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臨死恋愛  作者: 叶狂
6/10

5:探魂危機


『ハッピバ〜スデイトゥ〜ユ〜♪』

「…………」

『ハッピバ〜スデイトゥ〜ユ〜♪』

「…………」

『ハッピバ〜スデイ、ディ〜ア秋』

「…………」

『Happy birthday to you〜♪』

「って、何で最後だけリアルな発音になってんだよ!?」

なんて思わず突っ込みたくなる歌を歌い終えた旋定家御一行(秋を除く)は、『ナイスツッコミ☆』と

声を揃えて待ってましたと言わんばかりに☆までつけて言った。

それに秋は半ば呆れながらも最後には苦笑を漏らしてロウソクに灯った火に息を吹きかける。

その後ケーキを食べて、父——旋定 来史《センジョウ ライシ》の解散の一声で秋の誕生日はお開きとなった。

秋が自室に戻ると、もちろん癒弥がいるのだが…何かがおかしかった。

いつもの癒弥なら透けて半透明なはずなのに、今日に限って何故か透けてもないし半透明どころか触れることができるんじゃないか?と思える程ちゃんとした色がついていた。

秋が部屋に入ってきたことに気付いた癒弥は、いつもとは違う少しも悲しみを感じさせない満面の笑みで、心の底から笑っているような笑みでこちらに飛びついてきた。

始めはまたどうせいつものように感覚がなく抱きしめるフリをするか、すり抜けて廊下に飛び出していってしまうかのどちらかだと思っていた。しかし、今の状況はそのどちらにも当てはまらなかった。

ちゃんと、少し冷たいが体温を感じる。

ちゃんと、触れていることも感じられる。

そして、今ここに癒弥が存在しているということですら感じられて。

「えっ?ちょ、お前…!?」

「フッフッフッフ〜♪驚いた?」

「これ…どうなってんだ??」

「今まであんまり霊力使わないように努力してきた結果がこれってなだけ。今日の為にすっごい頑張ったんだからさ〜」

秋の反応に気をよくしたのか、癒弥は得意げに笑った。

そして、癒弥は秋の首に右腕をまわして、もう片方の腕で秋の目を覆う。

視界を遮られた秋は意味が理解出来ずにそのまま何をするのか少し疑問に思った。

「秋、愛してる」

突然いつもの気怠げな口調とは違う、すこし躊躇いがちな声音で愛してると言ってくる。

確かに、チャット内で会っていた時も度々愛してるだの大好きだのと言ってきてはいたが、実際に言われるとこっちまで恥ずかしくなってくる。

秋はそれに返事をしようとするが、上手く声にならない。

仕方なくそのまま口を閉ざすと、口に柔らかい感触があった。

しかし、それは本当に触れるだけのキスで。

ほんの刹那の間だった。

両者互いに顔が赤くなるのを感じたが、敢えて何も言わない。

未だに目を覆われた真っ暗な視界に光が差し込んでくる。

「な、なんにも用意出来なかったから…その…」

開けた視界。その前には顔を真っ赤にして俯き口ごもっている癒弥の姿。

それに気をよくしたのか、秋はいつもと立場が逆転したのをいいことに、新しいおもちゃを見つけた子供のような笑みを浮かべて言う。

「やっぱり、俺の100倍は可愛いな」

と。それは過去に秋が彼女に言った言葉。その時はすぐに「そんなわけない!!」と否定されてしまったが、今ではあながち間違いではなかったなぁ、と思う。

「う、煩い!!とにかく明日の朝までは実体化出来るから…ベッドはあたしが使う!!!」

「なんだよそれ?今日は俺の誕生日なんだからベッドで寝るくらい別に…」

「眠い、寝たい。おやすみ秋」

癒弥はそのまま俺のベッドに寝転がる。それなのに、何故か壁側に寄ってうずくまって寝ているところが素直じゃない。さすがに11月の後半の寒さで毛布なしに寝たら風邪を引くだろう。

「本当に変なところで素直じゃないな」

苦笑を漏らし、秋もベッドに横になって癒弥から毛布を半分奪い取る。

もっと面白い反応をしないものか?といたずらっ子のよく考えそうなことを考えてみる。

そして、悩みに悩んだ末に出た結論は…。


なにか、温かくて心地いい。

思わず居眠りしたくなる春の微睡み、丁度日の当たる席でうとうとしているような、そんな温もり。

秋が後ろから抱きついているというそれだけで、死んでから初めて安心出来たような気がした。

ずっとこんな時間が続いたらいいのにな…。

死んだ者がそんな叶わぬ夢を抱いたところで何の意味もないと分かっている。

それでも、僅かな期待を捨てることが出来なかった。







——とある学校での奮闘

“立ち入り禁止”

“この先危険”

などの標識を前にしてもなお、サウスは引き返そうとはしなかった。

今サウスがいるのは、厳重かつ強力な封印や結界を何重にも張られた地下41階の元SE操作室だった。

そんな凄い封印をされているにも関わらず、このSE操作室のほとんどが謎の罅に侵され、割れて粉々に砕け散っていて、殆ど原形をとどめていなかった。

そして、この真っ黒な果てのない闇の中にポツリと“何か”がそこにあるのだ。

まったく罅に侵されずに、“何か”だけがそこにあるのだ。

まるで、その“SE”が罅を生み出した原因かなにかのように…。

「空気の抵抗《リーナ・デ・オルト》」

サウスは呪文を唱える。

すると、突如サウスの周りの空間に薄い球状の膜で覆われる。

サウスがSEに向かって歩き出すと、その膜もそれにあわせて動く。

闇の中、そのSEの液晶画面の光以外は何も光源は存在しなかった。

しかし、何故こんな危険なところにあるSEを使う必要があったのか?

その答えは案外簡単なものだった。ここに今現存しているSEは、初期型の唯一の生き残りなのだ。

初期型のSEは今の型とは違い、多大な情報操作をすることができるためとても危険なものだった上に、このひび割れを起こしたのは初期型が原因となっている為、今では製造中止となっている。

その多大な情報操作をサウスはしようとしている。

そんな危険な機械を操ろうとしている。

きっとサウス程の腕なら簡単にこのSEを使って世界征服など簡単にすることができるだろう。

しかし、今の目的はそんなことではない。

大切な者を守る為に行う情報操作なのだ。

サウスはSEを操作し始める。

その動きは尋常じゃない程に速かった。

まずは肉体を殺すことのないように情報操作を行い、次に魂の受け入れができるようにして、他の余計な魂が入り込まないように防御を張り巡らす。

細部の細部まで念入りに操作し始める。

これを3ヶ月間行うとなったら強靭な精神力の持ち主ではないとやっていけないだろう。

それでもサウスは、情報を操作していく。

薬の副作用が現れるまでの3ヶ月の間に完成させなければならない。

薬の副作用。それは、薬によって様々だが、この薬の副作用は最悪なものだった。

最初の1ヶ月で触覚を麻痺させて、2ヶ月目で感情を失う。

そして最後の3ヶ月目で、精神の崩壊が始まる。

始めは腕から始まり、徐々に身体を蝕んで、最終的には人間味というものが消え失せたただの抜け殻になってしまうのだ。

そうと分かっていてもサウスが手を休めることはなかった。

全ては大切な者を守るため。






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