G・ガール! 13
五
徳二郎の体が横たわっている病院の一室には、爽汰の母、幸恵の姿があった。
幸恵は、未だ昏睡状態で、意識の戻らない父の顔を、何をするでもなくただ見ていたのだった。
「あら?」
そのとき、幸恵は一瞬、父の顔に変化を感じたような気がした。
ちょうど、階下で飲み物を買いに行っていた拓治が戻って来た。
「どうかしたのか?」
後ろ手に病室のドアを閉めながら、拓治は聞いた。
夫の顔を一度振り向き、またすぐに横たわる父に向き直った幸恵は、そのまま言った。
「今、父さんが笑ったような気がして……」
「……笑った?」
拓治も、ベッドに近寄り、その変化を探し見る。
しかし、その目には、先ほどまでと何も変わらない、管を通され痛々しい顔の義父の姿しか映らなかった。
「何も、変わってないように見えるが。本当に笑ったのか?」
幸恵は、すぐに返事をせず、じっと父の顔を見据えた。
そして、ぽつりと言った。
「……そう、思ったのだけど。私の勘違いかしらね……」
乗り出していた体を、椅子の上に戻し、幸恵は、はあ、とため息を漏らした。
その様子を見て、拓治は片手を妻の背中に静かに置いた。
「……疲れているんだろう、幸恵。少し休んだらどうだ?」
幸恵は、小さく首を横に振る。
「大丈夫よ。なんだかね、こんな事になったっていうのに、父さんの顔見てると、ほっとするのよ……なんででしょうね。父さんが幸せそうに、見えるのよ」
拓治は、ゆっくり幸恵の背中をさすって、言った。
「きっと、楽しい夢でも見てるんだろう」
幸恵は、薄く笑いながら答える。
「きっと……そうね」
その部屋には、一番空高くに差し掛かった太陽が、まっすぐな光を部屋に差し込ませていた。