悪夢の病
ギリギリ今日に間にあった!!
スウェンの夢見は時間を増すごとに酷くなり、心労の疲れもあるのだろうと多く睡眠を取ったのが仇になった。
何度も悪夢にうなされては目覚め、再び寝入っても安眠は望めなかったのだ。
僅かな物音でもすぐに目が覚めるほど浅い睡眠しかとれず疲労は増すばかり、かといって深い睡眠を取ろうとすれば悪夢に体力を奪われる。
その悪夢も夢の話だと割り切ることも出来ない。なぜならそれはかつて起こったこと、スウェンの村が滅びた日の事が悪夢となって夢の中でもスウェンを蝕んでいたのだ。
元々獣人は感受性の高いものが多い。そのため感情の起伏が多く、スウェンのように過去のトラウマが後々精神的にはもちろんだが身体にも悪影響を及ぼすことがある。
獣人の感受性の高さが今のスウェンを苦しめる原因にもなっていたのだ。
そのことを知らないソルは、日に日に疲労が増してフラフラしているスウェンに休息といって眠らすことを促すくらいしかできない。
眠りこそが原因だとは気付かなかったのだ。
そのことに気付いたのはスウェンが来て二週間後の事だった。
この頃になるとスウェンはやせ細り食事にも口をつけない日が続いていた。今ではベットの住人のように一日のほとんどをベットの上で過ごしている。
怪我もすっかり治ったはずなのに徐々に体調を崩しているスウェンをみて異常性に漸く気付くソル。
スウェンが寝ているはずの時間帯はソルは三階の書斎室か、外へ出ているためスウェンの呻き声がソルには分からなかったのだ。
スウェンの方も体力の減退の影響かうめき声に至っても初日ほど大きな声ではなくなり僅かに声にこぼす程度になっていた。それでも悪夢の内容は変わらず、寧ろ日が経つにつれ内容が誇張され悪いものへと変化している。
たまたまスウェンの部屋の窓が換気の為か大きく開いており、その真下で農作業していたソルの元にスウェンの聞き逃すような小さな、しかし切羽詰まった苦しげな声が耳に届いた。
「スウェン…?」
訝しげるソルは農作業の手を止めスウェンの部屋に駆け寄った。
スウェン自身がソルに気を使い自身を誤魔化し続け部屋にも近づけさせようとしていたかったのだ。
二週間振りかになるスウェンの部屋に入りベットに横たわるスウェンを見てソルは焦る。
身悶え苦しむスウェンの顔は青白さを通り越し土気色まで変色していた。
異常事態に困惑し右往左往するソルだがその間にもスウェンの容体は悪化の一途をたどっている。
何が悪いのか分からないソルは一度スウェンの体に触れる。
脂汗も滲むスウェンの額に手を載せると高熱が出ており、しかし体に異常に冷え切っていた。
(病気!?)
焦りパニック状態になるソルは兎に角薬を飲ませなくてはと三階の調合室に行って作りたての薬を持ってくる。
(まず、何から飲ませたらいい?病気だったら青だけど、体力も消耗しているから赤から飲ませ方が良いの?)
誰にも救いを求められない状況の中ソルは粉末状の青と赤の薬を持って選択を迫られていた。
まず赤を飲ませて体力を回復し、青を飲ませようと赤の薬をスウェンの口元に運んだ時スウェンは苦しむ呻きの中である言葉を吐き出した。
「…キナ…!ごめ…んっ……どう…て、みん…死ん…」
誰かに謝る言葉と『死』という言葉が聞えた。
顔色の悪さにばかり気を取られていたがうなされる間中に言葉が時々混じっているのが分かる。
(まるで悪夢にうなされているような…でもこんなに顔色が悪いのは悪夢ってだけじゃなさそうだし…やっぱりなんかの病気?)
ソルは知らない。獣人は悪夢だけで死ぬ事があるということを。
まさにスウェンはその状態に陥っていた。
慌てて取ってきた薬の中に使わないだろうと見向きしていなかった精神を癒す白の薬を見てこれなら悪夢を見なくても済むのではと考えた。
スウェンの長引く苦しみから逃れさすのは白の薬を先に飲ませうべきだと判断。
白の薬だけは液体だったためそのままスウェンに飲ませようと口元に運ぶがなかなか飲まなくて口から溢れて出てきてしまう。
仕方なくソルは青の薬を口に含みスウェンに口に入れる。
いわゆる口移しである。
若干の恥ずかしさはやった後に出てきた。やっている最中はそんな恥ずかしさなど出てきていなかった。なんせ切羽詰まっていたのだから。
白の薬のおかげか穏やかな表情を見せ始め若干だが顔色も良くなってきた。
念のため赤と青の薬も飲ませておく、落ち着いたスウェンの様子でこれは口移しでなくても飲ませることが出来た。
飲ませた白の薬には睡眠薬も入っていたため後は二、三時間は寝入ってしまうため時折様子を見ようと部屋を後にする。
スウェンの部屋を出たソルはスウェンと咄嗟とはいえ口移し、キスをしてしまい顔が赤くなっていた。
でもあんまり嫌ではないことにソルは疑問を覚えた。




