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臨死恋愛  作者: 叶狂
4/10

3:夢=現実逃避


「っ!?」

秋が勢いよく目をさました時には、太陽は既に真上の少し斜めのところにきていた。

「ゆ、夢だったのか?」

思わず現実逃避をしてしまいたくなるような夢だった。まさかあいつがでてくるとは…。

俺も相当依存してたみたいだな、と思い自嘲するような笑いを漏らすと、

「うっわぁ〜、酷い。現実逃避かよ」

現実というのは残酷なものだと思う。

まさか幻聴まで聞こえてくるとは…。

「ちょっと、無視!?酷くないか!??」

まさか幻聴まで聞こえて…。

「うわ、只じゃなしに傷ついた〜」

まさか幻聴まで…。

「傷ついちゃったなぁ〜、もうこの心はブロークンされちゃったかもなぁ〜」

まさか幻ちょ…。

「この心を癒す為には仕方ないよなぁ〜、うん。本当はやりたくないんだけどなぁ〜」

…………。

「ってことだから、ちょっと犯されてくれな…」

「ちょっと待てぇぇええ!!!!」

「あ、やっと返事してくれた!」

…ついつい返事をしてしまったぁ!!

でもさ、自分の貞操の危機だってのに黙ってられる人間がいると思うか?ぜってぇいねぇな。断言出来る。

って、それ以前に、

「なんで癒弥ユミは成仏してねぇんだよ!?」

俺の彼女…もとい幽霊である癒弥は、今までの話からすると死んでしまったらしい。

でも、どうしてここにいるんだ?さっさと成仏でもして楽になった方がいいはずだ。

「……約束」

「約束?」

「まさか、忘れたわけじゃないよなぁ?」

そして何故かさっきからいつものような口調とノリで拳を握り始める。

彼女は約束——そういえばさっきも言ってたような気がする——と言った。

それは、1ヶ月以上も前のことだ。


——1ヶ月前

『チャット内の恋愛って奥様方が大好きな昼ドラ並みに複雑なような…?』

「小難しいことはわからねぇけど何か大変な…」

『もしもあたしのネト友を泣かすような輩がでてきたら殺すw』

「たのもしいなwでも手前が言うと洒落になんねぇよw」

『心配しなくても、洒落じゃなくて本気だからww』

「次の日何か癒弥玄関の前に立ってそうだなww」

『あ、そういえば、前聞こうと思ってて忘れてたんだけどさ、秋の学校の制服って学ラン?それともブレザー??

さすがにあたしが立ってることは無いだろうけどさ、生き霊みたいなのなら居るかも(笑』

「俺は学ランだ。何かあんのか?

生き霊wwそれでも会えたら嬉しいか…ww」

『もしも秋が玄関に立ってたら即お持ち帰りだけどね』

「お持ち帰りって;;俺食われんのかよ」

『好きな子が目の前にいるってのに襲わない馬鹿はいない!!』

「いや“襲う”つうポジションどっちかって言えば俺じゃねw?」

『だって、秋を襲った事はあっても襲われたことはないしw』

「過去を掘り起こされると案外恥ずかしいなww事実だけどよ」

『秋LOVE!俺は秋が大好きだ、愛してる!!』

「あっっちょ止めろ!!俺が恥ずかしいから止めろ!!」

『ははww秋が可愛いと思えてしまう』

「可愛いのは癒弥だろ?(クス」

『なっ、可愛くなんか無いって言ってんだろ!!』

「少なくとも俺の100倍は可愛いから安心しろ」

『いいや、そんなことは無い。天地がひっくり返ってもあり得ない!』

って、長いわ!!なんで変なとこまで思い出してんだよ俺!?

なんて一人ツッコミを入れつつ、全く省略せずに回想シーンへと戻る。

『あ、一つ言い忘れてた。卒業するまで絶対に第2ボタン無くすな。Are you ok?』

「ボタン?何で?」

『ここはベタに第2ボタンを頂戴する!無くしたら…(ニヤリw』

「絶対になくさん……(決意」

なんて約束をしていたのだ。

そう、第2ボタン。

秋は壁にかけてある学ランへと目を向ける。

その学ランのボタンは一つとして無くなっていたりはしなかった。

そして、次にカレンダーへと目を向ける。

今日は11月20日。そして、俺の誕生日までは後4日。

そして、いつもは3月1日に行っている卒業式も、今年は閏年のため2月28日に行われる。ちょうど癒弥の誕生日にあたる日だ。

あと約3ヶ月…。

まぁ、それ以前に俺に告白してくるような女子なんて俺の学校にいないだろうけどな。

そして、秋は長い回想の後、

「忘れるわけねぇだろ。それ以前にナニされるかわかんねぇから忘れることすら出来ねぇんだけど」

「よかった〜。と、とにかくそれまでは絶対に成仏なんて出来ないから今日からの約3ヶ月お世話になりますぜ☆」

その時の癒弥の瞳はとても輝いていたという。



——とある学校での発覚

サウスは3人を家に連れてくると同時に、ここでしばらく待っていてください、絶対に外に出たりしてはいけませんよ?電話がかかってきても誰が来ても出ないでください。あなた達がいると変に誤解を招きますからね、と言って出て行ってしまった。

