発動カセミカ計画その5 道端雑談編
庭先に立っていた青年がゆっくりこちらへ迫ってくる、明らかに危険だ
「この状況ってなんだよ」
「さっ正月さんでしたわね、ささっと敵を倒して下さいですわ」
「だから、なんでだよ」
「方法とか具体的にわかんねぇがパパッとやってくれや」
「無理に決まってんだろ」
「持ち前の勇気とガッツと負けん気で乗り越えて下さい」
「んなもんねぇよ」
「女の子に囲まれて楽しそうだね」
「千途、お前は空気読め」
ここはあの手しかないのだろう、俺は意を決してその最後の手段に出た。
封印された冥界魔王としての力をここで解き放ち、真の姿を
今こそ見せる
なんて言うのは冗談だ
俺は逃げていた変な科学者が家に来て家来を暴れさせるからとゆう途方もない理由で
「ちょっとなんでお逃げなさるんですか?」
「そうだ敵前逃亡とはなさけないぞ」
「知るかお前らがなんか盗んで来たのが原因だろ!」
何故か逃げる俺についてきたのは、ハツカとナノカ。あまり親しくない(泥棒だし親しくなりたくない)そんな、ほぼ初対面の二人だった
「って千途の奴は来てねぇのかよ」
ある程度家から離れ追われてない事を確認すると足を止め息を整える
「はぁはぁ、で、なんで事の現況のお前らだけがついて来てるんだ、千途は?」
「千途さんならハツカさんと家に残ってますわ」
「なにぃ」
アンドロイド連中を置いてくるのに後ろめたさは微塵もないが、さすがに千途は
「まぁハツカは俺等と違ってノウキンもとい、戦闘用に作られてるし、あいつがいれば大丈夫だと思うぜ」
のうきん、脳みそまで筋肉と言うやつか、アンドロイドに対して使う言葉ではないよな。そんなことを思う
「正しくは戦闘用ではなく、道案内兼護衛用アンドロイドですわ」
「違うのかよ姉貴」
「違いますわ。戦闘用であればガトリングガンやミサイルの一つもついていてしかるべきですわ・・・・・・ねぇ」
「いや同意もとめられても」
実際そんな物騒なもん積んでたり、格納していたら相当ひく
て言うか犯罪だ。ドストレートの、いいわけの使用もない犯罪だ
「戦略核の一つも欲しいと、正月様ももうしてますわ」
「言ってねぇ」
そんなもん、積んでてもらってたまるかよ。どこの試作2号機だよ
そもそもハツカの心配などもとよりない。心配なのは千途だ。千途は……
千途も、あいつはあいつで、なんか心配なさそうなんだよな
「お前らは戦闘用じゃないのか?」
「俺は家事全般担当だ」
「ワタクシは電子機器修理が担当ですわ」
「意外だな。とくに家事担当ってのは」
「なんだとコラッ!家事担当アンドロイドだぞ俺は!言い変えりゃメイドロボだ!前言撤回し地面に頭こすりつけて有り難がれ!そしてわび入れた後に死ね」
「駄目ですわよイツカさん死ねなんて言っては、せめて死んでくださいましでしょ…………ねぇ」
「いや考えた結果、ねぇ、など同意を求められてもな」
もはや呆れてしまう、こいつ等アンドロイドは人に悪意でも持っているのか?あと家事担当だからメイドってのも安直過ぎるだろ
色々と思うところもあるが、俺も失言があった、それは認めよう
「別に否定した利、疑ったわけじゃない。意外だと言っただけだ。家事をこなすのに喋り方やイメージは関係ないのに、すまなかった」
「お、素直じゃねぇか。許してやるぜ。後この喋り方でメイドロボってのは逆噴射設定って奴だ。かっこいいだろ」
何でこいつらアンドロイドは、逆噴射するんだ?って言うか逆噴射したがるんだ?もとい逆噴射って言いたがるんだ?謎だ
「ところでお前らの言う悪の科学者は、あの白髪の女でいいんだよな」
「えぇ、そうですわ」
「具体的にあの女は、なにをしようとしてるんだ?ハツカは世界がピンチとか言ってたが」
「カセミカ計画ですわ」
「どんな内容だ」
「それは恐ろしくて口が裂けても言えねぇぜ」
「まったくですわ」
「お前らさっきから味方する気あんのかよ」
ないな。と半ば確信しながら言ってみた
「じゃあ話を変える。お前たちは、具体的になにができる?」
「どういうことだ。家事全般つってんだろ。掃除したあとに、洗濯ぶちかまし、手料理ふるまい食らわしたろかっ」
「とても魅力的で、かつ大助かりな提案だが今はいい」
