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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第二章:鋼鉄の帝国と腐敗の科学】

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第91話:黄金の墜落、空駆ける救済の鍼

お読みいただきありがとうございます。


黄金の翼を広げ、神を自称するミダス王。

圧倒的な魔力の奔流を前に、くるるはカザンの槍とリナの祈りを翼に変え、決死の跳躍を見せます。


豪華絢爛な地獄と化したエルドラドの上空で、聖鍼師が挑むのは、王の心臓に突き刺さった「傲慢という名の楔」。

救えなかった過去、届かなかった手のひら……その全ての悔恨を力に変え、枢の一刺しが空を貫きます。


木曜日、お昼の更新。黄金の空を駆ける、命の軌跡をどうぞ!

 「太陽の玉座」の天井が崩落し、吹き抜ける強風と共に、黄金の魔力が渦巻く空が露わになった。ミダス王の背中から展開された八枚の黄金翼は、周囲の光を全て吸い込み、都全体を覆い尽くさんばかりの威圧感を放っている。彼はもはや人の形を捨て、巨大な「金の鳥」へと変貌しようとしていた。


「……見よ、枢君! ……この翼こそが、人類が数千年かけて夢見た『不朽の象徴』だ! ……重力からも、病からも、そして寿命からも解き放たれた、究極の進化形……。……君の鍼が、この高みに届くとでも思っているのかね!?」


 ミダスが翼を羽ばたかせると、無数の黄金の羽が、弾丸のような速度で地上へと降り注いだ。一本一本が触れたものを瞬時に金へと変質させる、死の雨。


「……カザンさん! ……リナ! ……私を、あの方の元へ飛ばしてください!」

 くるるの叫びに、二人は迷うことなく動いた。カザンが槍を逆手に持ち、枢の足を乗せるための台座を作る。リナは全ての魔力を「飛行の加護」へと変換し、枢の身体を羽のように軽くした。


「……行け、枢! ……お前の往く道は、この俺が死んでも守り抜いてやる!」

「……枢さん、……信じています! ……皆の命を、……返してあげてください!」


 カザンの咆哮と共に、枢の身体は砲弾のように上空へと打ち出された。黄金の羽が枢を切り裂こうと迫るが、リナの聖域がそれを弾き、カザンの槍の残光が枢の進路を切り拓く。

 枢の翡翠眼ひすいがんは、激しく羽ばたく黄金翼の付け根、ミダスの背中の中心に、異様なほど不吉な「気の渦」が溜まっているのを見抜いていた。


「……見えました。……ミダス王。……あなたは自由になったのではない。……その翼を維持するために、……自分自身の『呼吸』さえも、……黄金の魔力回路に売り渡してしまったのだ!」


 枢が狙うのは、背中の中心、肩甲骨の間にある**『霊台れいだい』**。

 ツボとしての『霊台』は、督脈とくみゃくに属し、文字通り「たましいうてな」を意味する。ここは心の病を鎮め、呼吸を整えるだけでなく、過剰なエネルギーによって「暴走した自我」を落ち着かせるための、生命のブレーキとも言える要穴だ。


 枢は空中で自身の往診バッグから、これまで一度も実戦で使ったことのない、純白の「氷晶鍼ひしょうしん」を取り出した。それは新大陸の万年雪の下で育った霊木から削り出されたもので、極限の冷却効果と、荒れ狂う気を一瞬で「凍結・沈静」させる力を持つ。


「……聖鍼流、天空術――『霊台れいだい・雪月花の鎮魂』!」


 黄金の翼が枢を叩き潰そうと迫るが、枢は空中で身を翻し、翼の隙間を縫うようにしてミダスの背後へと回り込んだ。彼の指先が、黄金の回路が剥き出しになったミダスの背中に、一点の迷いもなく氷晶鍼を突き立てた。


