もしかしたらの未来 アッシュアニヴェル+@
※本編では説明していないネタバレ?含みますのでご注意ください※
東の国のドラゴンはネコを飼っているらしい。
市井に広がる噂は、本当のようであり、真実ではないものだ、と身分を隠して由梨と自国の市街地へやってきた東の国の王様、レイヴァス・イル・クリード・ネイブは小さく笑った。
確かに青の宮にはネコがいるが、その飼い主だ(というわけではないのだが)といわれて妥当なのは、今まさに、カフェで目の前に座ってケーキを頬張っている由梨だ。
そしてドラゴンであるアッシュアニヴェルとネコである都は、飼い主と飼いネコ、主従というわけではなく友人、もしくはそれ以上の関係であるとレイは察している。
2人とも、なにもいわないけれどとある時期からどことなく以前よりも親密な雰囲気であることを彼は見逃さなかった。
もしもこれをシリウスに言ったとしたら、肩を大きく落とすだろうし、ついでに「人のことになると目ざといのですね。己も客観視してください」などとちょっとした小言も付け足されそうだから、決して口にはしない。
「ねぇ、レイ」
「なんだ?」
ある程度ケーキを食べ進めて満足したのか、由梨が紅茶を一口飲み下して微笑みかけてくる。
まるで女神のようだ、と考えているレイは惚れた欲目全開のお花畑な頭の中を気づかせないほど穏やかに微笑み返す。
「都ちゃんとアッシュの結婚式なんだけど、レイは参加できる?」
「……っは?!」
「へ?あ、もしかして知らなかった??」
目を丸くして驚いているレイに、由梨は小首をかしげる。
そんな姿も愛らしい、とはやはり口にせず、レイは自分的には驚天動地の大事件だと思っていた二人の関係をあっさりとした顔で言ったのける由梨へ誤魔化すように首を振った。
「い、いや…もちろん知っていた」
気づいていたが、もっと密やかな関係だと思っていた。とは、口にしない。
「だよね!さすがレイ!」
「あぁ、自分のドラゴンの変化には気付いてやれないとな」
「ふふっ!優しいなぁ」
だから好き、と幻聴が聞こえてきた気がして、レイは口元をゆるませる。
「それでね、2人の結婚式なんだけど」
「あ、あぁ…」
「二人は質素でいいっていうんだけど、やっぱりせっかくの晴れ舞台じゃない?私も都ちゃんのドレス姿が見たいし、真っ白なドレスとタキシードは王道だと思うの。…でもやっぱり本人の希望もちゃんと聞いた方がいいよね。今度、マダムがいらっしゃるから、2人に聞いてみようと思うんだけど…」
「いいんじゃないか。」
鷹揚に頷くレイに由梨は嬉しそうに微笑み返した。
「ありがとう」
日中の不在時に滞った仕事を今日中に終わらせろとシリウスに厳命されたレイは、夕食後も執務室へ戻って書類の確認をしていたのだが、その進みは遅い。何度も由梨の微笑を思い出しては手を止めてしまっているのだから、今夜中に終わらなくても自業自得としか言えないが、それでは寝室を共にしている由梨を寂しがらせてしまう、と悶々とする気持ちを切り替えるために、庭園側のバルコニーの窓を開けた。
少し冷たい夜風が、レイの横を通り過ぎて、こもっていた室内の空気をかき混ぜる。
大きく胸を膨らませて深呼吸をし、夜空を見上げると、そこには丸い満月が浮かんでいた。
アッシュは満月の夜が好きだったな、と思い出して小さく笑う。
彼に初めて会ったのも、満月の夜だった。
湖から夜な夜な唸り声が聞こえてくる、という怪談の真偽を確かめるために、シリウスと彼の兄と3人で夜道を馬で駆けたのだった。
噂というのは、本当のようで、真実ではないな。
苦笑して、ふと耳に聞こえてきたのは、懐かしいメロディ。
視線を落として庭園をみると、アッシュがご機嫌に尻尾を振りながら庭園を闊歩している。
もともと明るく穏やかな性格のドラゴンだった彼が、酷く落ちんこんだこともあったが、それを乗り越えてまた以前のように、いやそれ以上に幸せそうにしてくれていることが、レイはとても嬉しかった。
自分たちに穏やかな幸せを与えてくれた由梨と都が、自分と同じように幸せだと感じてくれるために、努力は惜しまない。そう決めて、レイは由梨がいっていた結婚式のサプライズをどうしようか、と考えだす。
ふ、ともう一度視線を庭園へ向ける。
「あぁ、ミャーコ殿がいたから、そんなに楽しげなのだな」
噴水の前に佇んでいる都を見つけて、駆け寄っていく姿が見えた。
ここから先は恋人同士の時間なのだから、馬に蹴られる前に退散しよう。
もう一度月を見上げて、今ある幸せに感謝しバルコニーへ続く窓を閉める。
レイが室内へ踵を返すと、大量の書類を抱えたシリウスが立っていた。