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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第二章:鋼鉄の帝国と腐敗の科学】

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第94話:魂の帰還、霧を裂く神鳴(かみなり)

おはようございます!


死者の軍勢に包囲された「忘却の森」。

痛みを知らず、ただ破壊を繰り返す肉体を前に、くるるたちは消耗を強いられます。


敵の医師ゼノが嘲笑う中、枢が導き出した「死者を眠らせる」ための広域治療とは。

そして、共に旅をするサロメの隠された「覚悟」が、戦場に一筋の光をもたらします。


金曜日の朝、一日の始まりにふさわしい逆転の物語をどうぞ!

 深い霧が立ち込める「忘却の森」は、今や阿鼻叫喚の地獄へと変じようとしていた。しかし、その叫び声は生者のものではなく、関節が軋み、肉が裂ける不気味な音だけが森に反響している。

 死体管理官・ゼノが操る死者の軍勢は、数百、数千という単位で霧の奥から這い出し、くるるたちを完全に包囲していた。


「……ハァ、……ハァ、……キリがねえぞ、枢! ……斬っても突いても、……一分後にはまたムクリと起き上がってきやがる。……これじゃ、……俺たちの体力の方が先に尽きちまうぜ!」

 カザンが槍を振り回し、迫りくる死者たちを弾き飛ばすが、その表情には隠しきれない疲労の色が滲んでいた。リナもまた、押し寄せる「負の気」を浄化し続けることで、魔力の枯渇に喘いでいる。


「……ふふ、……無駄な足掻きだよ。……私の『銀の糸』は、……この森の地下に張り巡らされた地脈から無限に魔力を供給されている。……君たちが一人の死者を眠らせる間に、……私は十人の死者を再起動させることができる。……さあ、……無力さを噛み締めながら、……私の最高傑作の一部になりたまえ」

 ゼノの嘲笑が、頭上の枯れ木から降り注ぐ。


 枢は翡翠眼ひすいがんを限界まで見開き、森の「気の流れ」を精査していた。

 ゼノの言う通り、個別の死体を治療していては間に合わない。この森全体が、巨大な「負の循環回路」と化しているのだ。ならば、その回路の「根源」を断ち切るしかない。


「……サロメさん! ……あなたの知識が必要です! ……この森の地脈、……魔力の供給源となっている『心臓』はどこにありますか!?」


 瓦礫の陰で震えていたサロメが、枢の叫びに顔を上げた。

「……あ、……あそこよ! ……あの折れた大銀杏の根元! ……あそこに『蛇の秤』が設置した、魔力増幅炉が埋まっているわ! ……でも、……あそこはゼノのメスが守る絶対防衛圏よ、……近づくなんて自殺行為だわ!」


「……なら、……私が道を作ります。……リナ、カザン、……全力を私に預けてください!」


 枢は往診バッグの底から、雷光のような紫の輝きを放つ「電光鍼でんこうしん」を取り出した。これは気を雷へと変換し、広範囲に伝播させる力を持つ秘蔵の一本。


「……カザンさん、……私をあの大銀杏の真上へ投げ飛ばしてください! ……リナ、……私の鍼に、……あなたの持つ全ての『清浄なる光』を収束させてください!」


「……正気かよ!? ……だが、……面白ぇ! ……俺の全力を、……その細い鍼に込めてやるぜ!」

「……枢さん、……絶対に、……負けないで……!」


 カザンが枢の身体を抱え上げ、全身の筋肉を爆発させて、大銀杏の空へと放り出した。

 同時に、リナの杖から放たれた純白の光が、枢の持つ電光鍼へと吸い込まれていく。

 宙を舞う枢の周囲を、ゼノが操る数百のメスが襲う。しかし、その瞬間、それまで静観していたサロメが立ち上がった。


「……私も、……『医師』の端くれよ! ……ゼノ、……あなたの身勝手な解剖劇……、私が幕を引いてあげるわ! ……劇毒注射――『中和の霧』!」


 サロメが壊れかけた注射器から放ったのは、殺傷力のない、魔力伝導を阻害する特殊な中和剤だった。それが空中で霧散し、ゼノのメスを操る「銀の糸」を一時的に鈍らせる。

 その一瞬の隙を、枢は見逃さなかった。


「……見えました! ……森の深部、……地脈の急所――『湧泉ゆうせん』!」


 枢が狙ったのは、大銀杏の根元、大地の気が地中から噴き出すポイント。

 ツボとしての『湧泉』は、足の裏に位置し、生命力の源泉が「湧き出る」場所を意味する。大地という巨大な生命体において、この場所は生命エネルギーを全身に供給するポンプの役割を果たしている。


