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第4話 救われた少女たち


 キンッ! キンッ! キーン!


 高床式住居の玄関に俺は隠れる。

 ノエルはその下で敵6人の攻撃を受け止めている。



 彼女が人を斬れないだと……

 いくらノエルでも6人の剣を受け止め続けるのは不可能だ。


「お兄様! 今のうちに高台へ!」

 ノエルは何とか攻撃をかわしながら俺に声をかけた。

 いいのか……ノエルを置いて行って。

 俺が闘えば、こいつらを余裕で殺せる。

 けれどそれをノエルに見られると俺はこの世界で生きづらくなる。

 ノエル自身も、もし俺が殺しなんかしたら必ずショックだろう。

 それだけ優しい兄を慕っているのだから……


 だがもし俺が、ここで高台に向かったらノエルはどうなる?

 斬れないならば勝てないだろ。

 この人数だと峰打ちもできそうにない。


 ……つまり彼女は殺される?


 どうすれば……どうすれば……。


「待てよ……ノエルに見られなければいいんだな……」

その時、1つの考えが浮かんだ。


「どうした? シグマのお譲ちゃん。

 めちゃくちゃ強いと聞いていたのにこの程度なのか?」

「くっ……」

 ノエルは必死にこらえている。


「大丈夫だお譲ちゃん。君のことは生け捕りにして持って帰るから。

 こんな可愛い子を殺すのは惜しい。なあお前ら?」

「おー!」

「持って帰って性奴隷にしようぜー!」

「フォー!」

 敵は声高らかに騒ぎ合っている。


 俺は戦闘服(スーツ)に着替え立ち上がり、サッと移動して一瞬でノエルの背後につく。


 そして、彼女の首の後ろをポンと叩いた。

 軽く、しかし的確にツボを叩いたことにより彼女は一瞬で気絶した。

 その倒れる体を受け止め、すぐに敵の間合いから外れる。


 彼女を家の壁に寄り掛からせる。


「なんだてめぇ? 仲間割れか?」

 敵の大将っぽいのが言うと、周りもつられて罵りだす。

「なんだ、血迷ったかこいつ」

「これ、あの農民の兄貴じゃねーか」

「戦闘のセンスゼロって聞くぜ」

「ハハハハハッ!」


 余裕の笑いか。

 たく舐められたもんだなシグマ=レオンよ。


「————遺言はそれだけか?」

  敵6人と対面して言う。


「あん? ザコ兄貴がなんか言ってっぞ。

 さっさと殺してお譲ちゃんを持って帰るぞ」

「ははっ……殺す……?

