第98話:落日の時計塔、決死の飛翔
おはようございます!
歌姫エレナを救い出したのも束の間、大時計塔に仕掛けられた自爆装置が作動します。
崩れ落ちる足場、降り注ぐ瓦礫。
絶望的な高さから、枢たちは少女を抱えて生還することができるのか。
仲間の絆が試される、極限の脱出劇が今、始まります。
土曜日、1回目の更新。朝からフルスロットルでお届けします!
地響きと共に、大時計塔の床が大きく傾いた。
「蛇の秤」の調律師・フォルテが姿を消すと同時に、塔全体に刻まれた赤い自爆紋様が、脈打つような不気味な光を放ち始める。巨大な歯車が噛み合わせを失い、火花を散らしながら次々と脱落していく。
「……野郎、……本当に街ごと吹き飛ばす気かよ!」
カザンが咆哮し、崩れ落ちてきた巨大な梁を肩で受け止める。その下で、枢は未だ意識の戻らないエレナを背負い、足場を確保しようと必死に踏ん張っていた。
「……カザンさん、……無理をしないでください! ……塔の強度がもう限界です! ……リナ、……階段は使えますか!?」
「……ダメです、枢さん! ……下の階層から順に爆発がせり上がってきています! ……私たちが降りるより先に、……塔が根元から崩れます!」
リナの報告は絶望的だった。地上から数十メートルの高さ。周囲は海と石畳の広場。飛び降りれば、たとえ魔力で強化した身体であっても無事では済まない。
その時、枢の翡翠眼が、塔の外壁を包む「風の流れ」を捉えた。
「……いえ、……道はあります。……カザンさん、……その梁を投げ捨てて、……私の指示する場所を槍で貫いてください! ……あそこの外壁にある『排気孔』です!」
「……おう、……よく分からねえが、……やってやるぜ!」
カザンが梁を放り投げ、渾身の力で槍を突き出した。轟音と共に外壁が砕け、そこから時計塔内部に溜まっていた熱気が、猛烈な勢いで外へと噴き出した。
「……リナ、……あなたの『清浄なる風』で、……その噴き出す熱気を包み込み、……巨大な『クッション』を作ってください! ……カザンさんは私とエレナさんを抱えて、……その風の渦へ飛び込むのです!」
「……飛ぶって、……ここからかよ!? ……枢、……お前、……たまに俺より無茶なこと言うよな!」
カザンは豪快に笑うと、枢とエレナを左腕で、リナを右腕で抱え込んだ。
「……準備はいいか、……お嬢ちゃん! ……舌を噛まねえように気をつけてな!」
「……はいっ! ……風の精霊よ、……私たちの命を、……優しく導いて!」
リナが杖を掲げ、噴き出す熱気に聖なる魔力を流し込む。
直後、足元の床が完全に消失した。
カザンは躊躇なく、空へと躍り出た。
ヒュン、という浮遊感の直後、凄まじい風圧が一行を襲う。
背後では、大時計塔の最上階が眩い光と共に爆散し、火炎の華が夜空を焦がしていた。
落下速度が増していく中、リナが作り出した風の渦が、一行を包み込むように回転を始める。それはまるで、目に見えない巨大な鳥の背に乗っているかのようだった。
「……ぐっ、……まだ速度が速すぎる! ……カザンさん、……右です! ……あそこの運河の水面に狙いを定めてください!」
「……分かった! ……野郎ども、……衝撃に備えろ!」
カザンが空中で身を翻し、着水の衝撃を最小限にするため、盾となるように自身の背中を下に向けた。
激しい水の音と共に、一行は運河へと叩きつけられた。
数秒後。
ぶはっ、と枢が水面に顔を出した。
腕の中には、しっかりとエレナを抱き抱えている。
「……リナ! カザンさん! 無事ですか!?」
「……ゴホッ、……ええ、……なんとか。……精霊たちが、……守ってくれました」
リナが岸壁に掴まり、息を切らせながら答える。
「……ケッ、……ひでえ目に遭ったぜ。……だが、……あの塔のお辞儀は見ものだったな」
カザンもまた、ずぶ濡れになりながらも、岸へと這い上がった。
背後を振り返れば、ポート・レオンの象徴だった大時計塔は無惨に崩れ去り、瓦礫の山と化していた。しかし、塔から響いていたあの「呪いの歌声」は止まり、街には静寂が戻っていた。
「……あ……、あ……」
枢の腕の中で、エレナがゆっくりと目を開いた。
彼女の喉からは、もはや銀の管は消え、清らかな「気」が流れ始めている。
「……エレナさん、……気がつきましたか」
枢の優しい声に、彼女の瞳から大粒の涙が溢れ出した。
「……ありがとう……ございます……。……私の声が……、私の心が……、温かいです……」
彼女が発したその言葉は、魔力で増幅された歌声よりも遥かに深く、人々の心に響く力を持っていた。
運河の周りには、いつの間にか「停滞の福音」から目覚めた街の人々が集まり始めていた。彼らは涙を流しながら、自分たちの歌姫の生還を喜び、そして枢たちに感謝の眼差しを向けていた。
だが、安堵する枢の翡翠眼は、崩れた塔の跡地から立ち上る「不吉な黒い煙」を逃さなかった。
それは爆発による煙ではない。
組織の最高幹部・フォルテが残した、更なる絶望への「招待状」だった。
「……まだ、……終わっていませんね」
枢は濡れた衣を絞りながら、北の空を見据えた。
「慈悲なき賢者」の拠点は、この港町のさらに先、新大陸の心臓部である「聖山」に位置している。
港町の解放は、あくまで序章に過ぎない。
聖鍼師の旅は、真の黒幕との直接対決に向けて、いよいよ最終局面へと突入していく。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
時計塔からの決死のダイブ、いかがだったでしょうか。
枢さんの冷静な状況判断と、カザンさんの圧倒的なパワー、そしてリナの献身的な魔法。
パーティー全員の力が合わさって初めて、歌姫エレナを救い出すことができました。
今回登場した、カザンが背中で着水を受け止めるシーン。
仲間のために己の肉体を盾にする彼の姿は、まさにパーティーの「守護神」そのものですね。
次回、第99話は本日**【10:00】**に更新予定です!
束の間の休息と、エレナが語る「慈悲なき賢者」の真の名前。
そして、サロメが隠し持っていた「ある地図」が、一行の次なる進路を示します。
「カザンさん、漢気溢れすぎて惚れる!」
「エレナちゃんが喋った瞬間、自分も泣きそうになった……」
と思っていただけましたら、ぜひ**【評価(☆☆☆☆☆)】**やブックマークをよろしくお願いします!
10時の更新も、どうぞお見逃しなく!




