冬のある日 6
二時間目の終了を告げるチャイムが鳴り、起立、礼を終えると、教室内はまた一気に喧騒を取り戻す。
「はい、これ。ありがとな」
俺は着席せずに後ろを振り返ると、先程の授業中に写し終えた数学のノートをカツに返す。
「どういたしまして」
カツはノートを受け取ると、机の上に出してある教科書類と一緒に机の中に突っ込む。
「それにしてもシズム――」
「死ねっ☆」
笑顔で言ってやる。やっぱりなんかムカつく。
「酷っ。てか怖いんですけど、その笑顔が」
「んで用件を言え、用件を」
「いやあんたが邪魔したんでしょうが。……色々訊きたいことあるんだけど、昇、最近なんかあったの?」
「どうして?」
「いや、今週はやけに僕への風当たりが強いなって思ったんだけど、気のせい?」
変わらないように努めてるけど、やっぱりいつもと違うのかな、俺。
だがまあ、アヤカのことをカツにまで話す必要はないだろう。
「ノーコメントだ。お前に話すようなことじゃない」
「そーすか」
それほど興味のある話題でもなかったのだろう。カツはやる気のない返事をして鞄から体操着を取り出した。
「あれ? 次って体育だったか」
教室内を見渡すと、男子は雑談をしながらそれぞれ着替え始めていて、女子は残っていない。女子更衣室が用意されているのだ。男子更衣室がないのは、仕方ない。その代わりにわざわざ移動する必要がないという特権があるので文句はないが。
もっとも俺は―――。
「シズムは今日もサボりなの?」
「死ね。それと俺は今日も体操着を忘れただけだ。俺の鞄には体操着を入れるスペースなんて用意されてねぇーんだよ」
受験勉強の息抜きのために、体育の準備運動以外が自由参加の形式になったときにそんなスペースは消滅している。
「朝食の食パンを入れるスペースはあるのに?」
「飯は必要だろ?」
「あんた考え方間違ってますからね」
「いいだろ。思想の自由は保障されている」
「いやいや」
ため息を吐きながら着替えるカツを横目に俺は教室の出口に歩く。
「見学くらいすればいいのに」
振り返らずに返事する。
「単位制じゃねぇーんだから、どこにいようと変わらねぇーだろ」
屋上で時間潰すほうが俺には合ってるんだよ。グラウンドの隅でサッカー観戦するより、よっぽど。
言い残して制服姿のまま教室を出る。向かう先は屋上。