時限爆弾
今日は、いつも一緒に弁当を食べてる奴が、呼び出しを喰らっていた。
だから僕は、ぼっちだと思われないよう誰も居ないであろう屋上に。
初めて来るので、屋上へ通じるドアの前で意味もなく深呼吸していた。
少しだけドキドキする。
意を決してドアを開ける。
街の景色よりも僕の目がいったのは…
腰ほどまである銀髪を靡かせ、アイスブルーの瞳に涙を浮かべている美少女。
言葉を失い、見入ってしまった。
美しい…
思考が止まったかのように、それしか思えなかった。
手の届かない場所に咲く、美しく咲き誇る一輪の花。そんな印象を持った。
茫然としていると、彼女はこちらに気付いた。
僕は一歩も動けず、ただただ彼女の唇が動くのを待った。
「えっと、ごめんなさい…邪魔でしたか?」
てっきり彼女を見つめる僕に、悲鳴でも挙げるのかと思っていた。
それどころか、謝られてしまった。
「え、いえ、その…僕のほうが、邪魔じゃないですか?」
彼女は目を見開いた。
「いえ、私はここに居座っていたわけですし…」
僕と彼女は目を合わせ、吹き出した。
彼女の薄桃色の唇が、緩やかな弧を描く。
「あの…僕、二年の神谷凛斗です」
ぎこちなく自己紹介をする。彼女は微笑んだ。
「三年の星崎瑠奈です。年下…だったんだね」
「えと…星崎先輩はお弁当ですか?」
年上だと聞き、一層緊張してしまう。
「はい、今から食べようかと」
「じ、じゃあ、一緒に食べませんか!?」
変に噛んだり、声が大きくなったりした。
ああ、恥ずかしい。
「是非。あと、無理して敬語使わなくても…星崎先輩じゃなくて、瑠奈ちゃんとかでも」
「なら、星崎さんで」
流石に先輩にちゃん付けする度胸はない。
気を遣わせてしまったか…?
それから、星崎さんとは他愛ない会話した。
分かったのは、彼女は友達を作らずに毎日一人で屋上にいること。
失って悲しいものは作らないの、と彼女は寂しそうに笑った。
明日もここに来ると約束してから、僕は教室へ戻った。
翌日、友達にちょっと仲良くなった子と一緒に食べる、と言って屋上へ。
楽しく会話していても、聞けないことはあった。
最初に見たあの涙。あれは、何を悲しんでいたのだろうか?
次の日も、次の日も、僕は星崎さんと話した。
いつの間にか、彼女を好きになっていた。
いや、これは一目惚れで、最初から好きだったのかもしれない。
でもそんなこと、どうでもよかった。
星崎さんといられるのが、嬉しくて、幸せで…この時間がもっと続けばいいのに。
それだけを毎日祈った。
ある日、彼女はいった。
「神谷くんは、私と友達?」
少しだけ、悪戯気味に応えた。
「さあ、どうだろ」
「なら、友達にならないで。私とこれ以上親しくならないで」
さよなら、と彼女は走り去っていった。
それから彼女は、屋上に来なくなった。
5日経つと、放課後に僕はとうとう三年の教室へと向かった。
「星崎先輩、いますか?」
先輩は、丁寧に答えてくれた。
「星崎さんは確か、隣のクラスよ」
礼を言って、俺は星崎さんのクラスへ。
「あの、星崎先輩を呼んで下さい」
「星崎さん?ちょっと待ってねー」
星崎さーん!先輩は派手に呼んだ。
周囲からの視線が痛い。
僕は星崎さんの手を掴むと、屋上まで走っていった。
「親しくならないでって言ったでしょ…」
困惑した様子。
「納得出来ないんだ。出来れば理由を…」
そこで言葉を止めたのは、彼女の瞳から透明に光り輝く涙が落ちたから。
「え、あ…えと、ごめん」
取り敢えず、謝った。
星崎さんは涙を拭った。
そして、制服のブラウスを胸の下まで捲りあげた。
「ほ、星崎さん!?」
慌てて目を瞑ろうとして、やめた。
彼女の陶磁器のような肌に、くっきりと線があった。お臍を取り囲むかのように引かれたそれは、扉のよう。
星崎さんはそれを、本当に開けた。
カチ、カチ、カチ。
そこにあったのは時計。
今尚動き続けている。
カチ、カチ、カチ。
「私、時限爆弾なの」
その言葉を、直ぐには飲み込めなかった。
「明日のこの時間、爆発する。規模は半径2メートル程度」
爆発。それは、明日星崎さんは死ぬ、ということ。
「神谷くんと過ごしたこの屋上で、死のうと思う。私─────神谷くんが、好きだった」
嬉しくて、でも悲しくて。僕はひたすらに涙した。
僕も好きだよ。そう伝えたいのに、出てくるのは嗚咽。
僕は慌てて涙を拭った。しかし、それでも涙は溢れ出す。
「泣きたい、訳じゃ…ない、のに」
星崎さんは、静かに僕の背中を撫でた。
「ありがとう、悲しんでくれて。でも、悲まれる程私も死ぬのが辛くなる。だから私は…友達なんかいらなかった」
知らなかった。僕が、星崎さんと親しくなりたいと思うことが、彼女を苦しめていたんだ。
ようやく嗚咽が止まる。
「ごめん。星崎さんを、知らない内に苦しめていたんだね」
星崎さんは微笑んだ。
「謝って欲しかった訳じゃないよ。大好きな君に、知って欲しかっただけ。それだけだから」
じゃあね、と去って行こうとする彼女の背中に、僕は伝えた。
「僕も、星崎さんが好きだ!」
星崎さんは振り返って、それからにっこりと笑った。
とても嬉しそうで、思わず笑い返してしまった。
「ありがとう」
その声は、少し震えていた。
翌日の放課後、僕は屋上に来た。
ドアノブに手を伸ばし、考える。
この行動が、彼女を苦しめていたら。
首を振って雑念を振り払い、ドアを開いた。
屋上の真ん中に、彼女は佇んでいた。
「やっぱり来たんだ。でも、それ以上近付かないで。私はもうすぐ、爆発する」
しっかりとした声を掛けられ、一瞬怯んでしまった。
でも僕は、星崎さんに駆け寄る。
そして彼女を────抱き締めた。
「な、んで…爆発に、巻き込まれたら死ぬんだよ…?死ぬのが、怖くないの?」
「怖いよ。でも、星崎さん……瑠奈を、失う方が怖い」
彼女は静かに目を閉じた。
「あと、5秒」
僕は瑠奈に─────キスを、した。
瞬間、眩い光が僕らを取り囲んだ。
そこから先は、僕には語れない。
このとき、死んでしまったからだ。
でも、後悔はしていない。
大好きな瑠奈と一緒に居られて、よかった。
瑠奈、きっと来世でもまた会おう。
「ええ、必ずよ」
END
初の恋愛小説、楽しんで頂けましたか?
何故星崎瑠奈が時限爆弾だったのかは、知りたい人が居れば教えます。
ありがとうございました
2014.11.26




