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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第二章:鋼鉄の帝国と腐敗の科学】

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第87話:仮面の招待状、死にゆく黄金郷

お読みいただきありがとうございます!


泉の怪物を討ち、村人たちを悪夢から救い出したくるる

しかし、そこで見つけた「謎の紋章」が、さらなる巨大な陰謀を予感させます。


平和を取り戻したはずの村に現れた、不気味な仮面の使者。

彼らが聖鍼師に求めたのは、一国の運命を左右する「絶望の往診」でした。


水曜日、お昼の更新です。新大陸編、物語が大きく動き出します!

 「不眠の眠り」から解放された村には、ようやく本当の朝が訪れていた。ルネの父親をはじめ、村人たちはまだ足取りこそおぼつかないものの、互いの生存を確かめ合い、涙を流して喜び合っている。泉の濁りは消え、清らかな水が再び地脈を潤し始めていたが、くるるの心は晴れなかった。彼の手の中にある、砕けた魔導結晶の欠片に刻まれた「蛇とはかり」の紋章が、不気味な冷たさを放っていたからだ。


「……カザン、リナ。……この紋章、やはりヘイズ博士のものではありません。……魔力を効率的に吸い上げるための術式が、より残酷に、より生物的に洗練されている。……まるで、誰かがヘイズの失敗を嘲笑い、その先へと至ったかのような……」

 枢が眉をひそめて呟いたその時、村の入り口を包んでいた霧が、不自然なほど左右に割れた。


 カザンが瞬時に槍を構え、枢の前に出る。

 霧の向こうから現れたのは、黄金の装飾が施された、異様なほど背の高い馬車だった。それを引くのは、生きている馬ではなく、魔導回路が露出した半機械の「骨馬」。そして馬車を操る御者も、顔全体を真っ白な仮面で覆い、一言も発さぬ不気味な沈黙を纏っていた。


「……何だ、あいつらは。……死人のような気配だが、命の灯が消えているわけでもねえ。……枢、こいつら、まともな生き物じゃねえぞ」

 カザンの言葉通り、仮面の男たちからは感情の揺らぎが一切感じられない。彼らは村の広場で馬車を止めると、優雅な動作で枢に向かって一礼し、一本の巻物を取り出した。


「……『救世の聖鍼師』、枢殿とお見受けする。……我らは、黄金の都『エルドラド』を統べる賢王の使者。……我が国の王、および十万の民を蝕む『黄金病』を治癒していただきたく、こうして往診の依頼に参った次第」


 仮面の奥から響く声は、抑揚のない機械的なものだった。だが、彼らが口にした「黄金病」という言葉を聞いた瞬間、リナの顔が真っ青になった。


「……黄金病!? ……まさか、……身体が少しずつ黄金の結晶へと変わっていき、最後には生きた彫像となって砕け散るという、あの伝説の奇病ですか!? ……あれは、数百年前に根絶されたはずじゃ……」


「……リナ、知っているのですか?」

「……はい。……教会の禁書録に記されていました。……原因不明、治療法なし。……ただ一つ分かっているのは、それが『過剰な繁栄と強欲が生み出す呪い』と呼ばれていたことだけです」


 枢は仮面の使者が差し出した巻物を、静かに受け取った。

 巻物を開いた瞬間、枢の翡翠眼ひすいがんに飛び込んできたのは、文字ではなく、そこに残留している「気の記憶」だった。苦悶に歪む人々の声、そして、黄金の輝きの中に閉じ込められた魂の悲鳴。それは先ほど解決した「眠れる村」の事件とは比較にならないほど、広大で根深い「世界の膿」そのものだった。


「……なるほど。……あの泉の怪物は、この黄金病を広めるための『苗床』に過ぎなかったわけですね。……ヘイズ博士が求めた不老不死の成れの果て、それが黄金の結晶化による、偽りの永劫……。……使者の方、一つ伺いたい。……この病を広めているのは、……あなたの国で『医師』と呼ばれている者たちではありませんか?」


