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第1話 1000年後の地球

 2020年


 欧州某国首相官邸




「シグマ! 聞こえるか? ……今すぐ撤退だ!

 ……にゃろ作戦が全部バレていた。国連の連中が待ち構えてやがる。

 いくらお前とはいえここは退くしかない。至急撤退だ!」



 殺人ギルド純垢ジュンク―――――わずか8人で構成されている史上最強の殺し屋集団。

 その恐るべき戦闘力にこれまで数万人が葬られてきた。



 そして、彼らが次に狙ったのは、欧州にある一つの国。

 その国を潰すべく入念に作戦を練って、首相官邸と皇室を同時奇襲した。





 ――――――――――はずだった。



「バレていたとはどういうことだ。ガンマ?」

 黒服に身を包んだ男、シグマ=レイエは無線機に向かって静かに尋ねる。

「わからねえ……もしかしたらメンバーの誰かが裏切ったのかもしれねえ。それよりも国連は5万人も兵を送りこんできやがった。迷ってる暇は ない、撤退してくれ」

「……なるほど、了解した」


 現在シグマがいるのは首相官邸の寝室前……つまり標的ターゲットは目の前にいる。

 そして彼は考えた。

 5万人もの敵を前に今から逃げたのでは遅いと……。



 ゆえに彼は迷わず部屋の中に入り、愛銃ベレッタ・デリートを首相に向ける。



 首相はいきなり銃を突きつけられても無反応だった。

 やはり作戦はバレていた。


「ほっほっほ、よく来たなシグマ=レイエ君。君の噂は痛いほど耳にしているよ。その戦闘力、ぜひうちの特殊部隊に欲しいくらいだ」

 そして、少し間をおいて一言。

「それに、君も気づいているのだろう?どういう状況に置かれているのか」

 首相がパチンと指を鳴らすと、一瞬にしてライフル銃を持った兵士がシグマの周りを四方八方囲む。


「どうかね? 君も今すぐ銃を置き、降参したならば我がとく―――――……」



 バンッ!!!!!



 乾いた音が響いた。

 首相が最後まで言葉を言いきるのも待たずにシグマは引き金を引いた。



 いきなりの発砲に首相は何が起こったのか分からないといった表情のまま呆気なく絶命し、取り囲む兵士は呆然と立ち尽くしていた。



 それもほんの1秒程度だったが……


「う、撃てえ!!!」

 一人がそう叫ぶと兵士達は一斉にシグマに向かって発砲した。


 そして、シグマ=レイエはゆっくりと膝から崩れ落ちた……




**********************






「ぃさま! ……にぃさま!!」


……


「……お兄様!!!」


「うっ……」

 目を覚ますと目の前に長い黒髪の美少女がいた。


 俺は……どうなったんだ?



「お兄様! やっとお目覚めになられたのですね! ささ早く村に帰りましょう。外にいるのは危険です」


 少女がそう言った。ちょっと待て……話が掴めない。

 お兄様? 村? 全く分からない。


 俺はさっきまで官邸にいたはずなのに……


 起き上がって辺りを見回してみる。



「なっ……」


 驚きのあまり声を出してしまった。


 辺り一面美しい草原に覆われていたのだ。ビルなどの人工物は全く見当たらない。

 ……ここは天国か?


 俺がきょろきょろ顔を動かしていると、少女がこちらに顔を覗かせて、

「どうしたんです、お兄様? 早く帰りましょ」


 どう答えていいのか分からなかった。

 とはいえ何もしないわけにはいかない。

まずは情報を得ることから始めなければ。


「ご、ごめん……ところで君は誰なんだい?」


 すると、少女は目を見開き「えっ」と小さくつぶやいた。

 とても驚いているようだ。


「お、お兄様……私はノエル。レオン兄様の妹のシグマ=ノエルですよ」


 これは驚いた……俺には妹などいなかったはずだ。

 そもそも生まれたときから既に純垢ジュンクにいた俺は家族すらもいなかったはずなのに……。

 それに、レオン兄様? となると俺はシグマ=レオンなのか?