 悪いがお前らは既に俺のに入っている。

 死んでいるようなものだ」

 すると大将の隣にいたやつが剣を構え、

「何わけのわかんねえこと言ってんだてめぇ! ぶっ殺してやる!!」

 そして突っ込んできた。


 ……よし、見える。

 敵は剣を振り上げ大胆にも垂直斬りをしてきた。

 俺はそんな斬撃を軽くかわし、ピンと張った右手を奴の腹にぶち込む。

「ぐはっ…うぅ…てめぇ」

「……内臓の感覚…これだよこれ…懐かしいな」

 奴の腹の中で手をぐちゅぐちゅと動か す。

「や、やへでぐれぇ!!…ぐほぉはぁ …………」


 腹から手を抜きその体を敵5人の前に投げる。

 奴はとっくに死んでいた。


 そして俺はいつのまにか付けていた透明の手袋を外し、付け替える。


「き、貴様何者だ……」

「俺か? ……シグマ=レオン、殺し屋さ」

「殺し屋……だと?」

「安心しろ、すぐ楽にしてやる」

「ほ、ほ、ほざけぇ!!」


 大将が叫び周りも含め5人全員で突っ込んでくる。

 俺は少し目を閉じる。


「7・9・10・14・17・19・21・24・25なるほど」

 呟き、その場で敵5人の斬撃をかわす。

 そして一気に間合いを詰める、敵が剣を振りおろした時には、大将とは目と鼻の先の距離にいた。彼は眼を見開き絶句する。


「アディオス」

 この地では聞けない単語を口にし、手で敵の首を切断する。

 大将の首がボトッと地面に落ちる……のを待たずに他4人の首も一瞬で斬る。


 ボトッボトボトボトッ……


 敵集6人は呆気なく死んでいった。

 これだけのことをしてもなお、返り血は浴びていない。一滴も。


 俺はノエルがまだ気絶しているのを確認する。

 そして、この場から離れようと考え彼女を抱え高台に向かおうとする。


 その時。


「シ……グマ……だよな?」


 振りかえるとそこに、金髪の少年、ケレル=ステファンがいた。


 俺は冷静な顔で、

「見たか?」

 と訊く。

 彼は無言で頷いた。



 この時俺はこいつを殺そうか迷った。

 見られてしまったのならば、今後の生活に支障をきたしかねない。


 それに、今殺しても敵襲に殺されたということで説明がつく。

 そんなことを考えていると、彼が予想外の事を口にした。

「あのさ……俺にも闘い方教えてくれないかな……」

「え……」

 一瞬動揺してしまった。

「もう、守られるだけは嫌なんだ……生まれつき弱いのは分かってる。

 けど、俺も闘えるようになって、いざってときに大事な人を守りたいんだ」


 彼の話を聞いて、心を動かされたとかそういうのではない。

 けれど、殺すという考えは無くなっていた。


「分かった、但し条件がある」

「条件とは?」

「俺が闘えることを誰にも言わないでほしい。」

「お、おう、でも……なん……」

「言ったら殺す」


 間髪入れずに殺すと言ったからだろうか、彼は怖じけすくんだ。


「分かった誰にも言わないから教えてください」

 俺は頷きながら抱えていたノエルをステファンに渡す。

「高台まで届けてくれ、俺はもうひとつ仕事ができた」

「おう、了解。無事でな」


 そして、彼らを見送る。

 彼らが視界から消えた後、俺は西を向いた。


 確かに西の方から殺気がした。

 この殺気は人じゃなくて魔物のものだ。

 ちょうど北区の襲撃の方に多くの戦力を置いているから、西区は手薄なはずだ。

 つまり、思いっきり暴れられる……



 俺はニヤっと不適な笑みを浮かべ駆け出した。





*************************




 同時刻 レイビアス村西区




 西区の中でも比較的北に位置する場所、そこに一人の少女が住んでいた。

 彼女は一人暮らし。親は……8年前に殺された。魔物に……。



 魔物に家族を殺される人は少なくない。

 けれど、それは戦士の話だ。

 彼女の家は皆揃って農民だった。

 基本的に闘いに赴くことのない農民は魔物に殺されることは少ない。


 しかし、その日は別だった。

 南区に隣村からの襲撃があり戦士たちの多くがそこに召集された。


 襲撃から1時間後、普段は北区に来るはずの魔物が何故か西区周辺に現れた。



 異例の事態に対応がかなり遅れた。

 そして、魔物は西区の中に入ってきた。

 オークのような彼らは村人を見つけるや殺し、鳥の魔物に運ばせる。

 少女の家族も勿論高台に逃げようとした。高台は各区に1つある。


 けれどそれは叶わなかった。

 高台への道は既に魔物の手が及んでいたのだ。

 魔物に見つかった彼女たちは逃げるも追い付かれてしまう。


 彼女の親は、せめて彼女だけでもと「北区の高台に行け」と言い、魔物に立ち向かった。


 彼女は逃げ惑いながら振り返る。


 そして、親が魔物に首をはねられるのを見てしまった……。