「そうか?今なら初回大サービスで次回から使える5パーセントオフの割引券渡してやるぞ。メイドロボによる癒し空間だぞ」
金取る気かよ。しかも大サービスがたった5パーセントオフって、しかも割引券って、コイツどこまでメイドロボってのを絶対視してんだ
まて今これを言ったらまた話が脱線する
「そういうことじゃない。今この状況で戦力として正確な実力が知りたいんだ。何か特別な力はないのか?」
うーんと悩みだすイツカ。小声で、包丁で刺す。鍋で煮込む。など聞こえてくるが気にしない
すると横から、ナノカといったか、もう一体のアンドロイドが助け舟を出した
「それでしたらイツカさん、あれを見せてあげれば良いのではないですか」
「あれか?この状況で?」
「えぇ、イツカさんにしか使えない素晴らしい力ですもの」
「なんだアレって?」
「ほら、正月様も興味をお持ちですわ」
「分かったぜ」
気合と共に俺に向き直ったイツカが胸を張って言う
「俺はなんと汚れを数値化して見ることができるんだぜ。すげぇだろ」
俺はそれを聞いた時、本気で「?」と思った。つまり言葉にも出来ないほどの、漠然とした疑問だ
数秒考える。もはやこれは言葉どおりに理解するしかない
「いまいち使い道は分からないが……」
スッと道の向こう、子供たちが遊ぶ公園を俺は指さす
「例えばあの公園の遊具の、汚れ具合が分かると言うことか?」
「そのとおりだ。あと、おやすい御用だぜ。今すぐ教えてやる」
別に知りたくはないんだが、まぁいいか
目の前では既にイツカが公園を眺めていた。その目はハツカと同じで何かを読み取るように瞳孔の奥で光が動き、動き、うん嫌な予感がするぞ
「大丈夫か?オーバーヒートして再起動なんてしないよな」
「イツカさんはハツカさんとは違いますわ。見ていてください」
「そうか」
「そろそろ、ですわよ」
キュイーンと音が聞こえた。読み取り作業が終わったのかと思ったその時、ボンッとイツカの左のこめかみのあたりが爆発した
「だ、大丈夫なのか?」
「いつもの事ですわ」
「いつもなのかっ!?」
「ちっ、スカウターが」
「スカウターなのかっ!?」
こめかみから煙を出しながら「分かったぜ、奴の戦闘力は凄まじいぜ」とか言っている
うん、バカだな。ハツカと同じただのバカだ
「とまぁ、こんな感じですわ。ハツカさんとは違いますわ。あちらは再起動芸でこちらは体を張った爆発芸ですわ」
「確かに違うけど、リアクション的な意味で、って言うか芸なのか?」
「芸ですわ。爆発は本物で、頭部にダメージも受けてますが芸ですわ」
「そんな芸があるかっ」
ハツカといいコイツと言い、どちらも読み取り作業が失敗フラグなのは同じだ。でもこっちは軽く爆発とかしてるし、なに考えてるんだ開発者は
心配で見ているとたった今 頭部を爆発させたイツカが、こめかみを押さえながら話し出す
「汚れを数値化する機能なんだがよ。汚れが強すぎるとこうなっちまうんだ。困ったもんだぜ」
「こめかみから煙でてるぞ、大丈夫か?」
「問題ない。いつものことだ」
「そうなのか?」
「あぁ、後は頼んだ姉貴」
そう言ったとたん、バタンと倒れた
「これが、いつものだと」
「はい、いつもですわ。正直な話。イツカさんが汚れの数値化に、成功した姿を見たことがありませんわ」
「マジか。じゃあ、やろうとした時点で止めろよ。って言うか何でお前は勧めたんだよ」
そうだ。そもそもコイツが現況だった。助け舟どころか、三途の川の渡し舟じゃねぇか
「そんな、あのひたむきに自爆、もとい頑張ってる姿を見ると、止めるなんてできませんわ」
「自爆って言ったな、お前」
「それでは私は、この子の修理をしてきますわ」
そう言ってナノカは倒れたイツカをずるずると引きずって、路地裏の奥へと消えた
路地裏からはキュイーンとかバリバリとか、結構大きな音が聞こえる
「まさか、この場で修理してるのか、大丈夫か?」
音が消えてからしばらくして、二人が姿を現す。ナノカとイツカだ
イツカは何事もなかったように笑っている
「いやー心配かけちまったか?すまん」
「かまわんが」
「洗ってすぐの皿で試したこともあるんだぜ。でも今回と同じで、ボン。ほんと使いどころが難しい能力だぜ」
