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臨死恋愛  作者: 叶狂
5/10

4:遣罪者


「暇だ…」

机に突っ伏したままの状態で秋は今にも閉じてしまいそうな瞳を必死に開けて意識を保とうとしていた。

が、とうとう限界を超えたのか、数学教師の説明する声がだんだん遠くなり、秋は眠りに落ちていった。



それは、不思議な夢だった。

秋の父親が不思議な機械を操作している夢。

いくつものボタンと、見たことの無い文字の書いてあるキーボードと、訳の分からない数字や文字の羅列が一面に並んでいる画面。心なしか少し浮き出て見える。

そして、父の隣には銀髪の端正な顔立ちをした男がいて、へらへらと笑いながらもその手を尋常じゃないスピードで動かしている。

例えるなら、ハッカーがキーボードを叩くくらい…いや、それ以上の早さだ。

しかし、父とその男は何故か青と白を基調としたローブのような服を着ていた。

よくアニメのキャラクターが着てそうなものだ。

しかし、わりとスッキリしていて、着心地も良さそうだった。

もちろん、コスプレなんかではなく本物だというのは生地の素材で分かる。

二人はいったい何をしているんだ?

しばらく二人の様子を眺めていると、不意に男が振り返り、目が合ってしまった。

そのままその男は優しげな笑みを浮かべながらこちらへと近づいてきて、

「旋定ぉお!!お前何をのうのうと寝てんだ!?」

と怒鳴りつけられ、気付いた時には「はぃい!!」と叫んで勢いよく立ち上がっていた。

周りを見渡せばいつもの教室で、くすくすとこちらを見て笑っている友人とクラスメート達がいる空間だった。

そして、目の前にはこちらを睨みつけている数学教師。

失敗した、と嘆いても時既に遅く、大切な休み時間は数学教師の説教で丸まる全部つぶされた。

そして昼休み。友人達と屋上で弁当を食べるのが日課になっている。

「おまえ授業中爆睡してたな」

と楽しげに話しかけてくるのはクラス一番のお調子者の吉本だった。

「うるせぇっつの。あん時は眠気がピークに達してた…」

しかしそれを遮ってエロ本を片手に持った田中が、

「お前寝言で“ゆみちゃ〜ん”なんて言ってたぞ」

「マジかよ!?お前彼女いたのか!!」

それに俺は冷や汗をたらした。まさか…確か夢の内容は父さんがなんかやってる夢だったはずで…

「なんて言うのは嘘だけどな!!あっはははは、騙されてやんの〜」

「ふざけんなよ。お前らだって、年中エロ本ばっか読んでねぇで彼女の一人や二人作ったらどうなんだ?」

「お前に言われたくねぇよ〜だ」

「それ以前に、この学校の女子と言ったら鎖梨乃さんぐらいしか可愛い子いなくね?」

なんていつものような馬鹿話が始まる。

ちなみに鎖梨乃という女子生徒は、容姿端麗、その上明るい性格で頭もよく、ファンクラブまでできている有様だ。

俺はあんまりそういうのには興味が無いからあまり基準が分からないが、学校のアイドルである鎖梨乃さんは確かに可愛いとは思うものの、やっぱり今も俺の隣にいる癒弥が一番可愛いと思える。

癒弥は一日の大半を寝て過ごしている。なんでも、幽霊にとっては寝て過ごすのが一番有意義な過ごし方らしい。まぁ、幽霊だから何かをしたくても出来ないってのが本音なんだろうけど…。

でも、着替え中や入浴中に覗かれる——今までは未遂に終わったが——よりはこうして寝顔を見ている時の方が和むし危機感を感じる心配が無いからこれはこれでいいかもしれない。

