表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/17

探偵

 密猟の決行から三日が経った。

 密猟によって得た「ヒダツキヒダナシホロヨイタケ」は、例年市場に出回る量の三倍にも及び、とてつもない額の金が入り込んできた。

 バートラムは泣いて喜び、規定の手数料の五倍以上を支払い、メーガンの預金口座はかつてないほどの賑わいを見せた。


 しかしメーガンは、金などその気になれば幾らでも稼ぎ出せると考えていた。今彼女の思考を独占しているのは、あの奇怪な巨人型の弁駁獣の正体についてだった。

 結局、バートラムは別の群生地を見つけ、そこでしこたま毒茸を採取し、望外の成功を収めたのだが、あの弁駁獣があの後どのようになったのかを見ることはできなかった。


 あのまま死んだのか。それとも生き残ったのか。


 死んだのならいい。しかし、もし生き残っているとしたら。あの突然変異種は毒への耐性を得たことになる。

 そして毒茸の栽培と弁駁獣の飼育を同じ空間で行っているのは、まさしくそれが理由なのではないか……。メーガンはそういう仮説を立てていた。


「毒への抗体か……。それならそれで、有意義な研究だが」


 しかしこの眼で見た弁駁獣のあまりに異様な姿に、黒い思惑を想像してしまうのは、あまりに非論理的だろうか。

 メーガンは自宅のソファの上で思索に耽っていた。アゼルへの復讐、という目的を失って、自暴自棄になる自分を想像していたのだが、そんなことはなかった。

 彼への恨み、怒りが自分の全てだと期待していた。あるいは、諦観していたとでも言うべきか。

 しかし人間がどこまで論理学を突き進めようと、意識や知性は肉体に規定され、肉体が本能

からの欲求として生きることを要請するのであれば、それに従うしかない。


 メーガンは溜め息をついた。読みかけの雑誌で日除けを作り、ちょっと昼寝をしてやろうと構えた。

 そのときちょうど、通信が入った。懐に入れている端末機が振動する。

 面倒に思いつつも、液晶画面の名前を見て慌てて出た。


《メーガンか? 今、時間あるか》


 渋い低音の声だった。調査会社に勤める知人のマティアス。元サプレスの捜査官で、かつて猟犬として国際犯罪者を追跡した嗅覚を、探偵業務に生かしている。


「時間? あると言えばあるし、ないと言えばない。人生八〇年って短く感じるタイプ?」


《駄弁を弄する時間があるのなら、大丈夫そうだな。調査終わったぞ》


 マティアスの声が笑みを含む。マティアスは優秀な探偵であり、メーガンは彼に何件か調査を依頼していた。


「もう終わったのか。さすがだな」


《こんなの、警察にコネがあれば一発だ。読み上げるか? それとも書類にして送ろうか》


「別に危険な内容じゃないし、口頭でいいよ。書類は結構」


 メーガンは言った。そう、危険な内容を依頼したわけではない。警察にコネがなくとも、地道に調査すれば突き止められるはずだ。

 マティアスもメーガンの言葉を否定しなかった。しかし、


《実は今、近くまで来ている。寄っていいか? 最初からそのつもりで電話したんだが》


「近くまで? こんな辺鄙な田舎町の近くって……。農業でも始めるのか」


《ドミノ計画関係でちょっと用事があってな。基礎理論の構築を担当することになった。今はしがない興信所の調査員だと断ったんだが、恩師の頼みで……。ライセンスなんか取るもんじゃない》


 論理界層を構築したり、論理兵器を開発したり、その使用を監督したり、規制に踏み切ったりするのには、ライセンスが必要となる。A級が最上であり、マティアスはBプラスを所有しているはずだった。

