G・ガール! 4
四
待ち合わせ場所は、球場の前だった。
爽汰と理沙子のそれぞれ住んでいる方角が、丁度球場を挟んで二手に別れているせいで、現地集合になったのだ。
それも後から考えると、爽汰にとっては良かったのかも知れない。
理沙子と二人で電車に乗る事を考えたら、また意識が飛びそうに緊張してしまったからだ。
ナイター開始の三十分前に、チケットに書かれたゲート前に集合の予定。爽汰はその更に三十分前に待機していた。
しかし、理沙子も負けずにその十分後には現れた。
「青山くーん!」
芋洗い状態の混雑する球場周辺の人ごみの中から、手を上に振りながら理沙子は跳ねて声をかけて来た。
いつも見る、セーラー制服姿の理沙子とは違い、ピンクのTシャツ、デニムのミニスカートにスニーカーというカジュアルな服装で、髪を後ろに一つに束ねている。
「早いね! 待ち合わせまで、二十分もあるのに。絶対私の方が先だと思ってた」
溢れるような笑顔と共に、理沙子は爽汰を見上げて言った。
近くで見ると、ほんのりメイクもしているのがわかった。瞼の上に淡いピンクのシャドウと、唇に透明のグロスを塗っているようだった。学校よりも少し大人っぽい表情の理沙子に、爽汰はぼうと見とれてしまった。
「ねえ! あれ、買わないと!」
理沙子が指差したのは、野球の応援には欠かせない、プラスティックのメガホンだ。
ついさっきまで、大人びた表情を見せたかと思うと、今は子どものようなキラキラした目で、売店に夢中になっている。
爽汰は、息苦しいような気分だった自分を少し恥じながら、気分を変えることにした。一緒に楽しもうと決め、そして、言った。
「メガホン、買いに行こう。俺、タオルも買っちゃおうかなー」
あ、なら私も、と笑いながら、二人は球場の奥へと向かって歩いて行った。
球場の中は、双方の応援団で埋め尽くされるスタンド席がカラフルで、お祭りのような盛り上がりだった。夏休みという事もあり、家族で応援に来る人や、子ども達の姿も目立った。
球場の周囲に広がる通路には、焼きそばやお弁当、様々なスナックを並べる売店が連なり、ついつい持ちきれない程買い込んでしまう。
ここにいるだけで、野球に詳しくなくてもなぜかわくわくさせる雰囲気がある。勝手に気分が盛り上がってくるのだ。
二人の席は、一塁側のなんと前から三列目というグラウンドからすぐの所だった。これには、野球観戦になれている理沙子も驚いた。
「わああ、こんな近い、すごい! ねえ、ここなら、選手の表情もはっきり見えるよね?」
爽汰は嬉しかった。もちろん、この恵まれた座席の事ではない。
理沙子がこんなに喜んでくれている。たとえ、その気持ちは爽汰とは一切関係のない感情であっても、もう構わないと思った。
「頑張って応援しないと、選手にも見えちゃうな。気合い入れないと!」
そう言う爽汰に、理沙子は破顔して答えた。
「プレイボール!」
試合は始まった。