「いや、それはもはや欠陥だ」
こめかみから昇っていた煙は納まっている。どれほどの破損だったのか知らないが、本当に修復は済んでいるようだ
「それにしても機械修理担当とは聞いたが、驚いたな」
「そうですの?」
「あぁ、ここまで本格的とは思わなかった」
「本格的なのは当然ですわ。プロですもの、それに同胞の体と、時として命までも預かる存在として重い責任があると、常に考えてますもの」
「それは、いい心がけだな」
少し見直した。少なくともふざけて作ったAIプログラムみたいな思考をするハツカとイツカとは違い、このナノカは、まだ話せそうだ
「そう言えばちゃんと自己紹介してなかったな、島津 正月だ」
「五月 五日だ。汚れを数値化する程度の」
「それはもうやめろ、2度とするな」
「お、おう」
「私は七月 七日。旧式の電子レンジから新型の電子レンジまで完璧に直せますわ」
「なんだその限定的なのは?電子レンジ」
「はい、電子レンジのプロですわ」
急に範囲が狭くなったような
「さっきお前、そこのアンドロイド直してたじゃねぇか」
「はい、専門は電子レンジですが、必要ならばすべての機械を直しますわ」
「なんだ、それなら」
「ですが、専門以外を直すと決まってパーツとか部品が一つあまりますわ」
「なに?」
「ほら今回も」
「チップ……だと?」
突き出された彼女の手のひらには、小指の爪ほどの大きさの電子部品が置かれていた
いらない部品が、機械の中に入ってるとは到底思えない
つまり、これは……
「さっきからなに話してるんだ?もっと大きな声で話してくれないと聞こえないぜ」
「まじか?」
「あれ、左耳の調子が」
「おい。これお前の修理のせいじゃ」
「大丈夫ですわ。すぐ直しますわ。あっ」
「えっ」
ナノカの手からチップがこぼれ落ち、そのまま排水口へと、消えていった
「まぁ、そう言うことですわ。さて、話を戻しますわ」
「いいのかよ」
プロだの、重い責任があるだの、あの話はなんだったんだ
やっぱりコイツも他のやつと同じポンコツだ
「困った能力ですわね」
「いや、ただの欠陥だろ」
デジャブだ。さっきもこんな話をしていたぞ
頭が痛くなってきた
「どうかいたしましたの?」
「爆発か?お前も爆発すんのか?」
こいつらアンドロイド連中と一緒にいると、振り回されるせいか、とても疲れる
それにしても……認めたくないが、この二人といい庭先に現れた男性型といいハツカといい、凄まじく性能がいい
性能と言うのは表情や感情、AIプログラムそれら諸々だ。ここまで人間らしいAIを作り上げる技術は、今のこの世界にはないと思っていた
あえて言えば市販されているアンドロイドはこんなにも性能はよくない。とても残念な仕上がりであるといえる。また最先端の技術と莫大な資金で国家が作っても、これほどの物にはならない。市販されているものに毛がはえた程度の性能のものしか出来ないはずだ
それだけ別格。こいつ等は次元が違うのだ
現在の技術で作られるアンドロイドは無表情で、人の形をした多機能リモコンという認識がちょうどいい
「テレビをつけてくれ」と命令すれば、あらかじめ設定したテレビのうちから一番近いものの電源を入れる。リモコンは使わない。それを探す機能がないからだ
「これを温めてくれ」と命令して物を手渡せば、それを持ってあらかじめ設定した電子レンジの場所までいき、渡されたものが何であれ電子レンジの中に入れて電源を入れ温める。なお温まった後はこちらが取りに行かなければならない。熱いものを触れないからだ
それ以外の命令をすると、「受諾できません」の言葉を返してくる。アンドロイドのオーナーが最も聞く言葉ナンバーワンは、間違いなくこの「受諾できません」の言葉だろう
「今日はいい天気だね」「受諾できません」
「コーヒー入れてよ」「受諾できません」
「今、何時かな?」「受諾できません」
おおむね、こんな感じだ
設定でこの、「受諾できません」という命令拒否のセリフを「やだ、やりたくない」「無理、やる気でない」「すったもんだ」の内から選べたりする最新型もあるが、それだけ数年前から性能や技術的な進歩がない証だ
「醤油とって」「やだ、やりたくない」