「……聖鍼流、浄化術――『湧泉ゆうせん・天雷の洗礼』!」


 枢が空中で真っ逆さまになり、大銀杏の根元へと電光鍼を突き立てた。

 直後、リナの聖なる光と、枢の雷の気が混ざり合い、翡翠色の電撃となって森の地面を駆け巡った。


 バリバリバリィィィィン!!


 地中に張り巡らされていたゼノの「銀の糸」が、聖なる雷によって次々と焼き切られていく。魔力の供給を断たれた死者たちは、悲鳴を上げることもなく、ただ静かに、土へと還るための「重力」を思い出したかのように崩れ落ちた。


「……な、……馬鹿な……!? ……私の『不滅の庭』が……、たった一撃で……霧散しただと……!?」

 ゼノが驚愕し、木の上から転げ落ちる。

 霧が晴れ、雲の間から差し込んだ朝陽が、浄化された森を照らし出した。

 そこには、もう動く死体はいない。ただ、長い苦しみから解放され、静かに眠りについた人々の姿があった。


「……ふぅ。……間に合いましたね」

 着地した枢は、膝をつきながらも、清々しい表情で空を見上げた。


「……枢さん! ……カザン、サロメさん! ……勝ちました、……勝ちましたよ!」

 リナが駆け寄り、枢の手を取る。

 カザンもまた、槍を地面に突き立てて豪快に笑った。

「……カカッ! ……とんでもねえ荒療治だったが、……最高の気分だぜ、枢!」


 一方、敗れたゼノは、這いつくばりながら枢を睨みつけた。

「……く、……狂っている……。……死者を慈しみ、……敵さえも救おうとするその精神……。……だが、……覚えおけ。……『慈悲なき賢者』様は、……既に君の鍼のデータを全て解析し終えている。……次に会う時、……君のその鍼は、……自分自身の心臓を突くことになるだろう……!」


 ゼノはそう言い残すと、自らの身体を黒い霧へと変えて消え去った。


「……自分自身の心臓、……ですか」

 枢は自身の神鍼を見つめ、静かに呟いた。

 新大陸の支配者「慈悲なき賢者」。その魔の手は、枢が想像もしなかった「精神の病」という形で、一行に忍び寄ろうとしていた。


 しかし、枢の隣には、かつての敵であったサロメが、不器用ながらも治療の手伝いを始めている。

 聖鍼師の物語。

 繋がっていく命の灯が、一歩ずつ、巨大な闇を照らし始めていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


「忘却の森」の決戦、完結です。

くるるさんの勇気、カザンの力、リナの祈り、そしてサロメの「一歩」。

四人の力が合わさった時、死の地獄が聖なる安らぎへと変わりました。


今回登場した**『湧泉ゆうせん』**。

足の裏にあるこのツボは、まさに「生きる意欲」を湧き出させる源です。枢さんは森全体を一つの生命体に見立て、その根源を浄化することで、呪縛を打ち砕きました。


次回、第95話は本日**【12:00】**に更新予定です!


森を抜けた先、枢たちを待っていたのは、新大陸最大の「港町」。

そこで流行しているのは、薬も鍼も効かない「心が凍る病」でした。


「サロメさん、ついに仲間(?)になった!」

「枢さんの空中ダイブ、めちゃくちゃ熱かった!」


と思っていただけましたら、ぜひ**【評価(☆☆☆☆☆)】**やブックマークをよろしくお願いします!

お昼の更新も、どうぞお見逃しなく!

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