なんでもあり
想像と違って思いのほか快適な旅路だった。
見かけによらないルビの速さに驚いたのもあるが、安定感が無いはずのルビの上が奔っている最中はまったくと言っていいほどバランスを崩す程の衝撃を受けなかったことが大きい。
風の抵抗とかで安定感などあるはずもなく何より手すりが無いのにだ。
ルビが気を使っていたのもあるかもしれないが、はっきり言ってどういう原理が働いたのかソルにはさっぱり分からなかった。
とにかくこれでスウェンに追いつくことが出来る安心感にほっとしていた。
荒野を進むこと二時間弱。日が落ちて夜空に満天の星が煌く頃目の前に鉛色のいびつな茂みを発見。その茂みに近づくに連れその全貌が露わになる。
突起した弦を巻く茨森が眼前に広がりソルはその光景を見て地球で見た『眠れる森の美女』が寝る茨の城を思い出す。
極太の茨は触れただけでざっくり切れてしまうほど鋭いものだった。
その生い茂る茨の隙間の先から見えたのは地中に抉れんばかりに開いた峡谷だった。
他に道はないかと探してみるがやっぱりここしか道はなく大きな隙間でも人が一人通るくらいが精いっぱいの大きさのモノしかない。
コレ以上先に進むのにはルビの体は巨大すぎる。
仕方なくルビとはここで別れなければならない。そう判断したソルはルビの背から降りて向き合うとルビに向かって別れを切り出した。
「ルビ、ここから先はお前の体では通れない。だからここで一端お別れだ」
言葉を理解しているルビにそのまま理由を告げる。
しかしルビはソルと別れたくないとばかりに嫌々と首を振りソルの体に巻きついてくる。
愛嬌があり宝石のような綺麗な身体を持つルビだが形は大蛇だ。
その大蛇の体で巻きつかれたのだから危害はないと分かっていても食われる錯覚起こすぐらいには恐怖した。
しかも丁寧に割れ長の舌で頬を撫でつけるのだから余計だ。
しかしそんな事をされても連れて行けない。通れないモノは通れないのだ。
「分かってくれよ。お前じゃこの茨は通れないんだから…」
疲れ気味に諭すがなかなか納得してくれない上締め付けもきつくなった気がする。
まるで逃がさんばかりの執着だ。怖すぎる。
押し問答を続けているが時間は迫る。
速く先に進まなければせっかく縮まったスウェンとの差も逆戻りになってしまう。
中々納得してくれないルビが不意に思いついたように頭を擦り始めた。
最初はまだじれているのかと思ったがどうやら先ほどのじれ具合と少し違うようだ。
しきりに肩から提げていた鞄を擦り始めるので中身に何か用がるのかとソルは徐に鞄を開いて見せる。
ルビは巨大な頭を無理やり押し込み長い舌であるモノを鞄から探している。
(なんだ??)
ソルは訳も分からぬままルビの様子を見た。
だがこのまま放置すると目的のモノを探し当てる前に鞄が壊れると気付いて、慌てて突っ込んだルビの頭を押し出して中身を見せるように外へと一つ一つ出してゆく。
包帯や薬なんかの治療道具一式
小型のナイフが二つと折りたたみ式の弓矢にランタン。
時計になる導きの身と方位磁石になる葉が一つずつ。
乾パンと干した果物。
そして、水。
次々に鞄から出してゆきルビが反応したのは最後に出した水だった。
腹が減ったのかと思ったソルだったがどうも違うと気付く。
「どうしたいんだ?」
「シャー!!シャ!」
言葉を介せないルビは体を動かして意思を伝えようとしている。
首を曲げて体の方へと振る動作を繰り返す。口に入れるよりも体にかけてもらいたいようだ。
再び疑問を覚えながらも押し問答を続けるよりはいいと思ったソルはルビの要望どうり容器に入れた水を体にかけてゆく。
たとえ中身がなくなっても能力で補充はできるため遠慮なくかけた。
変化が起こったのはまんべんなく身体が水にぬれた直後の事。
みるみるサイズが小さくなってゆくのを呆然と見つめるソル。
「はぁ!?」
なんでもありだなファンタジー!!っと内心愚痴るソルは間違いなく現実逃避をしていた。
手のひらサイズまで小さくなったルビは自慢げにソルを見上げる。
「シャー♪」
片手に乗るルビを見ながら項垂れたソルを誰が責められようか。