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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第二章:鋼鉄の帝国と腐敗の科学】

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第88話:黄金の沈黙、歪んだ救済

お読みいただきありがとうございます!


黄金の馬車に揺られ、霧の向こうに現れたのは、太陽の光を反射して輝く伝説の都、エルドラド。

しかし、その眩い輝きの正体は、人々の命を削って作られた「死の宝石」でした。


身体が金へと変わる奇病に対し、さらなる毒を処方する組織「蛇の秤」。

聖鍼師の眼が、都を覆う巨大な「誤診」を暴きます。


水曜日夕方の更新です。新大陸の闇の深淵へ、ようこそ。

 霧が晴れた瞬間、リナは思わず目をごしごしと擦った。目の前に広がる光景は、帝都のどの宮殿よりも豪華で、どの聖堂よりも神々しい輝きを放っていたからだ。建ち並ぶ家々の壁は純金で塗り潰され、街路樹の葉一枚にいたるまで、夕陽を浴びて黄金色の火花を散らしている。だが、馬車が都の門をくぐり、その「街」の中へと足を踏み入れた途端、リナの感嘆は凍りつくような恐怖へと変わった。


「……これ、……全部、……人なの……?」

 リナの震える指の先、広場の中心には、美しく精緻な黄金の像が立ち並んでいた。楽しげに談笑する親子、荷物を運ぶ商人、祈りを捧げる老女。それらは一見すると芸術品のようだが、その表情には生身の人間が持つはずの、隠しきれない「絶望」と「窒苦」が刻まれていた。


「……リナ、近寄ってはいけません。……それらは像ではなく、……黄金病の末期症状に陥った、この都の民の成れの果てです。……身体の全細胞が金へと置換され、意識を持ったまま思考を封じられ、永遠の沈黙に沈んだ……生きたままの墓標ですよ」


 くるるの声は、これまでにないほど冷たく、そして鋭かった。彼の翡翠眼ひすいがんは、黄金に変わった街全体から、絶え間なく「生命の残響」が吸い上げられ、都の北にそびえる巨大な蛇の塔へと集約されているのを見抜いていた。


「……フン、……悪趣味な街だ。……金ピカすぎて鼻が曲がりそうだぜ。……枢、……見てみろ。……あそこで蠢いている連中も、……半分以上が金に侵されていやがる」

 カザンが指差す先、まだ「動いている」民たちも、その肌は不自然な金属光沢を帯び、関節を動かすたびにキィキィという不気味な軋み音を立てていた。彼らは虚ろな瞳で、街の角に設置された「給薬所」へと列をなしている。


「……さあ、……救済の時間だ。……『蛇の秤』が贈る、……至高の延命薬を受け取るがいい。……これを飲めば、……痛みは消え、……魂は永遠の輝きへと近づく……」


 給薬所で白い仮面を被った医師たちが配っているのは、ドロリとした金色の液体だった。それを飲んだ民は、一瞬だけ頬を紅潮させ、恍惚の表情を浮かべるが、直後、その肌の金化はさらに一段と進行し、動きが鈍くなっていく。


「……あ、……ありがとうございます、……先生。……これでまた、……明日も働けます……。……我が家を金に変え、……王に捧げるために……」


 その光景を見て、枢の握りしめた拳が微かに震えた。

「……何という、……残酷な処置を。……あれは延命薬などではない。……金化のプロセスを一時的に神経麻痺で隠し、……代わりに命の燃焼を加速させる『劇薬』だ。……あの方たちは、……自分の命を燃やして金を作り出し、それを奪われていることにすら気づいていない」


「……あぁら。……余計な口出しは困るわね、……迷い込んだ野良犬さん?」


 不意に、頭上から鈴を転がすような、艶やかな声が降り注いだ。

 給薬所の屋根の上に立っていたのは、真紅のナース服を纏い、背中に巨大な「注射器型」の魔導砲を背負った女性。彼女の瞳は蛇のように細く、その唇には毒々しいほどの紅が引かれていた。

 『蛇の秤』の幹部医師、通称「劇毒のサロメ」。


「……ヘイズ様が目をかけていた聖鍼師って、……もっと屈強な男かと思っていたけれど。……案外、……可愛らしいお顔をしているのね。……ねえ、……あなたのその綺麗な瞳も、……私の黄金薬で美しく塗り潰してあげましょうか?」