 苗字がシグマで一緒なのは引っかかるがやはり名前が違う……。



「君がシグマ=ノエルで、俺はシグマ=レオンなのか?」

 おどおどと訊いてみた、ノエルという少女は微笑し、

「はい、当たり前のことじゃないですか。お兄様どうしちゃったんですか?」


 

 最初、お兄様と呼ばれた時、人違いだろ? と思っていた。

 でもノエルのこの表情と何よりも確信に満ちた目を見て思った。

 彼女が間違っているのではなく、俺の存在自体が変わってしまったのかもしれない、と。

 だから、とりあえず現状をもっと知るためにも、俺は少し嘘を付くことにした。


「ごめんな、ノエル。俺、実は今までの事が思い出せないんだ。

 なんでここにいるのかも。ここが何処なのかも……記憶を失ってしまったみたいなんだ。だから、俺に色々と教えてくれないか?」



 ノエルは口に手をあて少々驚いたように見えた。

 だが、事実に納得したように、

「そうですか……それは大変ですね……

 でもお兄様が記憶を無くし困っていらっしゃるのであれば、私がなんでも説明いたしましょう。

 まずお兄様は現在18歳です。

 シグマ家の長男としてこの草原の北側にあるルイビアス村に生まれました。

 シグマ家は父と母、お兄様と私の4人家族です。

 因みに私はお兄様とは年子で今年で17歳になります。

 それで……お兄様は普段村で米作りをなさっているんですけど、先ほどお兄様の姿が見えないと村の者が言ってて、

 そこで私が探し回ってようやくこの草原でお倒れになっているお兄様を見つけたのです」



 なるほど……このような設定はだいたい想像していたものなのであまり驚かない。

 実際俺は殺し屋ではあるが年齢は18で学校に行っていれば、高校3年だったのだ。

 ……ただ一つ気になったことがある。


「米作りってうちの家系は農家なのか?」

 俺の質問にノエルは少し困惑した様子だった。


「農家と言うか……農業を営むか、兵士をするかどちらかしかないんですよ。

 実際は戦うことに向いてないという人が農家になるという感じで……申し上げにくいのですが、お兄様はどちらかというと戦闘に不向きな方でして・・・それで米作りをなされていたのです」



 戦闘に不向きというのには少々引っかかるところがあるが、それはさておき、聞いた限りこの文明レベル、まるで日本の弥生時代ではないか?

 まさか過去にタイムスリップしてしまったのか?と思ってしまった。



「そうか……あのさ、今西暦何年だ?」

 するとノエルはあれ? といった顔をして、

「西暦……ですか? えと……レーベン歴995年ですから、西暦に直すと3020年ですかね」



 …………


 えっ……


 まさか、ここが1000年後だと……?

 確かに弥生時代にしてはノエルの浴衣みたいな服装はおかしいなと思っていたが……。


「3020年って……ビルとかでっかい建造物はどこにいったんだ? 全く見えないんだが……」

「ビルというのは古代文明の建造物のことですね。

 いくつか世界には残っていますけど、大体が995年前の文明崩壊とともに無くなってしまいました……」


 なっ……またしても衝撃的なことを聞いてしまった。

 彼女の話によれば995年前すなわち俺が生きていた5年後に文明は崩壊したというのか?


「どうして文明は滅んでしまったんだ?」

 俺はノエルを食い入るような目で見つめ訊く。

「それは……巨大隕石の衝突です。

 その衝突で人類の99パーセントが死に、生態系もほとんど崩壊しました。かろうじて私たちの祖先は生き残ったのですが、それに追い打ちをかけるようにその隕石の衝突をきっかけに……魔物が生まれたのです」



 …………


「人類は食物連鎖の頂点から陥落してしまいました」



 ノエルがそう言い終えるとどこからかザワザワと騒音が響いてきた。


 俺は衝撃的な未来の事実に驚く間もなく、


 大声で叫ぶ男の声を聞いた。




「魔物が来たぞ!!!!!!」



ーーー

第1話 1000年後の地球 (完)

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