「新聞とって来てよ」「無理、やる気でない」
「ストロングムーブするよ」「すったもんだ」
そんな素敵でハートフルなやりとりを、心ゆくまで堪能できる。堪能した後は自分で取りに行こう。それが最新型のキャッチコピーだ
とても心惹かれるキャッチコピーだが、だからと言ってそれをするために2000万近く出す者はいないだろう
これが今のアンドロイドと言うものだ。だから俺はハツカを、人間ではないかと疑った
何故なら俺の……
数年前、製作者不明でネットに上がり、多くの者をアンドロイド開発に駆り立てた。全てのアンドロイドの元となった設計図。
今なおそれを再現する事すらかなっていないオーバーテクノロジーの集合体。
通称「祖体設計図」
今は、もう消されて見ることの出来ないそれを最初に見た時、俺の頭に浮かんだAIプログラムは、実現させればハツカのように思考し話す。まさにアンドロイドの命と呼べるものになるはずだったんだ
先を越されたという悔しさなんてものは、研究に行き詰まってた俺が抱くべきものではないのだろう
ただ、どこの天才か知らないが島津 賢郎。その人物に合いたいと思ったのは、ただの好奇心だけではなかったはずだ
「なぁ、いくつか聞いていいか?」
「なんだ?メイドロボらしくズバッと一撃必殺で答えてやる」
「あ、あぁ」
こいつの中のメイドロボのイメージはきっと、目からビームを出して語尾に「にょ」とか付けるんだろうな。と思った
それはさておきだ
「お前ら二人と、あのハツカは俺の曽祖父、島津 賢郎の作品でいいんだよな?」
「あぁ、3人ともあのジジィの作品だぜ。ちなみにこのイカシタ名前をつけたのもあのジジィだ。カッケーだろ」
「まぁ、ジジィだなんて、駄目ですわよジジィなんて言っては、せめてエテコウでしょ…………ねぇ」
「いやだから考えた結果、ねぇ、など同意を求められても困るんだが」
その猿についても疑問は残るが、それよりもだ
「じゃあ、庭先に現れたあの……ツイタチって呼ばれてたか?あの男性型のやつ、あれは誰の作品だ?」
「知らん。って言うかこっちが聞きたいあれは何だ」
「ほう」
つまり島津 賢郎の作品じゃないのか?あの白髪の女の作品か?あんなものを作れる人間が、そうそういるとは思えないんだが
考えていると、デスワもといナノカが話し出す
「正直に申し上げますと、イレギュラーはなはだしい存在ですわ。私たち二人でも手に負えない相手でしたわ」
「そうなのか?」
「えぇ、私がとっさの機転で近くを通った小学生を人質にとり、さらに近くを通った老人の足を引っ掛けて転ばせて難を逃れましたけど、恐ろしいやつですわ」
「恐ろしいのはテメェだ」
「大丈夫だ。姉貴が巻き込んだ二人とも、あの男が華麗に助けてたぜ」
「向こうの方が、めっちゃいい奴じゃねぇか」
ここで今回手に入れた成果をあげよう。どうやら「ですわさん」ことナノカが姉で、「だぜ」ことイツカが妹らしい
そしてツイタチって奴は、悪い奴ではないかもしれない
あとアンドロイドはすべからく、めんどくさい連中のようだ
「ふむ、じゃあ島津 賢郎とあの白髪の女は、関係とか繋がりはあるのか?」
「ぞんじませんわ。悪の科学者であるという情報以外ありませんわ」
「俺たちはあの女の家に行って騒動を起こし、悪の計画を妨害するのが任務だっただけだぜ」
「悪の科学者の悪の計画、ねぇ」
こうなると困るなぁ
「あと、なんで島津 賢郎は猿なんだ?」
「正確にはオナガシロメガネザルですわ」
「あぁ、そうらしいな、俺はお前たちの妹であるハツカから、そのサルを曽祖父として紹介された。でだ、なんでサルなんだ?」
「逆になんでサルじゃないと思ったんだ?結構な年寄りなんだからサルになっててもおかしくないぜ、そうだろ」
「そうですわね」
やっぱりそうきたか
「つまりだ。あの猿は島津 賢郎、これは揺るがない事実ってことでいいんだな」
「おう。意味わからねぇ確認だが、そのとおりだぜ」
「私たちにとって、あの猿こそ賢郎様ですわ」
こうなると困る、と再び思う
これで進展する可能性はほぼゼロとなった
