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平凡希望しかし現実苦し  作者: 澤木弘志
第一章 優しき愚者 ~朱ノ篇~
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スウェンの悪夢 中

痩せた森を駆け抜ける。

年々乏しくなる森の活力はそこに住む動物たちをも巻き込み次第に姿を消していった。

時折訪れていた旅商人から聞いた話では世界中どこでもそんな山森ばかりだという。

昔は毎年あった収穫祭も三年に一度になってしまった。


里の年寄りたちは精霊の呪いだと噂している。

ただ“呪い”とは何なのか聞いても誰も教えてはくれなかった…――





無造作に並び立つ木々をぬって駆け抜けるウルバンを追いかけるスウェン。

近隣の山森には珍しいほどの大柄だ。

スウェンもここまで大きなものは久しぶりだった。


こいつを獲ったら、マキナ驚くだろうなぁ


思いもよらない大物に興奮しながら驚くマキナの顔を想い浮かぶ。

絶対にとらえて見せると意気込むと、スウェンは息を浅く吸い呼吸を整える。

ウルバンは水場に近寄り喉を潤しているのか立ち止っている。

チャンスとばかりに狙いを定める。

一撃で死止めなければ足の速いウルバンは逃げてしまいスウェンの足では追いつけないだろう。


弓をひく。

キリリと弓が撓り、腕の筋肉が膨張する。

目線はウルバンの姿だけを捕え、自分でも驚くほどの集中力を見せる。


右手で押えていた矢を解き放つとウルバンの真横から脳髄を撃ち抜いた。

ウルバンは撃ち抜いた後、微動にも動かず暫くしてゆっくり巨体を地面に横打った。


初めての獲物だ。

ここに来るまでに何度も撃ち損ね、動物の姿を探しまわったいたスウェンにとっては喜び以上に感慨深いものになった。

巨体を横たえるウルバンは里中が食べても三日は優にあるだろう大きさだ。

ここ数年の狩りの獲物に比べても大物さは歴然だ。もしかしたら里中の大人たちから褒められるかもしれない。


スウェンは何よりもマキナの喜ぶ姿が見たくて仕方なかった。



ウルバンの血抜きや後処理なんかで三時間強も経ってしまった。

すでに日も暮れ始めている。

ここから里までは最短で40分程は掛かり、大物を担いでの帰路となるとその倍以上はかかるだろう。

だが大物を狩れた喜びの前ではその疲労感も薄れてしまう。

とにかく早く帰ろうと足を進めた。







一丘越えると里が見える距離まで進むとなんだか様子がおかしいことに気がついた。

なんだか焦げくさい臭いが里の方から漂ってくるのだ。


一様な不安を抱いてスウェンは丘を駆けあがる。

この時ばかりは大柄のウルバンが邪魔だった。


丘の上からみた里は黒煙を上げ里の至る所から炎の柱が立ってる変わり果てた姿だった。

それを見たスウェンは獲物を投げ捨て、自信の出せる最速をもって里に駆け下りた。



里の近くに来ると焦げくささと一緒に鉄の錆びた様な匂も混じってスウェンの鼻孔を刺激する。



駆け下りた里は出発前の平穏な里の姿からかけ離れた地獄そのもののような姿でスウェンの眼前に広がっていた。

荒い息を吐きながらスウェンは里の中へと足を進める。

ゆっくりした歩調から次第に駆けだし生きている者を探し始めた。

かつての家の名残など見えずほとんどが打ち壊され燃やされている。



「マキナ!!マキナ!!」


何度も何度も彼女の名前を叫ぶ。

奥へと進むたびに視界の端に映るかつての同胞の変わり果てた姿。

そのほとんどが羽耳族の特徴である耳を引きちぎられ両耳から尋常ではないほどの血を流し果てている。酷いものは顔の半分以上を引き千切られ、顔の判別は付きそうにない。

その大半が年配の男性だ。


羽耳族は年を経ることに耳の羽毛が鮮やかに彩られ煌びやかな羽になる。それは男性だけで女性は色が薄くなり羽が柔らかくなってゆく。

羽耳族の耳は人間の間では高価な装飾品として高額に売買されてる。

特に男性の耳は特に高額で奴隷としてではなく耳ののみを目的として殺されるのが主だった。

逆に女性は耳の価値よりも美貌ゆえに奴隷として取引されている。


だから、マキナは生きているかもしれない


スウェンは里奥にある一番大きな家へと目指した。

マキナの生家である里長の家だ。


里長の家も他の家と同様黒煙を上げ炎上している。

近くに人が倒れていた。

もしやと思い駆け寄る。


里で一番綺麗で鮮やかな空色をした耳を持っていた里長の遺体が横たわっていた。

育て親で一番信頼していた大切な家族。

彼の首から上はなかった。


「じ、じっ様?うそ…う、うわあぁああああああああああああ!!!!!」



悲痛な叫びが里中に響く。

里長の身体を抱きよせ体中に彼の血がべっとりついてもなお抱きしめて絶叫した。

スウェンはただひたすらに哀しくて怖かった。

独り残される悲しみと苦しみがどうしようもなく怖かったのだ。


絶叫の後、もう一人の大切な人を目線で探す。

里長の身体を抱きしめたままもうここには居ないであろう彼女の姿を探してしまう。





ざッざッざ…

何かの足音が近ずいてくる。

振り向いたその先にいたのは望んでいた姿ではなく、数十人の軍服すがたの兵士たちだった。


その軍服には見覚えがある。

バーレシア王国のものだ。




スウェンにはその姿が死神のようにも悪魔のようにも見えた。














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