1/15
prologue
昔から紅い月は嫌いだった。
白い月と違って、その妖しい光り方は俺に錯覚を起こさせる。
『紅い月は生きているのではないか?』
荒唐無稽な話だと分かっているが、紅い光はどうしてか"生"を起草させる。
小さい頃は、紅い月が堕ちてきて死んでしまうのではないかと、いつも怖がっていた。
十歳を過ぎた頃からちょっと前までは、紅い月に監視されているような気がして、気分が悪かった。
そして最近は、いつまで待っても堕ちてこない紅い月に、いつまで経っても堕とすことができない月に、苛立っている。
そもそものきっかけは忌々しい母親にあるのだが、故人を悪く言っても意味などない。穢れた自身の姿を目の当たりにできるくらいだ。
穢れきった俺は、退屈な毎日をただ漫然と生きているだけだった。
――あいつに出会うまでは。