 ライセンスの獲得は生半可な努力では叶わず、エリート揃いのサプレスの捜査官でも、ライセンシーは半数程度のはずだった。


「ドミノ計画ねえ。実現するのか、そんなの」


《最初の牌を倒すのは難しくない。問題は一般化できるかどうかだ。数学的帰納法だけでは厳しいから条件を緩和してくれと訴えたんだが、お歴々は半導体の頭脳が入り込むのを毛嫌いしているらしくてな。美しい数学だの、見栄えだの、一見して分からない規則性だのを未だに崇拝しているんだよ。機械に全通り演算させれば済むことも、法則があるはずだから簡潔に表現しろと、そればかり。パズルでも解いているつもりなのか知らんが》


「愚痴なら直接聞いてやるよ。傍受されてたら厄介だぞ」


《ふふ。そうだな。……メーガン、失踪していた間のこと、聞かせてもらうからな》


 通話が切れた。メーガンはソファから起き上がり、ここにマティアスが来るのか、と部屋を見回した。


 多少は整理しておいたほうがいいだろうと判断する。少なくとも生ごみが散乱していたら不潔な女と思われるだろう。マティアスはそういうことを気にしそうな男だった。

 一〇分ほどビニル袋を片手に徘徊したが、ソファ周りのスペースを確保しただけに終わる。自分の無力さを噛み締めているところへ、玄関のベルが鳴った。


 戸口に出ると、精悍な顔立ちに栗色の短髪を載せた長身のマティアスが佇んでいた。汗ばみそうなオーバーコート、何が入っているのかいつも不思議に思う革鞄、冷気を纏う独特の雰囲気、記憶通りの出で立ちだった。


 その傍らには見慣れない人物が立っている。金髪の不機嫌そうな女で、メーガンより少し背が高い。眼鏡をかけていることを除いて、まるでマティアスの恰好を模倣したかのように彼と同じ服装だった。青いフレームの眼鏡の奥には鋭い銀色の双眸が光っている。


「ようこそ、我が城へ。愛人連れか?」


 メーガンは部屋へ誘導しながら言った。マティアスと女は顔を見合わせる。女はさっさと否定しろという顔だった。


「いや。彼女は私の後輩でね。社内でも随一のやり手だ。名前はシェリル。元サプレスの特務部隊員で、当時のコードネームはミストラル」


 凍てつくような視線、隙のない立ち居振る舞い、肌がピリピリするような空気。なるほど、国際犯罪を取り締まるサプレスの猟犬らしい外貌だった。


 シェリルはメーガンの家があまりに散らかっていることに舌打ちした。


「マティアスさん、用件が済んだら呼んでください。時間が惜しい」


 その声の棘には、さしものマティアスも苦笑した。


「分かった。好きにしろ」


 シェリルはメーガンを一瞬睨みつけてから、さっさと辞去した。ものの十数秒の訪問客であった。

 メーガンは窓際に立ち、マティアスをソファに座らせようとしたが、彼は立ったまま話をするつもりのようだった。ポケットに両手を突っ込んで、顔を顰めている。


「それにしても、酷い散らかり様だな。家政婦でも雇ったらどうだ」


「検討は何度もしたが結論はいつも同じだった。費用便益分析によれば現状が一番だそうだ」


「散らかっているほうが落ち着くというのであれば、まさにそうだろう。しかし友人を招くこともできまい」


 メーガンは眉を持ち上げた。腕を組んで顎を引き、辣腕の探偵を見据える。


「友人はいないから問題ない」


「私は友人ではないと?」


「先に友人じゃない、と言ったのはお前のほうだぜ」


 マティアスは少し考えてから頷いた。


「言われてみればそうだな。失礼した。友人として聞くが、行方を晦ましていた数か月間は何をしていた」


「調べはついているんだろう」


「戦争が激化していたアイレン島に潜入したところまでは追跡できた。いかがわしい軍事探偵と結託して情報を収集し、無謀とも思える取引を繰り返して、まるで人生の終着点をそこだと定めたかのようだった。無鉄砲な行動記録を山ほど見つけた」


