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紅い月  作者: 麻道 傾
2/15

冬のある日 1

 朝起きて、まず落胆する。

「ああ、今日も世界は終わっていないんだ」と。

「まだ紅い月は堕ちてきてくれないんだ」と。




 二週間前に目覚まし時計が壊れてしまってからは自前の体内時計に頼って起床している。もちろんちゃんとした時間に起きられるはずもない。

 体温で温められた布団に入ったまま、掛け時計を確認すると時刻はすでに八時半すぎだった。今日も遅刻は確定。

 布団を蹴り飛ばすと冷やされた外気に肌がさらされて脳の起床が助長される。

 ジャージ姿のまま立ち上がり、窓を開けてベランダに出る。

「うっ、寒っ」

 冷え切った冬の空気が眠気を吹き飛ばす。吐く息は白く濁り、吸う息は鼻の奥に鋭い痛みを残す。気温は十度もないだろう。

 見渡す町並みは最近、慣れ親しんできたものからどんどん変化していってしまっている。空き地や緑が減った代わりに背の高いマンションが増えてきた。遠くには霞む山々が見える。

「はぁ~」

 吐く息が白いのは昔から変わらない。息を吸うのが痛いのも同じ。吸うのを我慢すると苦しいのも昔からだ。当たり前のことだけど。

 だから、変わってしまったのは俺ではなく、周囲なのだろう。

 天気は曇り。空は灰色に覆われ、日は顔を出さない。そのことが今朝の冷え込みに拍車を掛けているのだろうが、文句を言う相手など何処にもいない。月が堕ちないのと同じように、人間にはどうしようもないことが数多くあるのだ。ちっぽけな俺にできるのは誰かに愚痴を聞いてもらうことくらいだ。

 身体が冷えてきたのでそろそろ室内に戻るとしよう。

 窓は開けっ放しにしてあったので部屋の温度も外とそれほど変わらない。布団に入れば話は違ってくるだろうが、今から二度寝する気にはなれない。

 敷布団、掛け布団、共に畳んで部屋の隅に避けておき、部屋の壁に掛けてある学生服に手を伸ばす。

 ジャージを脱いで、カッターシャツ、ズボン、学ランの順に着て、最後に学校指定の黒い綿のコートに袖を通す。

 学校指定の鞄を持って部屋を出る。踏むたびに音が鳴る古い板張りの廊下を歩き、居間を素通りして玄関に達する。学校指定の真っ白な運動靴に足を通す。

 学校というヤツはどうしてこんなにも生徒の格好を指定したがるのだろうか。

 高校に入ればまだマシになるのかも知れないだろうが、中学校というのは本当に酷い。今、身に着けているもので指定されていないのは下着と靴下くらいではないだろうか。それだけでは飽き足らず髪型まで校則で数種類まで指定する始末。

 本当に、分からない。

 だから学校は嫌いなのだ。

 内心だけで悪態を吐くと、俺は家を出た。

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