どこまで行っても機械の思考はAIによるプログラムだ。ソレがどんなに優秀でも、プログラム内に「あの猿が島津 賢郎である」と刻まれていれば、ソレがどんなにおかしくても、疑う余地のない現実として受け入れる
あの白髪の女は、悪の科学者で、悪の計画を企てている。そこに疑問の余地はないのだ。少なくとも、彼女たちの中には
これがアンドロイドの限界だ。俺が作ろうとしたAIも、思考するAIを目指しながら、もととなるプログラムには逆らわない。そこには不可侵のルール、つまり「殺人の禁止」などタブーを入れればいいのだが、そうではない嘘の常識を入れた場合、今のようにありえない発言につながる
このままこいつ等に、「島津 賢郎は猿である」ことのおかしさを説いても、意味はないだろう。逆に「島津 賢郎は猿である」ことの正しさを説かれるかもしれない。
バカみたいな話だが、こんな話でも水掛け論になる
正論なんて意味はなく、論破することにも意味はない
さてどうするか、考えるまでもない
「帰るか。家に」
「島津 賢郎は猿である」このおかしな状況に答えをくれるのは、母さんだろう。母さんはアンドロイドではない存在でありながら「島津 賢郎は猿である」を肯定した
「何か策でもおありになりますの?」
「そうだな、向こうの状況がわからないのが問題だな。警察でも連れて行くのが妥当だが、盗みを働いた連中と一緒ってのが非常にまずい」
「まったく、困ったものですわね」
「お前らがな」
まずは状況の把握だ。家にはハツカがいる以上、既におかしな連中は撃退している可能性もある
希望的な観測だが、確認として一度、家に電話してみるのも悪くない
携帯を取り出し家に電話をかけてみる。数回のコールの後、電話に出たのは千途だった
相変わらずのマイペースで緊張感など感じられない千途は、こちらの質問にはほとんど答えず「いいから帰ってきなよ。面白いことになってるから」と言って一方的に電話を切った
その後、何度かかけなおしたが電話には誰も出ず、しばらくして通じなくなった
「どうなさいましたの?」
「いや」
電話線を抜かれた。そう思った
これは、いわゆる初歩的な迷惑電話対策だ
そろそろ腹を決めよう
勢いで逃げたが、進展しないのはまずい。ならば、ここにいても仕方ない
今も家には千途がいて、それに母さんもいずれ帰ってくる
自分が元凶などとは微塵も思わないが、それでも自分の知り合いが巻き込まれていて、自分だけが難を逃れるのも少し目覚めが悪い
今さらどの口がという気もするが
「決まった。帰ろう」
「戦うんだよな」
「いや話し合いたい。最悪お前らは引き渡す。どう聞いてもお前らが悪人だからな」
「それも、かまいませんわ。ねぇイツカさん」
「おう、いくぜ。これがラストバトルだ」
一人テンションが違うイツカ、まるでロールプレイングゲームの決戦前夜と言った感じだ。そんな流れだったか?
そんな妹を見て、ナノカが首を傾げて言う
「この子って、昔はもう少しおとなしい性格だったのに・・・・・・ねぇ」
「ねぇ、とか言われても知らねぇし」
「よくこめかみを爆発させてるのが原因かしら?でもそのつど修理はしてますのに」
「ていうか、そのお前の修理が原因なんじゃねぇのか?」
「あら、修理のあとに余ったパーツは、ちゃんと外で屋根に向かって投げてましたわよ」
「抜けた歯じゃねぇんだから。そこはちゃんと戻せよ。戻してやれよ」
とんでもねぇ姉もいたもんだ。そんなことを思って呆れる
さてと、バカみたいな話はここまでにしよう。イツカの言葉じゃないが、本当に戦いって展開になるかもしれないんだ
その時は、迷わずにもっと本気で逃げよう
そう決めて家に帰った
しかし状況は思っていたものと凄まじく違っていた
家の広間にて
「まさかここが先輩のご自宅だったとは知りませんでした。手下を暴れさせてすみませんした」
「いいのよ、ちゃんと片付けてくれれば」
「はいっ、それは全力でやらせていただきます」
悪の科学者が俺の母さんに頭を下げていた。そして部下だった金髪の青年は長い金髪を1つに纏めて、テキパキと家を綺麗に掃除している
ここに悪は滅び、世界の平和は守られた
ギアスでも使ったのかよ、母さん
「発動!カセミカ計画」 完
いや、終わらねぇし
まさか、ざつだんがここまでながくなるとは