7:一時の間
12月も終わりに近づいた時期のことだった。
あの日の以来友人として付き合うようになった転校生3人組——と言っても、主にユキとエレナの二人だけだが——は今日もぎゃーぎゃーと騒いでいる。
俺とミールはそれを苦笑しながらも仲裁に入るが、『煩い!!』の一言でどうしても手が出せずにいる。
そんな下らないやり取りをしていると、いつものように時間はあっという間に過ぎ、今は放課後。
3人組が何やら話があるとかで俺を屋上に呼び出した。
「今日はお前に大事な話があってきたんだ…」
ユキは、いつもとは違う真剣な顔つきで言った。
それに俺は少し不安を覚えたが、いつも隣にいる癒弥が「大丈夫だって」と言って励ましてくれる。
「…その、大事な話って…深刻な話なのか…?」
恐る恐る俺が聞くと、次はミールが答える。
「単刀直入に言うね。秋がいつも連れてる彼女——癒弥をこちらに引き渡してほしい」
「は?お前ら何言って…」
しかし、その言葉を遮ってミールは続ける。
「僕達には始めから彼女の姿が見えていたんだ。何せ、彼女の死の原因は僕達にあるから」
「!?」
「信じられないと思うけど、ちゃんと僕たちの話を聞いてほしい」
そう言って、ミールは説明し始めた。
始めはSEから始まり、今までの経緯や、癒弥が生き返るかもしれない可能性など。
信じられないことばかりだったが、ミール達の真剣な表情を見る限り嘘ではないことは一目瞭然だった。
「ほ、本当なのか…?その話は」
「いま、僕らの先生…サウスって言うんだけどね、その人が彼女の魂を肉体に入れる為の準備をしてくれているんだ」
「……分かった」
今まで何も言わなかった癒弥が言う。
しかし、
「………」
俺は何もいう事が出来なかった。
心の中では、癒弥を連れて行かせたくない。ずっとここに留まらせたい。
そんな自分の醜い感情ばかりが浮き上がってくる。
それに、癒弥が決めたことなんだ。俺がとやかく口出しすることではない。
「あ、でも、彼女を引き渡してもらいたいのはあと2ヶ月も先のことだからそんなに泣きそうな顔しなくても大丈夫だよ」
「へっ?」
「そうよ、サウスが『準備には最低でも3ヶ月はかかります』って言ってたしね。でも、明日一日は少し検査しないといけないから彼女、借りていくよ?」
「え…じゃあ…」
「卒業式には間に合うんだぜぇぇええええ!!!」
「っておい!?お前いきなりテンション上がり過ぎなんだよ!!普通俺が喜ぶところだろ?」
「それでもあたしだって結構寂しいな〜って思ってたんだから♪」
「はぁ…もういいや。結果オーライってことで」
「それじゃ、ミール、エレナ〜、俺らは今日秋ん家に行って遊ぶか!!」
『おぉっ!!』
「本人の了承なしで勝手に決めんなよ!?別にいいけどさ…」
そして、俺達は家に向かった。
その後は喧嘩することも無く楽しく遊び、その日はそれでお開きとなった。
——美しき狂愛者になった理由
一人の美しい少女が廊下を歩いていました。
少女は、容姿端麗という言葉を具現化したように、とても美しいのです。
だから、人々は皆彼女に見惚れてしまいます。
だから、人々は皆彼女に羨望や嫉妬をします。
それでも彼女にとってはそんなこと苦には思いません。
むしろ、人に、皆に見てもらうという行為自体が嬉しかったのです。
自分は他人よりも優位に立っているという優越感に浸ることが出来たからです。
しかし、彼女はある日気付いてしまいます。
自分を見てくれているのが全員ではなかったことを。
自分を見ていない人間が一人だけいるということを。
それに彼女は、何故か怒りを感じることはありませんでした。
その理由は、案外簡単なもので、彼女を見てくれていない人間というのが、彼女の愛している人間だったからです。
愛する人に彼女は怒りを感じることはありません。
だから、彼女の愛はどんどん歪んでいってしまいました。
醜く、暗く、深く、黒く…
もう修復不可能なくらい歪んでいってしまって。
彼女自身も狂ってしまいました。
それが、彼女が美しき狂愛者になった理由。
人はすぐに溺れていってしまう弱い生き物なのです。
ただ、彼女も溺れていってしまった被害者にすぎないのです。
彼を壊したいという破壊衝動に、溺れていってしまった被害者にすぎないのです。
さぁ、彼を愛しましょう?