おまぬけ殺人犯
おれは物を買うと無意識に超短編小説投稿時のペン・ネームのイニシャル“T2”(頭山怛朗)を入れる。女房が笑いながら言う。「まるで小学校一年生ね」
おれは言った。「そんなこと公にしても互いに何の利益もない。それどころかお前も刑務所にいくことになるだけだ」
弟は言った。「ぼくは兄貴に指示され、それが悪いことだと知らずやった。ぼくに罪があるとしたら、兄貴を信用したことだ。ぼくが罪に問われたとしても、ここまま悪事を繰り返すよりましだ」
そう言うと弟は倉庫から出て行こうとした。
もう駄目だなと思った。殺るしかないと思った。おれはそこのあったバールを取って、弟の後頭部を殴った。弟は崩れるように倒れた。おれは自分でも驚きほど冷静にそれを見つめ、確実に止めを刺すため、倒れた弟の頭をさらに三度殴った。こうなることを予知していたのだろう、おれはブルー・シートで床に敷き詰めていた。人を殺して捕まらない最良の方法は、死体を発見されないことだ。おれは弟の遺体とバールをブルー・シートに包みある山中に埋めた。
「弟さんは新婚で、子どもが秋に生まれを楽しみにしていました。失踪する理由が全くありません」と加藤と名乗った刑事が言った。「残念ですが、弟さんは既に殺されている。そう確信しています」
「そうですか……」とおれは残念そうに言った。“おれも結構な役者だ”と思った。
「実は一般の人から重要情報の提供があったのです。それで明日、朝からある場所を掘り起こすことになりましたので、お知らせに来ました。遺体さえ見つかれば決定的な証拠があると思います」
そう言うと加藤と名乗った中年刑事は、おれが出したマグカップ(当然、おれのイニシャル入り)のインスタント・コーヒーを飲み終えて事務室を出て行った。
警察は弟の遺体の関する重要情報を本当に得ただろうろうか? 否!!!具体的なことは何も言わなかった。
おれは思わずにんまりした。
さも遺体が埋まっている場所が分かったようなことを、わざと容疑者に言う。何も分かっていないが、「明日、朝から遺体捜査する」と言われると容疑者が本当に犯人の場合には不安になって、その夜遺体を掘り起こしに行く。そこを刑事が抑える。
殺人犯が墓穴を掘るわけだ。
ミステリー・ドラマでうんざりするほど良く出てくるパターンだ。
では、おれはそれを逆手に取ってやることにした。警察をからかってやる。
おれは真夜中、弟の遺体を埋めた全く別の場所に行った。ゴミを持って……。
おれが穴をに苦労してゴミを埋める穴を掘り終わっても、誰も現れなかった。
一体、おれは何をしたのだろう?あの刑事は何を考えていたのだろう?おれは考えすぎたのだろうか?
翌日の夕方、あの刑事が事務所に現れ言った。「弟さんの遺体を発見しました。弟さんの遺体はブルー・シートに包まれていました。殺人に使われたバールも一緒にありました」刑事はそこで沈黙した。
「で?」おれは我慢できずに刑事を促した。
「ブルー・シートとバールにイニシャルが入っていました。それはあなたのイニシャル“T2”。ついでにあなたの指紋も! ご丁寧にブルー・シートとバールをホーム・センターで買った時のレシートまでありました。
頭山怛朗、あなたを弟さんの殺人容疑で逮捕します……。正直、私は兄のあなたが殺人犯だとは夢にも思っていませんでした。全く別人を殺人犯と確信していました。それで、私は殺人犯のあなたに捜査上の重要情報を与えるとんでもないミスを犯しまった。でも、どういう訳かあなたはその情報を無視、無駄にした。それに遺体にはこれ以上ない証拠を残してくれました防犯カメラであなたが買ったことも確認しました。とんだ……」刑事がそこで口を閉ざした。
「とんだおまぬけ殺人犯」おれはそう呟き、あの時の弟と同じように床に崩れ落ちた。