 枢の鋭い指摘に、仮面の御者は僅かに身じろぎした。

「……左様。……我が国の魔導医師連盟、通称『蛇のスネーク・スケイル』。……彼らは王を救うと称して、民に高価な黄金薬を与え続けている。……だが、薬を飲むほどに、病の進行は早まっているのが現状……」


 「蛇の秤」。

 枢が手にしていた欠片に刻まれた紋章と同じ名。

 ヘイズ博士が遺した歪んだ医学を継承し、さらに独自の進化を遂げさせた、新大陸を牛耳る闇の医療組織。彼らは病を治すのではなく、病を管理し、命を「黄金」という資源へと変換することで、国家そのものを巨大な牧場に変えようとしているのだ。


「……行きましょう、エルドラドへ。……十万の民が黄金の彫像にされる前に、……私の鍼で、その強欲の回路を断ち切らなければならない」


「……枢さん、……でも、それは罠かもしれません! ……彼ら、……枢さんの力を利用しようとしているだけでは……」

 心配するリナの肩を、枢は優しく叩いた。

「……罠であっても構いません、リナ。……患者さんがそこにいて、……私にしか聴こえない悲鳴があるのなら、……私は医者として、そこへ行く責任があります。……それに、……エルドラドには、ヘイズ博士が最後まで辿り着けなかった『医の真実』が隠されている予感がするのです」


「……カカッ! ……そう来なくっちゃな。……黄金の都か、……俺の槍でその金ピカの皮を剥いでやるのが楽しみだぜ!」

 カザンが不敵に笑い、槍を馬車へと積み込んだ。ルネと、ようやく目を覚ました村人たちに見送られ、枢たちは黄金の馬車へと乗り込んだ。


 馬車が走り出すと同時に、周囲の霧が再び深まり、景色が歪み始める。

 向かう先は、新大陸の心臓部。

 美しき呪いに彩られた、死にゆく黄金郷。


 枢は馬車の中で、自身の「神鍼しんしん」を静かに磨き始めた。

 次なるツボ、そして次なる治療。

 それは、一人の人間ではなく、一つの「国家」を往診するという、聖鍼師としての未踏の領域への挑戦であった。


「……待っていてください、エルドラドの民よ。……黄金よりも尊い、……『命の輝き』を、……必ず取り戻して差し上げます」


 馬車の車輪が、不吉な音を立てて荒野を突き進む。

 聖鍼師・枢の往診記。

 物語は、新大陸を揺るがす「黄金病編」へと、急加速していく。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


平穏を取り戻した村に現れた、不気味な黄金の馬車。

ついに新大陸編の大きな軸となる、謎の組織「蛇の秤」と、伝説の奇病「黄金病」の名が明かされました。

ヘイズ博士の遺産を継ぎつつ、さらに残酷な形で命を弄ぶ者たち。

くるるさんが挑むのは、十万の民を救うという、かつてない規模の往診となります。


今回はツボの描写こそありませんでしたが、枢さんが「気の記憶」を読み取るシーンで、その医術がさらに高みに達していることが示唆されましたね。

次なる舞台、黄金の都エルドラドで、どんな驚愕の展開が待っているのか。


次回、第88話は本日**【18:00】**に更新予定です!


黄金の都に到着した枢を待っていたのは、豪華な宴ではなく、生きたまま黄金に変わっていく民の嘆きでした。

そして、枢の前に「蛇の秤」の第一刺客が立ちはだかります!


「国家規模の往診……! 枢さん、どんどん凄くなっていく!」

「蛇の秤の紋章、ヘイズの時より禍々しそう……」


と思っていただけましたら、ぜひ**【評価(☆☆☆☆☆)】**やブックマークをよろしくお願いします!

午後の更新も、どうぞお楽しみください!

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