 チリッ、という、冷たい音が響いた。

 直後、ミダスの全身を流れていた灼熱の黄金魔力が、鍼を起点として急速に凍結し始めた。


「……な、……なんだ……、この……冷たさは……!? ……私の、……私の不滅の魔力が……凍り付いて……動かん……!?」

「……霊台は、魂が休息するための聖域です。……ミダス王。……あなたは、……あまりに長く走りすぎ、……あまりに多くの命を飲み込みすぎた。……その翼を、……一度休ませる時が来たのですよ」


 氷晶鍼から放たれた翡翠色の冷気が、ミダスの黄金翼を内側から粉砕していく。翼の破片がキラキラと光りながら、都の空を舞い落ちる。それは残酷な「黄金の雨」ではなく、呪縛から解き放たれた「光の雪」のようだった。


「……ぐ、……あああぁぁぁっ!! ……私は、……私は……ただ……、失いたく……なかっただけだ……。……愛する者たちが、……老いて、……消えていくのを……」


 ミダスの瞳から、狂気が消え、深い孤独の色が滲み出した。

 彼は黄金病を広めることで、誰一人として死なない世界、誰も自分を置いていかない世界を作ろうとしていたのだ。だが、その願いは「独占」という歪んだ形へと変質し、国全体を死の沈黙へと追い込んでしまった。


 翼を失ったミダスと枢は、ゆっくりと、崩落した玉座の間へと落下していく。

 枢は落下しながらも、ミダスの胸に手を添え、彼の乱れた鼓動を懸命に整えようとしていた。


「……わかっています、ミダス王。……大切な人を救いたいという願いは、……医者にとっても、……一人の人間にとっても、……最も純粋な願いです。……でも、……死を拒絶することは、……生を拒絶することと同じなのです。……今こそ、……その重荷を……降ろしてください」


 ドサリ、という音と共に、二人は瓦礫の山へと着地した。

 ミダスの身体を覆っていた黄金は全て砕け散り、そこには、あまりにも小さく、年老いた一人の男が横たわっていた。


 都の空を覆っていた黄金の雲が晴れ、本当の太陽の光がエルドラドを照らし出す。

 黄金の像となっていた人々が、一人、また一人と、温かな肌の色を取り戻し、深い眠りから覚醒していく。


「……お見事でした、……枢先生」

 瓦礫の影から、満身創痍のサロメが姿を現した。彼女の手にあった巨大な注射器は壊れ、その表情には、憑き物が落ちたような静かな笑みが浮かんでいた。


「……ミダス様の孤独を、……その一本の鍼で、……あなたは本当に『治療』してしまったのね」

 戦いは終わった。

 だが、枢の翡翠眼は、遠く北の空……蛇の秤の本拠地である「大蛇の塔」から、さらに巨大な、そして悍ましい「殺意」がこちらへ向けられているのを感じ取っていた。


 ミダス王は、あくまで『蛇の秤』の一つの駒に過ぎなかった。

 この大陸を真に蝕む「病の源流」は、まだその深淵に潜んでいる。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


エルドラド上空での決戦、いかがだったでしょうか。

ミダス王の抱えていた「孤独」と、それを真っ向から受け止めたくるるさんの「聖鍼」。

命を金に変えるという狂気は、実は「誰も失いたくない」という切実な願いの裏返しだった……。

救済の形は一つではないという、本作の重要なテーマを描いてみました。


今回登場した**『霊台れいだい』**。

背骨の上にあるこのツボは、まさに心の暴走を抑えるための聖域です。枢さんはここに氷のような静かな気を流し込むことで、王の野望を「眠らせ」、一人の人間に戻しました。


次回、第92話は本日**【18:00】**に更新予定です!


エルドラドの復興、そしてサロメが語る「蛇の秤」の真の支配者。

新大陸編は、さらにスケールを増して加速していきます!


「王の最期の言葉に、少しだけ共感してしまった……」

「枢さんの空中往診、格好良すぎる!」


と思っていただけましたら、ぜひ**【評価(☆☆☆☆☆)】**やブックマークをよろしくお願いします!

午後の更新も、どうぞお見逃しなく!

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