今はこの3体を信じてみるか
後ろで成り行きを見守るハツカをおいて、俺は靴を脱いで一歩を踏み出した
シュッ
その時、頭上を何かが通り過ぎた。ビリビリと電気が通っているだろうそれは、俺の頭上をかすめ高速で天井の角にあった監視カメラへと突き刺さると、そのまま絡めとるようにのたうち、開いた天井から落ちてきた大型の捕獲用ネットを切り刻み左右の壁へと破片を吹き飛ばした
これが「ちょっとした防犯設備」か、彼女の言葉を思い出す
ネチャ
空中でバラバラにされたネットの残骸。その中の1つ、近くの壁に張り付いたそれを近くにあった靴べらで突く、ネトネトとしており衣類などにくっつけば、簡単には離れないだろう。ついた靴べらもその状態で固定された
押しても引いても取れそうにない。強度も人の手でどうにかなる物ではないらしい
捕獲用トリモチネット
自作の防犯設備だろうそれは、原始的かつ大掛かりな仕掛けの罠で、製作者のこだわりのようなものを感じた
ただかなり効果的で、これに捕まれば人間に限らず獣やアンドロイドも無力化できるだろう
再び天井を見る。ネットもソレを切り刻んだ物もそこにはない
ネットを落とすため開いていた天井も閉じている
そのネットを切り刻んだムチのようにしなるメジャーは、既に彼女の手の中へと格納されている。
そう、ネットを切り刻んだ凶器の正体は、ハツカが地下で見せたあのメジャーだ。
別にメモリが見えたから特定できたわけではない。そんなもの早くて見えなかった
ただ、ソレが彼女の指へと格納されていく光景が、地下で見た光景と同じだったから気づいただけだ
彼女の話を信じたうえで仮説を立てるならば、それは攻撃範囲10メートルジャストの荷電式メジャーと言ったところだろう
音速に近い速さで射出され、そのままの勢いで振り回されるそれは、十分すぎるほどの殺傷能力を持つ、まさに武器だった
武装なんてあるのか?なんて言っていたが、俺は見せられていたんだな
「そのメジャーって武器だったんだな」
「そうです。私の必殺技です」
「そっか、助かったよ。ありがとな」
「そうですか、なら見せたかいがありました。これ、技表に載ってない技なんですよ」
「は?技表?」
「そうです隠し技でもあり、キー入力の難易度が高く間違って別の技が出ることがよくあります」
「嘘だよな」
「あと、手を使わずに脳波コントロールでき」
「どこの鉄仮面だよ。もはや言いたいだけだろ」
間違いなく言いたいだけだ、それは分かった。褒めたら付け上がる、それも分かった
よし、コイツを褒めるのは控えよう。そんな決意をした時、廊下の奥から大きな声が聞こえてきた
「金目の物見つけたぞ、ピンクの豚さん貯金箱だ」
戸棚の引き出しから捜し当てたであろうピンクの豚、ソレを嬉しそうに上へと掲げたイツカが見える
アレは・・・・・・
ツイタチお前のお金・・・
「中身はどうですのイツカさん」
「待てって姉貴」
守れ・・・そうに・・・ない
なんて考えてる間に目の前で豚さんは、あっさり割られた
イツカの足元には、豚さん貯金箱だったピンクの残骸と小銭が撒き散らされている
「小銭ばかりですわね。鍵とかはありませんの」
「くそ、しけてやがるぜ。五百円玉すらねぇ」
「仕方ありませんわ小銭だけかき集めて奥へ行きますわよ」
どこまでもこ悪党なやつらだ。そんなことを思いながら素直な感想をつぶやく
「いつかあの二人、天罰くらうぞ」
「そうですね。それも近いうちに」
「どういう意味だ?」
「単純です」
それにしてもどうして、廊下の戸棚なんかに貯金箱が置いてあるんだ?