「それで推論の材料は十分」


「アゼルと何らかの取引があったことまでは推測できる。ただしその成果は表に出てきていないようだな。全て話せとは言わないが、興味がある」


「マティアス、アンタほどの男に聞くのも野暮かもしれないが、覚悟はあるんだろうな?」


 マティアスは窓辺に立つベルト女を一瞥し、すぐに視線を逸らした。ゆっくりと息を吐いてから、もう一度揺らぎのない眼差しを向けてくる。


「覚悟……、と言うと?」


「お前が探ろうとしているのはアゼルだ。オレじゃあない。分かっているんだろう。サプレスや国家機関もアゼルに夢中だ。無用な衝突を招くかもしれない」


「それは私の振る舞い次第だろう。それに私はアゼルを長年追ってきた。今更そんな覚悟など問われるまでもない。まあ、話したくないというのなら、無理強いはしない。今日は顧客に調査結果を報告しに来たわけだから」


 マティアスは革鞄から書類を取り出し、中身をざっと確認した後、メーガンに手渡した。


「書類なんか要らねえって……。どんだけアナログなんだよお前」


「すぐに破棄すればいい。三件の調査依頼における成否だが、いずれもクリアした。早速報告に移りたいが、いいか?」


 メーガンは書類をおざなりに捲りながら頷いた。


「どうぞ」


 咳払い一つ、マティアスは淡々と話し始めた。


「まず一つ目、某低層公園の正式な所有者についてだ。複数の組織が一定の割合で合有しているとの公式発表だが、実質的に管理しているのは農業科学研究所の一所員、オールストンという男だ。この研究所の持分権は公園の数パーセントに過ぎないが、同じ連名で数多くの論理世界を経営しており、その空間の支配は実質、個人に託されているらしい」


 メーガンは書類を捲りながら考えていた。あの奇怪な弁駁獣が潜んでいたのは、個人の研究施設だったということか。管理が杜撰だったのもその所為か。


「農業科学研究所ね……。人口が爆発的に増えている昨今、有意義な仕事なんだろうな」


「詳しい財務状況や研究成果は書類に書いてある。研究員を含め、不審な点はない。次、二つ目の依頼。ヒダツキヒダアリホロヨイタケ……、とかいう毒茸についてだったな。この毒茸から抽出される毒成分は極めて強力、かつ特徴的な身体の異常を齎す。この茸が犯罪に使われた記録は一切なかった。警察のデータベースを閲覧してみたが、殺人、自殺、事故、密売買、怪しい記録もなかった。市場に出回っているようだが、主な用途は弁駁獣の駆除――密猟者が好んで使用する毒のようだ。使用、所持及び栽培には認可が必要」


「そうだったのか」


 きっとバートラムは知っていたのだろう。あの男は臆病だったから、弁駁獣が出没するエリアにはけして挑もうとはしなかった。だからこんな毒を使用する機会にも恵まれなかった。メーガンが毒茸について知らなかったのはそういう理由だ。

 マティアスは抑揚をつけずに続ける。


「三つ目の調査報告に移る。ワイドテクニクス社が開発した熱探査アプリの動作について。プログラム解析にかけたところ異常は見つけられなかったし、ユーザーからもネガティブな報告はほとんどない。ホスタイルな操作感が批判されてはいたがな。無料だから不具合があってもなかなか報告されないというのもあるかもしれないが、少なくとも今回の調査ではソフトウェアの不備ということは考えられない。お前の端末自体がいかれたか、お前がプログラムを弄って不具合を誘発したか、どっちかだな」