 サロメが巨大な注射器を構えると、その先端から黄金色の高圧液体が、弾丸のような速度で枢へと放たれた。


「……リナ、カザン! 下がれ! ……これは触れてはいけない!」

 枢は叫びながら、瞬時に往診バッグから「なまりの防護鍼」を五本取り出し、自身の周囲の空間に、目に見えない気の結界を展開した。黄金の液体は枢の結界に触れた瞬間、激しい煙を上げ、大理石の床をドロドロの金へと変質させていく。


「……サロメさん。……あなたの処方は、……患者を救うためではなく、……ただの採掘作業だ。……私は、……これほどまでに醜い医療を、……医学と呼ぶことはできません」


「……ふふ、……醜い? ……何を言うのかしら。……金は永遠、……金は絶対。……死にゆくゴミのような命が、……こうして美しい価値ある金に変わる。……これ以上の『救済』がどこにあるというの?」


 サロメが狂気に満ちた笑声を上げ、次々と黄金の弾丸を乱射する。周囲の民たちが巻き込まれそうになるのを見て、枢は決断した。この女の暴走を止めるには、その「歪んだ認識」を司る中枢を、直接叩くしかない。


「……聖鍼流、鎮圧術――『光明こうめいの審判』!」


 枢はサロメの放つ弾幕の隙間を、流れるような歩法で潜り抜けた。彼の狙いは、サロメの眉間の少し上……「第三の目」とも呼ばれる**『印堂いんどう』**。


 ツボとしての『印堂』は、精神を落ち着かせ、邪念を払い、視界を明瞭にする「鎮静」の要穴。枢はそこに、一点の迷いもない気の衝撃を鍼と共に打ち込もうとした。


「……サロメさん! ……その狂った夢から、……一度、……真っ当な現実へ戻りなさい!」


 枢の鍼がサロメの額に届こうとしたその時、彼女の背後の空間が歪み、巨大な黄金の盾が現れて鍼を弾き返した。


「……そこまでだ、サロメ。……王が、……その鍼師を謁見の間に連れてくるよう仰せだ。……遊びは終わりにしろ」


 現れたのは、全身を黄金の鎧で固めた、寡黙な巨漢の戦士。

 サロメは不満げに舌を打つと、注射器を肩に担ぎ直した。

「……ちっ、……お堅い騎士様のお出ましね。……わかったわよ。……ねえ、……聖鍼師。……王の前で、……あなたのその『貧乏臭い鍼』がどこまで通用するか……、楽しみに見物してあげる」


 枢は弾かれた鍼を静かに拾い、サロメと黄金の騎士を真っ向から見据えた。

「……ええ。……私も、……あなたの国の王が、……どれほどの『重病』を患っているのか、……この目で確かめさせていただくとしましょう」


 黄金の都の深部、玉座の間への招待。

 それは救済への第一歩か、あるいは、生きた彫像への片道切符か。

 枢の往診は、かつてない規模の「死」が渦巻く、エルドラドの核心部へと突き進む。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


ついにエルドラドに到着したくるるさん。

そこで目にしたのは、美しくも残酷な「黄金の地獄」でした。

新たな敵「サロメ」の歪んだ医療観に対し、枢さんの怒りが静かに燃え上がります。


今回登場した**『印堂いんどう』**。

眉間にあるこのツボは、ストレスや不眠に効くだけでなく、頭をスッキリさせて判断力を高める効果があります。狂気に走るサロメを「正気」に戻そうとした枢さんの選択、彼らしい優しさ(と厳しさ)が表れていましたね。


次回、第89話は本日21:00に更新予定です!


黄金の王との対面、そして明かされる「黄金病」の真の目的。

枢を待ち受けるのは、王を治療することではなく、ある「究極の選択」でした。


「サロメのキャラ、濃すぎて怖い!」

「街の人たちが金に変わる描写、ゾクゾクした……」


と思っていただけましたら、ぜひ**【評価(☆☆☆☆☆)】**やブックマークをよろしくお願いします!

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