 なんとか、北区の高台に逃げ込み、助かった彼女だったが、その心に深い傷を負ってしまった。




 それから、彼女は日々怯えて暮らすようになった。

 魔物に、隣村の敵襲に……村の中にいても安全ではない、農民でも襲われるということを身をもって知ってしまったからだ。



 特にも、隣村からの襲撃があるときの怯えようは異常だった。

 1人家を飛び出し高台に行き、その上で毛布に身を包みうずくまる。

 近所の子供たちにバカにされることもしばしばあった。

「何も来てないのに勝手に怯えてるぞー。ビビりー!」

 と。

 けれど、仕方ないのだ。怖いのだから。



 彼女は15歳になった。

 この日も、北区に隣村の襲撃があったと知り、彼女はビクビク震えながら高台に向かった。



 途中、近所の人たちにバカにされた。いつも通りだ。



 高台に着きうずくまる。



 今夜の争いは中々おさまらなかった。

 きっとレイモン団長や、カイン副団長ら主戦力が遠征に行っているからだろう。

 当然戦力は北区に総動員された。



 彼女は嫌な予感がした。

 今魔物に攻められたら西区は崩壊してしまう。



 そして、その予感は的中してしまった。



 ドガーン! と柵をぶち壊し魔物が西区に来たのだ。

 襲撃を知らせる鐘は勿論ならない。見張り役もいないから。



 村人は殆どが寝静まっている時刻。

 故に逃げるのがかなり遅れた。

 瞬く間にオーク型の魔物が襲来し、人を殺す。

 高台の上から彼女はそれを眺め、怯えていた。

 しかも、誰1人として高台に来るものはいない。




 皆、高台に来る前に殺されてしまったのだ。



 そして、ドタドタと足音が聞こえてきた。

 遂に魔物が高台に登り始めたのだ。

 ここで彼女の怯えはピークに達した。


「い、嫌だっ……こないで、嫌っ!!!!」


 その言葉を魔物が聞き入れるはずがない。


 四方八方から魔物が登ってきた。


 彼女は魔物に囲まれてしまった。

 終わった……と思った。


 彼女は目を瞑る。

 すると、八年前、両親が首をはねられたあの瞬間がフラッシュバックした。



 ………私もあんな風に殺されるの?



そう思ったとき彼女は叫んでいた。


「誰か……誰か……助けてぇ!!!!」


 勿論誰かが来てくれるなんて思ってもいない。

 西区の人は皆死に、戦士は北区で苦戦中。誰が助けに来るというのか?


 そんなこと分かってる。

 けど、何かにすがりたくなったのだろう。


 彼女はそのまま死を待った。


 そうだ、誰も助けになんて……。



 そう思ったとき「グホッ……」と奇妙な音を聞いた。

 その後、ドタッドタドタドタ……時折バタン! と大きな音も聞こえた。




 数秒後、音が鳴り止み、彼女は恐る恐る目を開く。

 すると目の前に、オークの首があった。


「い、嫌っ!!」

 驚き後ずさる。しかし本当に驚いたのは顔を上げたときだ。


 そこには首や腹を両断されたオークが何十体も転がっていたのだ。

 そして1人立っている少年がいた。




 ……………彼が斬ったの?



 そこからは、もう視線が彼に釘付けだった。

 黒いシュッとした服を着て、右手に剣を持ち、毅然と立つその姿は村の誰よりもカッコいいと思った。

 そして、自分が安心していることに気づいた。

もう震えてはいなかった。

 少なくとも、8年前以来に感じる気持ちだった。


 彼は私に気づいているのだろうか?

 勿論私の周りの魔物を全て斬って私だけ生かしているということは、気づいているのだろう。


 彼女はそんな事を考えていると、

 魔物を斬った彼は、

「ノエルの剣、結構切れ味悪いな。研がせなきゃな」

 と呟いて。高台を下りていった。


 彼女は「あっ!」と言って、彼を追う。

「ま、待ってください!お、お名前を教えてください!!」


 彼女は全力で叫んだ。

 人もいない静かな場所ではよく響く。

 彼は振り返り、彼女を見つめる。

「シグマ=レオンだ」

 シグマ=レオン……彼女は心の中で何回もリコールする。


「レオンさん、助けて頂きありがとうございます。

 私、フィオナ=アキーシナと言います。それで、えっと……」


 レオンは「ん?」っとした顔で訊き返す。

「えっと……その……」


 彼女は何か言いたいことを躊躇っているようだ。


「……どうしたんだ、アキ……?」

 このレオンの言葉がアキーシナの胸に響いた。


 ア、ア、ア、アキだなんて……


 結果、彼女は顔を真っ赤にし、躊躇っていた言葉を吐き出した。



「わ、わ、私と結婚してください!!!」


 …………かなり大きくなって。




ーーー

第4話 救われた少女たち (完)

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