貯金箱なら普通は私室においてあるんじゃないか?共有スペースで、しかも廊下になんて
「この廊下には落とし穴がありますよ」
ハツカが俺の少し手前を指さした
俺は一歩下がり足をもどし靴を履きなおす。その時、床が消えた
フローリングの細く長い床。その床がスライドするように右の壁に吸い込まれ。奥まで続いていた床が一瞬で消えた
テーブルクロス引きの要領で、上に乗っていたモノはその場に残り、やがて下へと落ちる。この場合のモノは、俺より前を行っていたナノカとイツカだ
ちなみに家具類も壁の中に消えていった。今ではその痕跡はない。なぜなら、それらが壁に格納されると同時に穴は白い壁で覆われたから
なんとも芸が細かい。ただ侵入者を排除したいなら電気を流すなりもっとシンプルな方法はいくらでもあると思うが
ずんっ
大きな音が縦長の穴の底から響くと、それに続いて声があがった
「何ですのこのベタベタしたのは、離れませんわ」
「ゴキブリホイホイかよ。ふざけんな」
「イツカさん、貴方の方がパワーがあるんです。何とかしてくださいまし」
「言われても、ムキー動けねぇ」
どうやらまたトリモチらしい。これは間違いなくこだわりだな、相手にダメージを与えずに無力化する
美春という科学者は、きつい性格してそうだけど優しいんだなと思う。それとも屈辱でも与えるのが目的なのだろうか?
トリモチで動けない相手を見下してほくそ笑むとか、なんかやりそうだ
「それより姉貴のドリルとかバーナーとかで何とかできねぇのかよ」
「それが、ハッチの部分にトリモチがついて、隠し腕が出せないですわ」
まだまだ穴の下では、無様な二人のやり取りが続きそうだ
あと・・・・・・ドリルってやっぱりついてたんだ
「さてどうするか」
「そうですね。お姉さま達は問題ないですから無視するとして」
「即決だな」
こいつはこいつで、人間味があるようで、わりと機械っぽいんだよな考え方とか
「ぶっちゃけ、私の護衛対象には含まれていませんから」
「そうか」
なんとなく予想していたとおりだ。このハツカというアンドロイドの思考、いや、あえて彼女の性格というべきか、任務や命令意外は基本どうでもいいと考えている。いい言い方をするなら、力を抜いて楽しめればそれでいい。と言った所か
多分だが彼女には、カセミカ計画阻止という命令は下されていないのだろう。だから今は楽しむモードなわけだ。変わりに入っている命令は俺の護衛、だからそこらへんは抜かりないわけか・・・・・・ん?
少し変だ
だとしたらどうして、俺が家に戻った時すぐさま俺と合流しなかった?
家が護衛なしでも安全だと判断したから、普段なら分かる理屈だ。だがあの時の家にはツイタチと悪の女科学者(ハツカ談)がいた。アンドロイド連中からすれば安全な状態ではないはずだ
千途が言うには、ハツカはその時、千途に何か相談を持ちかけていた
「どうかしましたか?」
「いやなんでもない、で?」
「はい、それでいったん外へと出て壁をぶち抜いて進入することを提案します」
廊下はスライドして壁の中に消えたまま、家の周りにも罠がある気がするが、ハツカが先導するなら問題ないか
それに、ここは普通ではない方法が一番いい気がする
「まぁいい、やってくれ」
「出番再び。メインヒロインの晴れ舞台です。盛大にいきますよ」
「誰がメインヒロインだ。誰が」
曇り空で星もなく、かなり暗い外に出て二十日のいうとおりの道だけをとおり俺は家の側面へ、そこで前を行くハツカは足を止める
こぶしに力をため、はなった
「石破自分ラーブラブ天驚けーん」
「勝手に自分のものにしてんじゃねぇよ」
壁を突き破ってリビングらしき部屋に入る。窓はカーテンが閉め切られてるのかとても暗い
だが俺は、この間も頭の隅で別のことを考えていた
さっきの落とし穴、もし俺が足を戻さなければハツカは助けてくれていたのか?と
天井から落ちてきたネットは、自分に降りかかる火の粉を払っただけだったのかもしれない
次の落とし穴において、彼女は警告のような言葉を告げたが行動はしなかった
ハツカの中で、何かが変わっている?新しい命令か?
命令が出せるとしたら、あの猿か?
分からないが、出会った時と今のハツカは違う気がする