 弁駁獣が接近したとき、弁駁獣の熱反応どころか、メーガンの熱反応まで消えた。あの不可解な現象が頭からこびり付いて離れず、探偵に調査を依頼までした。

 しかし異常だったのは弁駁獣のほうだった。それは直感から分かっていたことだった。それを裏付ける結果が出て、推測が当たったにも関わらず、釈然としなかった。


 あの弁駁獣は何なのだ? 元が獣のはずだから、多少なりとも熱を発しないことには生きていけない。

 論理改造により既存の常識が通用しない新生物が誕生したとでも言うのだろうか。


 マティアスが沈思黙考するメーガンを眺めていた。彼女はそれに気付き、咳払いした。


「三件とも、了解した。代金はいつもの口座に」


「……引退するって、本当か」


 マティアスは唐突に切り出した。メーガンはすぐにバートラムの顔を思い出した。引退云々はあの小悪党にしか話していない。あの野郎漏らしやがったのか。


「耳が早いと感心するべきか、口の軽い相棒を持ったと嘆くべきか……」


「奴を責めるな。私が問い質した。話さなければ密猟の咎でサプレスに報告すると脅した」


 その強硬なやり口に、メーガンは驚いた。マティアスは腕をポケットから出し、指をゆっくりと順番に折り曲げていく。自分の握力を確かめているかのようだった。


「調査報告が終わったので、これからは探偵としてではなく、一友人として話がしたい。歓迎してくれるかな?」


 メーガンは咄嗟に答えることができなかった。最初から本題はそちらだったのだろう。マティアスは元サプレスの人間であり、正義の側の人間だ。これからの話の内容がどんな方向に向かうのか、見当もつかなかった。


 しかし彼は一友人として話がしたいと言ったのだ。その言葉を信じたい気持ちもある。


「……もちろん、歓迎する。大したおもてなしはできないが」


「最初から期待はしていないさ。気にするな」


 彼は凛々しい顔に僅かな親しみを覗かせて、微笑した。








「小さなアイレン島を舞台に戦争があった。まるで何かの競技会かのように戦場が設定され、最新兵器と前途洋々な若者が惜しげもなく投入され、摩耗し、消失した。誰もが戦争の原因を承知していた。アゼル。あの狂った兵器開発者。あの男が全てを仕組んだのだと」


 マティアスはゆっくりと語り出す。その口調には不自然に思われるほど抑揚がなく、それがかえって彼の怒りを端的に表現しているように思われる。

 メーガンはソファに腰掛けて虚空を睨んでいた。


「戦争を引き起こす、なんて簡単に言うと、そんなことが本当に可能なのかと懐疑する者がいる。結論から言えばうんざりするほど明瞭に『可能』だ。アゼルは世界で最も凶悪な兵器を開発する。論理兵器はプログラムの譲渡で即座に量産を開始できる。かつ奴は独自に論理界層を構築しているから資産にも事欠かない。意志さえあれば戦争は起きる」


 マティアスの言葉にメーガンは無反応だった。彼が何を話そうとしているのか、見当もつかなかった。

 マティアスは続ける。


「だが、戦争をきっかけに奴の鉄壁の守りに皹が入った。サプレスの特務部隊がアイレン島に降り立ち、状況を論理解析、追尾したところ、有力な手掛かりが見つかったのだ。アゼルの弟子についてだ」


 アゼルの弟子――メーガンはすぐにリアン少年の顔を思い出した。少年の太腿の銃創を治療したのは、つい数日前の話だ。

 メーガンは嫌な予感を抱き、彼が話を続けるのを待った。


「アゼルには三人の弟子がいる。その内の一人、リアンの血液を戦跡に見出した。奴らは独自の論理軌条を持ち、界層飛躍後の足跡は通常なら掴めない。しかし、血液を入手できれば話は別だ」


 血。リアンの血。痕跡を消し切れなかったのか、あの二人……。

 マティアスは続ける。


「個人の生体論理式を解析し、メタ検索エンジンをフル稼働し、微細な固有要素を特定できれば、追跡は可能。向こうも慌てて記述界層を更新し固有要素を揉み消したようだが、何らかの異常があったらしく、非常に手間取っていた。結果、解析班が奴らの居場所を突き止めることに成功した」


 公理罨法だ、とメーガンは悟った。リアンの治療の為に使用した公理罨法は体内で増殖する低蓋然性推論を新たな公理系で塞いで物理的損害を最小化する『魔法の包帯』だが、生体論理式に深く結びつく為に、固有要素の更新を大きく阻害する。