今日は11月24日。俺の誕生日。

吉元と田中からはエロ本——なんか表紙からして結構ヤバそうなの——を一冊ずつ。

あとは、ババア(=祖母)と母さんと父さんからは諭吉を3人分貰った。自分で買ってこいというとらしいが、今は大して欲しいものが無いため貯金をしておく。

妹と弟からは何故か2枚の肩たたき券。俺がそんなに老けてるように見えるのか?と聞くと、『うん!!』と

あっさり頷いて、俺が怒ると思ったのか『キャー』とか言って逃げていった。

そして、癒弥からは…何故か“夜までのお楽しみ☆”と言っていたのでまだ何も貰っていない。

こいつの考えていることは分かりやすくて分かり難い。

簡単に言えば…わざと分かりやすいようなキャラを演じて本心はしっかりと誰にも察することが出来ないように隠し通している感じだ。ちゃんと感情は現れているはずなのに淡々とした声もその所為なんだと思う。

癒弥はいつも眠そうにはははっ、と笑っている。だけど、いつもちゃんと笑いきれていないのだ。

いつも…、いつも諦めたような顔で無理矢理笑ってて、今もこうして寝ているが、手足を拘束しているわけでもないのに両手両足を重ねた状態でうずくまって寝ている。この前興味本意で読んだ心理学の本には『両手や両足を拘束したような形で重ね合わせて寝ている人は何か悩みのようなものを抱えている』と書いてあった気がする。

だから、もしかしたらそうなのかもしれないという考えが捨てきれないでいる。

秋は自分の隣で幸せそうに眠っている癒弥を見る限りそれはただの考え過ぎだとも思ったため、それ以上は何も考えないことにする。

そして、5時間目の予鈴が鳴り、4人は教室へ帰っていった。






——とある学校での補修

「ということで、あなた達3人には補修ということで現世に行って鎖梨乃 癒弥の魂を探してきてもらうことになりました。期限は3ヶ月。失敗は許されませんからね?」

サウスは不適な笑みを浮かべて、懐からどうやって出したのか、竹刀を取り出す。

そして、もれなく全員顔が真っ青になっている生徒達3人に向かって竹刀を叩き付けようと…、

「ちょ、先生!!この高さ尋常じゃないって?そこんところちゃんと分かってやってるわけ!?」

今3人が立っているのは通称:空間の狭間エドアと呼ばれている滝の上だった。

ザァーっ、と大きな音を立てて流れゆく水の量は毎秒5トンにも上ると言われていて、ここら一帯に流れているこの地方最大の河であるモリュースメント河から流れているもので、その水はとても澄んだ色をしていて飲んでも害はないという。

そして、この滝の凄いところはその全長だ。なんと、1,400億kmもあるらしい。

それ以外にも、この滝には自分が行きたいと望んだ場所に行けるという噂があり、実際に成功した人がいる…らしい。

「まぁ、死ぬことは無いと思いますからどうぞ楽しんできてください」

サウスは今まで以上に楽しそうに笑っていて、逆に生徒達にとってそれは恐怖以外の何ものでもなかった。

そして、サウスは振り上げた竹刀で3人の背中を叩き付けると、「期限は3ヶ月ですからね♡」と言って爽やかに笑った。

その時の顔といったら、とてもとてもスッキリした顔をしていて、

『あんのくそ教師ぃぃいいいい!!帰ったら絶対にに殺してやらぁぁああぁぁあああああぁぁああぎゃぁぁああああああああああああああああああああああああああああああぁぁ……』

3人は心を通わせ、滝の水にもまれながら現世へと堕ちていったのであった。


「とりあえず、これであの子達が捕まるのは遅らせることができますね。しかし、油断は禁物ですね。くれぐれも気をつけてください。その滝の噂、実は…………全て私が考えたガセネタだったので」

サウスは背後にいる黒装束の男達から逃げるべく、昔秘かに研究に研究を重ねて作り出した薬を取り出すと、それを飲み下す。

「深い眠り《イリート・ルテーラ》」

古代語でサウスがそう呟くと、黒装束の男達は次々と倒れていく。

この薬は言霊を操るというものだった。しかし、この薬にはとんでもない副作用があるため、今ではもう作られていない呪われた代物だ。それでも、サウスは元学者、これくらい作るのは造作も無かった——実際はどんな天才学者でも作り出すのは困難とされているのだが——。

そしてサウスは歩き出す。

壊れた空間に向かって。

割れた空間に向かって…。








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