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紅い月  作者: 麻道 傾
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冬のある日 5

 喫茶店「FLOWER」から学校までは徒歩十分ほどの時間が掛かる。何の変哲もないその道のりをいつも通り堂々と闊歩する。人通りがまばらだといっても朝一で近所のスーパーに買い物に行くのであろう奥様方とすれ違うこともしばしば。

 遅刻しているのに急ぐでもなく、こそこそ隠れるでもない俺の姿は、オーナーの言うとおり不良に見えるのだろう。

 第一ボタンまでちゃんと締めているのに……。まあ、今はボタンがコートで隠れているから締めているかどうかなんて分かりやしないが。

 指される後ろ指を気に留めることもない俺は、ちょうど一時間目の終了を告げるチャイムと共に校門をまたいだ。

 校庭を横切って校舎内に入り、下駄箱で上履きに替える頃には各教室は騒がしくなってきている。

 校舎内の部屋の配置は、一階が職員室や校長室、応接室などになっていて、二階からは生徒が使う普通の教室になっている。階数が上がるにつれて使う学年も上がるため、今年で三年の俺は四階まで上がらねばならない。

 下駄箱スペースのすぐ横にある階段を利用して上がると、まず間違いなく職員室に戻る教師とすれ違うことになるだろうが、それは仕方がない。この校舎には階段がひとつしかないのだ。

 遅刻の多い生徒としてブラックリストに顔と名前が挙がっている俺を見ても、教師は顔をしかめるだけで、これといった注意をすることもない。注意をされても直す気がないのだから何も言わないのがお互いのためなのだ。利益を追求しているところに関してはその考え方に同意するが、道徳を重んじる学校教育における方針としては間違っている気がしないでもない。俺が発言しても説得力が皆無なので口にすることはないが。

 そんなことを考えながらも二階、三階と上がっていき、四階に達する。

 教室から漏れる休み時間の喧騒を聞きながら自分の教室まで移動する。受験を間近に控えているというのにこうも騒々しいのはどうなのだろう。夏場のセミの鳴き声レベルには耳障りだ。

 後ろの扉から教室に入って、窓際後ろから二番目の席に着く。休み時間なのでそれほど目立つわけでもなく、不良のレッテルを貼られている俺に好んで挨拶をしようとする奴も少ない。声をかけてくる物好きはそうそういないのだ。

 一言も言葉を発しないまま、ぼんやりと窓の外を眺める。

 ……学校は嫌いだ、本当に。

 そのまま二時間目の準備をするでもなく、学校の敷地に面した道路を横切っていく自動車を目で追っていたのだが。

「うーっす、シズム。今日も沈んでるねぇ」

 物好きはそうそういない―――が、「それゆえ俺の周りには物好きが集まるというのもまた真理」

 俺の真後ろの席の住人、勝海(かつみ)健斗(けんと)がその代表例である。

「来て早々に語り出しちゃってるし。引いていい?」

 トイレにでも行っていたのであろう数少ない友人に振り返り、とりあえず罵倒しておく。

「地の果てまで引っ込め、カツがっ!」

「『カスがっ!』って言うノリで僕の名前呼ぶのやめてくれませんかねぇ!?」

「いいだろ一文字しか変わらないんだし」

「二文字中の一文字は『しか』とは言いません」

「ケチケチすんなって、喫茶のオーナーみたいにサービス精神大事にしろって」

「色々突っ込みたいけど、オーナーはケチだと思う、とだけ言っておく」

「あの人、常連には気前いいよ。今日はカプチーノ奢ってくれたし」

「たまにしか行かない僕はお友達価格で二十パーセントアップだけどね!?」

「いいじゃねぇーか、そのくらい。オーナーなりの冗談だろ。あっ、それとオーナーから伝言ね」

 俺はカツの前に握った右手を突き出すと、親指をグッと立てる。そして満面の笑みと共に指を下に向ける。

「消えろっ。カスがっ!」

「それ伝言じゃないよねぇ! あんたの正直な気持ちでしょ!」

 俺は神妙な表情をつくり、目を伏せる。ついでに右手でカツの肩をポンポンと叩いてやる。

「いいことあるさ。お前はカスでも神様は平等なんだ。心配するな」

「あんたの頭が心配だよ!」

「『一寸のカスにも五分の魂』……よく言ったものだ」

「言わねぇーよ。つか僕そこまで小さくないし、五分の魂とかどんだけちっぽけな存在だって話だよ」

「『一寸のカスでは三つの突っ込み』……よく――」

「言わねぇーよ」

「むぅ。ボケごと潰しにきたか。こいつ戦いの中で成長してやがる……」

「どこの少年漫画だよ!?」

「ま、それでこそ俺の(カスッ)少ない友人の一人だろ」

「そこはかとなく馬鹿にされている気がするんだけど……」

「気にするな。それより一時間目のノート貸してくれ。次の放課には返すから」

「ほいよ」

 カツは机の上に出しっぱなしになっていた数学のノートを渡してくれる。

「サンキュ」

「ったく、シズムは真面目なんだか不良なんだか」

「俺は遅刻が多い優等生だっつーの。あと死ね」

 こいつにシズムと呼ばれると何故だかイラッとする。

「ボソッと呟かれると怖いんだけど……」

 カツの言葉は無視して早速ノートを写す作業に取り掛かる。

 絶対に口に出すことはないが、俺はカツに意外と感謝している。遅刻ばかりの俺が授業についていけるのはカツのおかげだし、つまらない学校を休むことがないのも、まぁ半分くらいは。

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