G・ガール! 22
八
電話の呼び出し音が鳴る機械的なメロディーが、家の中に響く。
爽汰と徳二郎は、二人ともその音に起こされた。
気がつくと辺りはうす暗くなってきている。
あれから、小一時間寝ていたようだ。
のろのろと爽汰が玄関の前にある電話を取りにいく。
しつこくなり続ける呼び出し音に、うるさそうにしながら爽汰は受話器を取る。
「はい、もしもし青山です」
『あ、爽汰? 俺、悟だけど。どーしたんだよ、お前、携帯繋がんねーよ?』
深夜な訳でもないので寝ていたとも言えず、極力普段通りを装って話してみる。
「悟か。ああ、そうなんだよ。水没させちゃってさ。だめになっちゃったんだ。新しいの買う金もないから」
『なんだ、そうか。携帯ないと、不便だなー』
爽汰は頭をポリポリしながら聞いた。
「で、どうしたの? 何か用があったんじゃないの?」
『そうそう! そうだよ、お前、一昨日の理沙子ちゃんとのデートの報告してこないんだもん。何かあったのかって、どうしても気になってさ。今日、昼頃お前の家行ったんだけどさ、誰もいないし』
爽汰は少し憂鬱になった。
悟は、大好きな友人だ。
だから、本当の事を話したいとも思うが、これは自分だけの問題ではない。
理沙子も悟とはクラスメイトなのだ。
勝手に自分の判断で、理沙子にこれ以上面倒な思いをさせたくない。
もしも、理沙子が元に戻って、事が落ち着いたら、ちゃんと話そう。
信じてもらえるかはわからないけど。
『もしもし? もしもし、爽汰聞いてるか?』
「あ、ああ。ごめん。その事は……今度会って話すよ。今は、勘弁してくれ」
話したがらない爽汰の口調を読み取った悟は、数秒の間を開けて、思いついたように話しだした。
『なあ、爽汰。今日、熊野神社のお祭りだって知ってたか? さっき通ったら、結構人も来てた。よかったら、気晴らし……あっと、そうじゃなくて、暇なら行かないかと思ってさ』
悟の気遣いに、優しく笑いながら、爽汰は返事をする。
「ありがとう。もし気が向いたら行くよ」
『……そうか。じゃあ、また、連絡するよ。おい、早いとこ新しい電話買えよ?』
「うん、オッケー。またな」
受話器を置いて、爽汰はため息をつく。
いつになったら、笑ってこんな不思議な事を話せるときがくるんだろう、と思った。
本当にそんな時がくるのかな、と。
「誰から電話だ?」
徳二郎が、黙って立ち尽くしている爽汰の様子を見に来た。
「友達、学校の」
そうか、とそれだけ言って、徳二郎は部屋へ戻ろうと後ろを向いた。
でも、その後ろ姿が、なんだかとても切なくて、それは祖父ではなく理沙子の背中なのに、まるで、小さい頃によく見た景色のようで、爽汰はなぜかとても胸が締め付けられた。
「じいちゃん」
爽汰は呼び止めた。
「ん、なんだ?」
徳二郎は、ゆっくり振り向いた。
「お祭り、行かない?」
じっと爽汰の顔を見つめた徳二郎は、見た事もない、くしゃくしゃの笑顔で答えた。
「ワシは、祭りっこさ大好きだ」