今の状況の重さを知らないユキ達は雑談を繰り広げていた。

「サウスの奴、生徒を家に招き入れるとか変態教師にでもなったんじゃないか?」

笑いまじりにユキがそう言うと、今度はミールが青褪めながら、

「それは無いと思うけど…も、もしかしたら課題用のプリントと原稿用紙を大量に用意しにいってたりして…」

それにエレナが、

「反省文の1枚や2枚ぐらいどうってこと無いでしょ」

「でも面倒だよなぁ〜」

「あの…二人とも気付いてるかもしれないけどさ、先生の様子おかしくなかった?」

それにユキとエレナは沈黙するが、こくりと頷く。

「僕、今まで黙ってたんだけどさ…」

ミールがそう言うと、その場の空気に重い重圧が掛かった。


その頃、サウスは死んだ人間について何か情報は無いかとあちこちを走り回っていた。

サウスは教師ではなく、元々は学者だった。それも、SEを扱う第一人者。

彼の技術はとても優れていて、人間の細やかな感情一つ一つに至るまで手を抜かず、その上とても速いスピードで処理することができたSEのプロだった。

だが、ある日を境に彼はSEを扱うことが出来なくなってしまった。

それは5年程前のことだ。

いつものようにサウスはSEの処理に追われていた。

その月の当番はサウスとその同僚であるラッジだけで、他のメンバーは有休を取っていて二人意外には誰も来ていなかった。

本来ならもっと多人数でする仕事を2人でこなしているだけあって休む間もなく働いていた。

そして、事件が起きたのはその日の深夜を回った頃だった。

カチカチ、カタカタ

室内はSEを操るだけの音が響いているため、それ以外の音は殆どない。

10分…

20分…

30分…

時間だけがどんどん過ぎてゆく。

しかし、その短時間で異変は完成してしまっていた。

バリンっ、と派手に何かが割れる音がした。

サウスが音の方を見ると、そこには目を見開いて自分の手を見つめているラッジの姿があった。

「どうかしましたか…!?」

サウスがラッジに近づくと、その異変にすぐに気がつくことができた。

ラッジの手首から先がガラスのように割れていた。

血は滴っていない。ただ、“ラッジの手”という名の空間が割れていた。

「それは…!?ま、待っていてください!!今すぐに救護班を…」

とサウスが部屋から出て行こうとしたところでラッジがやっと口を開いた。

しかし、その声は聞こえない。口はしっかりと動いているのに、息を吐き出しているはずなのに何も音が聞こえない。まるでそこにはもうラッジがいないかのような…。

それでもサウスにはラッジが何を言ったのかが分かった。


ハヤクニゲロ


理由は分からないが、彼は逃げろと言う。しかし、サウスにはその理由が全く分からない。

「何を言ってるんですか!?とりあえず、私が帰ってくるまでなるべくそこを動かないで…!!」

刹那、ラッジの手を割っていた空間の罅が大きく広がり、広がり、どんどん室内を侵していく。

そしてその罅はサウスの方にも伸びてきて…。

彼は走って逃げた。とにかく逃げることに必死で…その後のことは何も覚えていなかった。

唯一覚えているものと言えば、ラッジが悲しげに笑って…割れていったところだった。

その後、サウスはSEの管理を怠ったという理由で今までの地位を全て奪われてしまった。

あの割れた空間は、今では立ち入り禁止になっているため誰も入ることは出来ない。

しかし、今日は久しぶりに過去と向き合う日が来たのだ。

あの日以来震えて触ることすら出来なかったSEを使う日が。

サウスは震える手を押さえつけてSEの電源を入れる。

そして、震えは一層酷くなったような気がしたが気にしない。今度こそは失敗なんてしない。

そう決心したんだ。今度は何からも逃げずに何からも大切な者は奪わせないと。

ボタンに触れる。

画面に触れる。

キーボードに触れる。

昔と比べて動きは鈍っていたが、それでも十分早かった。

いつの間にか震えは消えていて、サウスは今日死んだ人間のリストを真剣に読んでいく。

上から下へ、左から右へと猛スピードで読んでいく。

「見つけた…」

ようやく見つけた。

その人間の名前は“雛本ヒナモト 癒弥ユミ

彼女の死因は、飛び込み自殺。

その時のSE値は…0。

しかし、情報によると肉体は植物状態——植物状態も死亡と判断される——でまだ死んではいなかった。

希望の光が見えた。

これならきっと短くて3ヶ月もあればなんとか魂を連れ戻すことができる。

しかし、それには色々と問題があった。

肉体から抜けた魂が何処にいるかだ。

もしもまだ現世に留まっているのなら肉体に連れ戻すことができるが、来世や前世などに迷い込んでいたらもう連れ戻すことが出来なくなる。それに、その魂が何かに定着してしまっている場合もだ。

そしてサウスはいいことを思いついた。

生徒達を危険な目に遭わせない、かつ魂を捕らえて肉体に入れる時間を削減出来る方法が。

サウスはすぐさま家へと帰る。

今度はきっと大丈夫、誰も死なせることは無いと…。








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