 今頃あの少年はメーガンを恨んでいるだろうに。滑稽な話だったが、アゼルもこの事態に気付かなかったのだろうかと、少し不思議に思った。


「アゼルの居場所を突き止めたのか」


「いや。奴は弟子と別行動を取っていたらしい。しかし弟子のほうはPOCシールで当該空間に閉じ込めた。もう界層飛躍するには自分の躰を八つ裂きにするしか方法がない」


 POCシール、すなわち矛盾律結界は、極めて堅固であるが網の目が粗く、一つの空間まるごとを閉鎖するには、通常数年がかりの演繹工事が必須となる。

 それをたかだか数分、ことによると数十秒で実現したのは驚異的だった。科学の進歩と言おうか、サプレスの恐るべき実力と言おうか。


 メーガンはソファに凭れた。ちらりとマティアスの表情を窺うと、彼は真っ直ぐ彼女を見据えていた。

 答えを求めている顔だ。メーガンは思った。


「……マティアス、オレにそんなことを話して、どうするつもりだ」


「お前こそ、そのふやけた態度は何だ。引退するのは密猟に加担することだけではないのか。まさかアゼルを追うことを止めたわけではあるまい」


「だったら、どうする? オレを軽蔑するか?」


 マティアスは小さく舌打ちした。


「それもあるが、失望する。オレはお前を、友人として、今回の作戦に同行させたかった」


「作戦? リアンを捕まえて拷問にかけるのは、サプレスの仕事だろう。オレたち民間が出る幕じゃない」


 マティアスが苛立ったように歩を進めた。ソファに腰掛けるメーガンの間近に立つ。思わず顔を持ち上げたメーガンは、思いのほか彼が悲しげだったことに驚いた。


「サプレスにいたから分かる。サプレスにはアゼルの協力者、もしくは崇拝者がいる。既に組織は腐敗している。恐らく、リアンは捕縛され次第、拷問されて死ぬ。あるいは自殺に見せかけて暗殺される。それが難しければ空間ごと抹殺される。たとえアゼルがリアンを殺すなと訴えても、この事態は避けられないだろう」


 メーガンは彼の表情を注視しながら質問する。


「……どうして。アゼルの協力者なら、アゼルの言うことは聞くんじゃないのか」


「アゼルが新たな神になれると、本気で信じている者がいるのさ。アゼルと面識がなくとも積極的に協力する輩がいるのではないかと、私は考えている」


 オレもその中の一人だ。メーガンは目を伏せた。アゼルを崇拝する者の一人だ。


「……マティアス、もしかして、サプレスと事を構える気なのか。作戦ってのは、つまり」


 マティアスはメーガンの隣に腰掛けた。小さなソファは二人掛けでも窮屈で、二人は肩を寄せ合うことになる。

 マティアスがメーガンの耳元に口を寄せた。


「リアンを奪取する。そしてアゼルの居場所を吐かせる。シェリルっていう、私の相棒がいただろう。あれは元サプレスの特務部隊〈イクスペル〉の暴れ馬で、連中のやり口を熟知している。三人でやれば成功率は格段に高まる」


「一介の探偵風情が、随分と思い切るもんだな……。しかしオレを誘わなくたって」


「言っただろう。友人として話すと。協力してくれるな?」


 マティアスの言葉は確信的だったが、さすがに口調に焦りが滲み出ていた。メーガンがすっかり腑抜けていることに不安を感じているのだろう。

 自分にアゼルを殺すことはできそうにない。それは理屈で感情を捏ね回して克服できる類の障壁ではなかった。

 しかし、マティアスにはアゼルを追う確乎たる意志があり、それが揺らぐことはない。彼に任せればアゼルの過ちを正してくれるかもしれない。そういう期待はあった。


 マティアスの顔を間近に見た。二人の視線は恋人同士の甘い光線などではなく、互いの真意を探り合う獣の隙のない視軸だった。


「友人として……、か」


 その言葉が持つ生臭さを感じつつ、メーガンは覚悟を決めた。ソファから立ち上がり、これがアゼルに挑む最後の試みだと自分を奮い立たせた。


「あのガキ、オレにまだ礼の一つも言ってねえもんなあ……」


 アゼルに似て常識というものがない。メーガンはつくづくそう思った。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