表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

跡取り息子≪後書き≫

作者: 古河晴香

これは「跡取り息子」という、

拙作の短編の後書きになります。

ネタバレをしていますので、

本編を読んいただいてから、

この解説を読んでいただければと思います。

よろしくお願いいたします。





最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

後書きを書かせていただきます。


 ミルドレッドは無垢で狡猾です。この「無垢」と「狡猾」という相反するイメージを持って来て、印象づけようと思いました。

 「無垢」というのは、一途に前夫を愛したピュアさです。その一途で純粋な愛情ゆえに、夫の愛した家を守るために戦おうと決意しています。

 「狡猾」というのは、その目的のためならば、妊娠中であることを隠してまだ17歳のアルバートを籠絡し、詐欺行為に加担させることも辞さない悪の面です。

 ミルドレッドは自身が悪女である自覚はありません。自分が正義と信じた純粋な目的のために邁進しているだけです。そのために手段を選ばないことも、悪とは思っていません。ピュアで無自覚で自己反省の無い悪女です。その迷いの無い様は一種、魅力的です。

 アルバートは、そんな彼女の全てを理解した上で、彼女に尽くします。「あなたの存在からはフルーツの香りが漂う」フルーツは健康的で瑞々しいのですが、同時に甘く誘惑的な面もあります。ミルドレッドの無垢で狡猾な印象は、フルーツに通じます。

 喪服を着ながら、パーティーに出没し、婉然と笑む女性。亡き夫に対する愛のために、共犯者となる新しい夫を探していた女性。亡き夫への愛のために盲目になり、新しい夫となるアルバートも目的のための手段に過ぎず、そのことに罪悪感も感じない女性。

 お腹の中の子供は女か男か分かりません。産まれてみなければ分からない時代です。でもどちらが産まれても、亡き夫と同じ名前を付けようとミルドレッドは決めていました。

 爵位を継がせるために女の子を男の子と偽ることも、その子のためだと思っていました。

 出産に立ち会った侍医くらいは秘密を共有しているかもしれません。産婆には口止め料を払ったことでしょう。

 ミルドレッドは持病があったのか(たとえば心臓が弱いなど)自分が早逝することを見越していたようです。自分の死後を見越して、年若いアルバートを自分の子の庇護者に選んでいます。

 そして、アルバートはミルドレッドの死後も彼女の掌の上で転がされている感覚でいます。自分が庇護しているクリス、義理の娘であるにも関わらず、恋をしてしまっていますが、将来、恋をすることすらもミルドレッドは見越していたのか、と疑っています。恋をすることで、変わらずクリスを守り続けるだろう。そのために年若い相手を再婚相手に選んだのかと。

 クリスは女性にも関わらず、男として生きることを余儀なくされ、そうした母を恨み、一方で、自分のためにそうしてくれた母を愛し、そんな母に従ったアルバートを、愛し憎みます。同時に、アルバートが余りに母に忠実なので、母に対して嫉妬し、彼が自分に仕えてくれているのも全て母を愛しているからなのかと、憎らしくも思います。そんな葛藤も抱え、クリスは思春期の一時期、拒食症に陥りかけたこともあるかもしれません。花開くことを止められて、神経質で痛々しい娘。彼女をそうさせたのは、ミルドレッドとアルバートです。ミルドレッドは亡き夫の大切にした家を守るためと、産まれてくる子供のためも思って。アルバートは、そのミルドレッドの願いを叶えるために行ったことですが、結果として良かったかは分かりません。大人の都合でクリスを犠牲にしてしまったとも言えます。今更戻ることはできませんが、アルバートは責任を感じて、クリスを守ろうと決意したことでしょう。

 そんな嵐のようにつらかった思春期もすぎ、クリスも17歳になります。母も亡くなって時間も経ち、二人の時を過ごしていると、アルバートは自分を好きなのではないか。母のためだけではなく、自分のことを好きになっているのではないか、とクリスは思っています。しかし、アルバートはそんなそぶりを微塵も見せず、作り微笑を浮かべているだけです。アルバートも自分で自分の気持ちに気づいてからは、仕事と称してクリスを避けがちになっています。

 そんなアルバートがもどかしく、クリスは自分で自分の愛憎含んだ気持ちに自分でもとまどい、それも含めてアルバートに助けてもらいたいような義父に甘えるような気持ちもあり、混乱しながらも、その混乱をそのままアルバートにぶつけようとする様は、アルバートからしてみれば非常に誘惑的で、母に似て無垢で狡猾に思えてしまいます。クリスには自覚がないのですが、アルバートは彼女の魅力に抗えません。

 アルバートのネクタイを掴んだクリスは、恐らくキスをすると思うのですが、首を絞める、という可能性も無いわけではありません。どちらにしても、どちらもする権利を彼女に与えて、アルバートは目を閉じます。

 実は、アルバート自身も、無垢で狡猾なのではないかと思われます。



 このお話は、私が中学時代に、川島芳子やジョルジュ・サンドといった男装の麗人に憧れて、クリスという男装の麗人である英国貴族のキャラクターを作り、彼女が日本の高校に転校してきて、事件に巻き込まれて誘拐されたりする、というお話を考えたのが元です。

 その作中ではアルバートはまだ、ただ憎いだけの義父、という役割で、物語が進むにつれてお互いに恋に落ちる(見た目BL)みたいな展開を考えていました。

 考えただけでなかなか作品を書けずにいましたが、そのクリスが男装をしている理由の部分を短編にしてみようと思い、この「跡取り息子」にまとめたという次第です。

 なかなか手がつけられていませんが、いつの日か本編を書きたいと思っています。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